15-4(紫) 頼るべきは奥の手
フォートゴーレムのステータスです。
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“●レベル:42”
“ステータス詳細
●力:210 守:210 速:8
●魔:42/42
●運:0”
“スキル詳細
●ゴーレム固有スキル『耐物理』
●フォート・ゴーレム固有スキル『城郭防御』
●フォート・ゴーレム固有スキル『自己修復(大地)』”
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“『耐物理』、魔法以外に対する耐性スキル。
魔法攻撃ではない場合、物理的なあらゆる作用が三割減する”
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“『城郭防御』、外装による攻撃受け流しスキル。
上限を超えるダメージが発生する場合、外装が破壊される代わりにダメージを無効化できる”
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“『自己修復(大地)』、体の自己修復スキル。
体が欠損しても、一定時間で復元していく。
大地と繋がっている限り、スキル効果は永久に持続する”
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ついでに勇者男も
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“●レベル:102”
“ステータス詳細
●力:502 守:485 速:98
●魔:202/202
●運:104”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●勇者固有スキル『全・良成長』
●勇者固有スキル『強い者いじめ』
●勇者固有スキル『強靭なる肉体』
●勇者固有スキル『蛮勇』
●勇者固有スキル『第六感』
●実績達成ボーナススキル『自然治癒力上昇(強)』
●実績達成ボーナススキル『色を好む』”
“職業詳細
●勇者(Sランク)”
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完成したラベンダーの僕、要塞土精は支柱を束にした両腕を振り上げて、手近なエルフ女の頭上へと落下させる。
動きは緩慢なので、エルフ女は簡単に逃れてしまう。が、彼女の表情に余裕は見えない。術者の『魔』の量から言って反則気味なモンスターの登場に、額から汗を流している。
「見かけ倒しがァァッ!」
勇者男は、勇者らしく勇ましい声を発しながら突進し、大剣を振り上げる。
『力』と『守』を比較すれば、勇者男の方が圧倒的だ。剣の刃はフォート・ゴーレムの分厚い装甲板さえも軽々と切り裂いていくが、勇者男は額を歪めてしまった。
手応えが妙に浅いのだ。
「『城郭防御』で破損した箇所をパージして吹き飛ばせッ。破損箇所の『自己修復』を平行作業!」
勇者男の大剣はフォート・ゴーレム本体に届いていない。斬ったのは外周の石垣だけである。
ラベンダーの指示に従って、フォート・ゴーレムは壊れた石垣を飛礫として周囲に撒き散らす。
鎧で守られている勇者男はともかく、他二人にとっては酷く迷惑な散弾攻撃だ。それぞれ射程外へと逃げていく。
「逃がすな、砲撃するんだ!」
フォート・ゴーレムの巨体に無駄な部分はない。
城郭の内側からはデスクトップPC大の岩石が、放物線を描いて勇者パーティーに撃ち出されていく。それも複数個所からの同時多数。岩石は地面から吸い上げたものを一度体内に溜め込んで、圧力を加えてから外に発射する仕組みである。
安全圏だと思っていた場所への投石に、離れて詠唱中だった僧侶男は泡を吹いていた。
「煩わしい土魔法だな! リリーム、お前の魔法でどうにかしろ」
「指図されるまでもない。――ネイブ《蔓よ》、トール《根よ》、ニラトセ《拘束せよ》、ウォーグレボ《生い茂よ》」
防御に秀でるフォート・ゴーレムでも、弱点属性による拘束からは逃れられない。お碗型に抉られつつある山頂の中心へと、三百六十度のみならず地中からも攻めてくる植物を回避する術はない。
「雑草は苦手だけどさ、対応策はあるさ!」
だから、ラベンダーはフォート・ゴーレムに命じて、大地から更に土を貪欲に吸い上げさせる。
植物にとってはご馳走となる養分の高い腐葉土層から栄養価だけを抽出、凝縮して、フォート・ゴーレムは表層に分泌していく。
植物魔法を更に活性化させる下策に、エルフ女は不審顔になる。エルフ女がラベンダーの罠に気付いても、もう遅いが。
巨体に到達した枝や根は、豊富な養分を吸収して次々と分化していった。
拘束するには十分過ぎる植物が茂っても、成長はまだ止まらない。
伸びた体を維持するためにフォート・ゴーレム以外の場所へと根を伸ばす。負けじと枝は葉の数を増やして、勢力を伸ばす。
……そしてついに、山頂の神社跡に収まりきらなくなった植物の群は、別の養分を求めて外界へと進攻を開始する。
エルフ女の魔法は、過剰な餌付けによって完全に暴走していた。
「名付けて、フォレスト・フォート・ゴーレム。貪欲なる雑草よ、世に満ちよ」
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“ステータスが更新されました
ステータス更新詳細
●実績達成ボーナススキル『弱点吸収』を取得しました”
“『弱点吸収』、苦手を克服した者を称えるスキル。
克服した弱点属性を吸収し、意のままに操る事が可能。
例えば弱点属性の魔法攻撃を受けた際、肉体は損傷するのではなく、活性化する”
“実績達成条件。
苦手意識を克服し、逆に利用する”
“≪追記≫
使役されるモンスターの実績達成であって、術者の実績達成ではないため悪しからず”
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“スキル詳細
●ゴーレム固有スキル『耐物理』
●フォート・ゴーレム固有スキル『城郭防御』
●フォート・ゴーレム固有スキル『自己修復(大地)』
●実績達成ボーナススキル『弱点吸収』”
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「悪化させてどうするっ!? これだから、亜人種は」
「そういうお前は何か役に立っているのだろうな、僧侶?」
勇者パーティーの連携は悪い。それぞれが散開して離れているのに罵り合っているので、むしろ足を引っ張り合っているとさえ言えた。
ラベンダーの善戦は、レベル、人数、属性の不利をすべて跳ね除けようとしている。僧侶と精霊剣士の二職に対して、魔法使いは圧倒的応用力を持って翻弄を続けている。
僧侶男とエルフ女。この二名だけであれば、ラベンダーに負ける要因はなかったかもしれない。
「凡人は涙ぐましいよな、工夫しなけりゃ勝てねぇんだからよ!」
後退し、様子を窺っていた勇者男に対して、ラベンダーの勝率はどれ程あるだろうか。
勇者男を接近させじと、フォート・ゴーレムの表面から無数の蔓が伸ばされるが、不気味な事に一本もかすらない。
赤外線を避ける銀行強盗のように、体を無理やり捻って回避している訳ではない。勇者男の移動先が、何故か毎回、蔓の射程外になっているのだ。
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“『第六感』、勝利へのあくなき追求スキル。
理論的にではなく、感覚的に身に訪れる危険を察知可能なスキル。
スキル所持者の意識に関係なく、体が自動的に最善の行動を取る事が可能。
直接的な回避に繋がる行動もスキルの効果内であるが、危機に陥らないように未来予知的な行動を取るのもスキルの効果に含まれる。
敵の戦術、戦略的な行動も、なんとなくという認識で挫く事が可能である”
“実績達成条件。
勇者職をSランクまで極める”
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草木が絡まるフォート・ゴーレムには回避手段が存在しない。近づく強大な力に大しては吠えるのみだ。
“WAOoooooooooo――ッ!!”
フォート・ゴーレムの遠吠に、勇者男を制止する力などなかったが。
勇者男は大剣を上段に構えて、大雑把に振り下ろす。この一閃で植物の群生とフォート・ゴーレムの正面城壁は縦一本に別れてしまう。
「『城郭防御』で対処を――」
「オラァァァッァッ」
一閃によって地面さえも縦に斬っていた大剣を、勇者男は気合で振り上げた。
下から上への刃の軌道は、直前の上から下への振り下ろし軌道を正確にトレースしている。
同一部位への精密攻撃により、フォート・ゴーレム本体に致命的な損傷が発生する。
『城郭防御』で一度目の斬撃のダメージ量にリミットは掛かっていたが、二度目の斬撃は身代わりにするべき外郭の自己修復が間に合わなかった。
まだ完全に破壊されていないが、防御力の期待できないゴーレムなど、極寒の夜の新聞紙よりも役立たない。
大剣の先はフォート・ゴーレムの頭頂部、ラベンダーに対して向けられた。
「それなりだったぜ、魔法使い。あばよっ!」
勇者男は足場の石垣を踏み込んで間合いを詰める。
「私もさようならだ。奥の手発動!」
フォート・ゴーレムは主であるラベンダーを救うために、傷付いた体を更に傷付ける事を厭わなかった。頭頂部を自爆させ、ラベンダーを足場の石材ごと上空に向けて発射する。
先程まで体内に取り込んでいた岩石で砲撃していたのだ。女学生の体重ぐらいであれば、山の麓まで飛ばすぐらい難しくはなかった。
「さようなら、迷惑な勇者共!」
 





