20-2 降り注ぐ光の柱
跳び起きた秋が皆を起している間にも、奇襲の第二波が天空から落ちてくる。次の落下予測地点は、皐月の部屋だ。
逸早く動いたのは浅子だった。まったく眠っていない浅子は血走った目を光らせつつ、窓を全開にして防御魔法を展開する。
「――氷結、隔絶、絶対防御、氷防壁ッ。兄さん、兄さん、兄さん、兄さん――」
光の柱の形をした敵の質量魔法は、浅子が作り上げた氷壁に衝突して粉々になる。四節魔法である氷壁はヒビが生じていたが、もう二、三撃であれば耐えられそうだ。
しかし、第二波とほぼ同時に別角度から落下してきていた第三波が、庭に直撃してクレーターとなる。道路と私有地を区分する壁が庭側に倒壊していった。
「ああああーーッ、まだ父さんのローン残っているのに! 二世代ローンになったらどうするつもりなのよッ!」
目覚めたばかりの皐月は、窓から身を乗り出して被害規模を確認する。ローンの心配をしていられるのは、両親の健在を『魔』で察知しているからである。
「遠距離魔法による襲撃みたいです! あ、またッ」
今度は三本同時に光の柱は落ちてきている。皐月と来夏で二本までは迎撃できたが、残り一本が玄関の屋根を突き破って爆音を上げた。
「ちょっとっ!? ラベンダーも手伝ってよッ」
「――ごめん」
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“ステータス詳細
●力:13 守:26 速:22
●魔:102/126
●運:1”
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秋は昨日よりもまた少し減っている『魔』を確認しながら、俯いてしまった。
事情を知らない皐月は秋に詰め寄ろうとするが、次なる攻撃を察知したため諦める。フード付きのパジャマ姿のまま窓から屋根に乗り移って、高射砲となって火の玉を連発し始めた。
裸足の冷たさに唸りつつ、皐月は呪文の合間に戦闘方針を決めていく。
「秋が駄目なら、防衛は私と浅子で担当する!」
「皐月、お母さんとお父さんがドアを叩いているですッ」
「――発火、発射、火球撃ッ。朝食はいらないって言っておいてッ」
「ハッ! 兄さんの危機を感じる!?」
「私達の方が危機だと自覚してよ、浅子!」
「皐月、味噌汁が冷めるから早く出てくるですってお母さんがッ」
「――発火、発射、火球撃ッ。パンの気分なのよッ!」
「ごめん……私は、『魔』を消費できない」
「なんで秋の声震えているよッ。家が壊されて泣きたいのは私よッ」
「皐月、家のローンは心配するなとお父さんがッ」
「来夏は伝令していないで、親は魔法で眠らせてベッドに置いといてッ!」
目覚めて五分も経過していない少女達の脳は血の巡りが悪く、酷く浮き足立っていた。敵魔法の迎撃を皐月私室に落ちてくる物に限定して、どうにか凌いでいる状況だ。
長く続いた光の柱の落下が停止して、少女はようやく対策について考え始める。
「敵の攻撃には見覚えがあるわねえ。勇者パーティーにいた、長髪のインテリっぽい男の魔法で間違いない」
空を見上げつつ皐月は断定する。奇襲を仕掛けているのは、昨日通学路に現れた敵で間違いない。
「勇者が殴りこんでくるものだとばかり思っていたけど、警戒網の外からの遠距離攻撃を使ってくるなんて」
「どうするです。皐月?」
「敵の居場所を察知して反撃したいところだけど、勇者が待ち構えていたら悲惨だからやらない。篭城しても意味はない。防衛しながら撤退しましょう」
皐月は二手に分かれる作戦を提案する。
家に留まって敵の次の攻撃を防ぎ続ける魔法使い二名と、逃走経路を確保するための魔法使い二名。後者の二名は避難先の安全を確かめるため、直ぐに皐月実家から逃走する。
「どちらが安全とは言えないけど、敵とエンカウントする可能性がある脱出組に私は参加するから」
「……いえ、皐月は防衛組です。ご両親を守る役目を他の誰かに任せるべきではないです。代わりに私が行くです」
来夏の代案は受け入れられ、皐月は実家防衛組のリーダーに就任した。それぞれの組のパートナーは自動的に確定する。
「なら、魔法は使えるけど実用に耐えない浅子は防衛組で居残り。魔法を何故か使わないラベンダーは逃走組。これで良い?」
戦力的な偏りをもう少し検討するべく、作戦会議は続けられるべきだった。が、敵の攻撃が再会されたたため、皐月は呪文詠唱に集中し始めた。
近接戦闘に不安のある来夏は魔法を渋る秋と組むべきではなかったかもしれない。とはいえ、防衛組の方に第三勢力としてモンスターが登場した場合、レベル70以下の皐月と秋では対処ができない。
来夏と秋の組み合わせは最善ではないにしろ、悪くはなかった。
「皐月、御影にはどう報告するですか?」
『――発火、発射、火球撃ッ! こんな時まで意地は張らないから、勝手に呼んでおいて!』
皐月の許可を得た来夏はスマートフォンの電話帳から“御影”を選択する。
『――どうした、来夏。こんな朝一から?』
ワンコールで繋がったので、これからの行動を伝えて合流しようと伝えた。
「御影! 皐月の家が襲撃されたです。私と秋でセーフハウスに先行するですが、問題ないですか?」
『――いや、セーフハウスに逃げ込んでも好転しない。○●公園まで来てくれ』
「公園? そこに行けば策でもあるですか?」
『――ああ、任せておけ』
○●公園は山沿いにある公園だ。遊具はないが、土地面積は広い。ボール遊びもできるが戦場としても使えなくはない。
御影との通話はいつの間にか切れいてた。
特に不審がらず、来夏は目的地を皐月達に告げて一階に下りていく。
秋の手を引きながら、来夏は裏口からこっそりと脱出した。




