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18-4 テンプレート・エルフ

 縛ったエルフ女をギリースーツで覆ってから、俺は下山を開始していた。遠目には刈り取った雑草の束を担いでいる不審者にしか見えず、気絶した美女を誘拐しているようには見えないだろう。

 程度の問題である。

 ロバ耳女……失礼、雑草を片手で支えながら難儀して携帯電話を取り出すと、着信履歴が物凄い事になっていた。


『――御影ッ、さっき発砲音が聞こえたですが、何やっているですかッ!』

「すまない。昨日襲ってきた勇者パーティーの一人が校舎を狙っていたから、奇襲を仕掛けて捕虜ほりょにした。偶然見つけたに等しいから、けっこう危なかったな」


 魔法なしの弓矢による狙撃を、魔法少女が感知できたとは思えない。今日は来夏に同行して良かったと心底思う。

 落ちそうになった背中の荷物を乱暴に扱いつつ、携帯電話越しに指示を飛ばす。この雑草、軽いけど、足がすらりと長くて重心がズレ易い。


「勇者本人が仲間を助けに現れる可能性がある。この際、もう無理やりになっても仕方がないから、来夏はラベンダーを連れて退避してくれ」


 来夏とラベンダーには、下山する俺とは別行動を取ってもらう。

 雑草を担いでいる俺の方が、今は狙われる可能性は高いのだ。リスクは分散させておきたい。


「どうも勇者は魔法使いを捜し当てるのがうまい。魔法による隠匿いんとくが効かない可能性が高いが、俺が捕虜から情報を聞き出すまでは皐月達と一緒に待機していてくれ」

『御影はもう少し魔法使いを頼るべきです! 自分勝手が過ぎるです!!』

「頼っているから、ラベンダーは来夏に任せているだろ。頼んだぞ」


 やや強引に通話を止め、本格的な移動を開始する。

 勇者レオナルドは単純そうな頭の持ち主だったので、仲間を捕らえられた事に怒り狂って襲ってくると予測される。俺はその前に、勇者攻略のための情報を得なければならないだろう。

 本当は今夜夕飯作りに現れる桂に期待していたのだが、せっかく生け捕りにできたのなら、背中の雑草からであっても何も問題はない。


「ホームセンターに寄って帰るか。ガムテだと引き千切られても嫌だから、鎖ぐらいは購入しておいて――」


 電動ドリルは必要ないだろう。別に拷問するつもりではない。




「くッ、殺せッ!」


 ロバ耳女を捕らえてから、かれこれ数時間。思っていたよりも長く気絶していて、目を覚ますか心配になってきた午後二時。

 俺に向かって最初に放たれた言葉が、先のテンプレである。オーク死ね。


「そう生き急ぐなよ。まずは自己紹介しないか?」

「声……人間族かッ! 卑怯な方法で森の種族を捕らえたぐらいで、いい気になるなッ」


 目覚める前にホームセンターへと出向いて、拘束用の道具を購入しておいて正解だった。美人の姿をしているが、このロバ耳は猛獣と変わらない。

 両脚はそれぞれ鎖を巻いて別々の柱に固定している。

 両腕は背中に回して、一緒にして鎖で巻きつけてある。こういうパターンでありがちな見えない場所での工作を完全に阻止するため、左右の手を合掌させて、指も一本ごとに粘着テープでグルグルと巻いてある。

 胴回りは、バイクを駐車する際に使用される盗難防止チェーンで鉄筋に固定した。チェーンという商品名は謙虚が過ぎる商品で、パーツが延べ棒みたいな合金でできている。

 ギルクレベルの馬鹿力があればどれもこれも役立たないだろうが、今のところロバ耳女が逃げ出す様子はない。


「落ち着け、ロバ耳」

「ロバ!? 種族の象徴を家畜と一緒にするなッ」

「自己紹介していないのだから、こう呼ぶしかないだろう」

「敵に語る名前などあるか!」

「なら勝手にニックネームで呼ぶぞ。ロシナンテ」

「このッ、まずは目を覆っているものを外せ!」


 仮称ロシナンテがわめく通り、彼女の目はアイマスクでふさがれていた。

 今の俺を他人に見られたら、悪の組織の幹部アサシン・マスクと間違われそうだ。仮称ロシナンテは囚われたヒロインっぽい見た目ではあるし。

 アイマスクをさせたままでも会話に不都合はないので一瞬悩む。が、ツンケンしたままでは話を進められそうもなかったので、言われたとおり、アイマスクを外してやる。

 旧事務所から取ってきたパイプ椅子に座り直して、俺達はようやく対面できた。


「マスクのアサシンめ、お前だったか! この卑怯者め。草モンスターを操るなど、もはや魔族と同じ化物だ!」


 ギリースーツの誤解は未だ解けていない。面倒なので誤解を解くつもりもないが。

 それにしても、正々堂々とした勝負でなかった事は認めるが、狙撃未遂犯がどの口で言っているのだろう。


「おのれ、森の種族を、こんな不快な場所に連れ込むなど侮辱だ!」


 周囲を見渡して、魔法で操れそうな植物がいない事を知った仮称ロシナンテは、悔しそうな表情を見せてくれる。

 全方位、灰色のコンクリートで囲まれた地下の密閉空間に、俺は仮称ロ――長ったらしいのでロシ子――を捕らえていた。

 ここは賃貸マンションではなく、セーフハウスでもない。以前購入して、某雷の魔法少女が発生源の落雷で大きく破壊された廃墟。過去にはホテル経営もしていた某所だ。

 地上構造物の被害は大きかったが、地下室は健在。ロシ子の監禁場所としては有望だった。


「俺の方は名乗っておくが、俺は御影と呼ばれている。早速で悪いが、ロシ子。尋問を始めさせてもらおうか」

「いちいち侮辱的だ! せめてリリームと呼べッ!」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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