3-3(表) P.M.4:55
「いらっしゃいませ。こちらでお召し上がりでしょうか?」
「はい、コーヒーSサイズでお願いします」
ファーストフード店で注文したコーヒー一杯を受け取り、店の入口の盗み見に最適な席に座る。
とりあえず、持久戦の覚悟を求める電話を紙屋優太郎に行う。
『本当に友人使いが荒いな!』
優太郎の喚きを適当に聞き流している最中に、見覚えのある女の子が入店してきた。
暗視スコープの灰色画像でだが、顔は覚えているので間違いはない。天竜川でお馴染みの魔法少女、サツキと自称していた少女がファーストフード店に現れた。
「……間違いない、彼女だ」
『――は? もう現れたのかよ』
俺がファーストフード店に訪れて僅か十五分。
タイミングが良過ぎて、やや拍子抜けだ。あれだけ運任せな招待状を贈った割に、あっさりと物事が進み過ぎている。レベルアップの恩恵だとすれば、改めてステータス上昇の馬鹿さ加減に呆れてしまう。
『魔法少女とやらが単純に聡いだけだろ。お前と違って』
魔法少女は注文したポテトを携え、俺に背を向けて席に座る。位置的な優位性以上に、彼女がポテトを熱心に食べているお陰で、魔法少女を横目で観察するのは容易だ。
思えば、深夜の川辺でばかりで目撃していたため、当たり前な場所で魔法少女を発見してしまうと違和感を覚えてしまう。赤いアウターを着込んでいるが――紅袴と同系色の服だというのに――、ただ似合っているだけで魔法少女としての奇抜さが皆無だ。
本当に、どこにでもいそうな年下の少女にしか見えない。
「後ろ髪は背中の中心ぐらいまで伸びて、枝毛もない。丁寧に整えている。今時の子とは趣の異なる可愛らしさがあるな」
『おもいっきりストーカーな発言だな。てか、なんで髪ばかり褒める? 趣味か?』
「いや、単純に背中を向かれているからだって。顔はこの後確認してくれ」
三駅隣の街のネット喫茶店で下準備を行ってもらっている紙屋優太郎に、そろそろ動くと伝える。
優太郎には、本日の魔法少女とのネットチャットルームを使った会談の企画、備品購入、設置と全面的な協力を要請した。彼はそれを友達だからという理由だけで、嫌な顔ひとつ見せずにやり遂げてくれる。流石は俺の友人というところだろう、心の出来が違う。
『いや、これ携帯だから。お前今日大学来てなかったから、顔なんかどうやって見せるんだ』
魔法少女がトレーを机に置いたまま席を離れていく。
俺を誘い出すフェイントかと思われたが、追加注文のために立っただけのようだ。レジ付近で何が販売されているのか分かり難いメニュー表と睨めっこしている。これが魔法を使った罠だった場合は、素直に諦めるしかない。
俺はトレーの下に二枚の紙、優太郎がいるネット喫茶店のクーポン券とそこに至るまでの電車切符をトレーの下側に隠してから立ち上がる。
意図的に魔法少女の席を経由するルートでゴミ箱に向かい、魔法少女の席を横切る際に二枚の紙を置いた。そのまま澄ました顔で歩行を続ける。
コーヒーの入っていた紙コップに液体が残っていない事を確認してから、ゴミ箱に捨てていく。
俺がファーストフード店の外に出たのと、紙コップを持った魔法少女が席に戻ってきたのはほぼ同時だった。




