第八話「六英雄の物語・弐」
そうして彼らは、進軍を開始する。ラストダンジョンのある大陸は広いが、ダンジョンまでの道のりは海岸から一直線だ。障害物も、敵も出ない。そういう悪質なものは、その手前で全て消化されている。
誰の視点かは分からないが、モニターに見慣れた岩壁が映された。そして、一箇所だけ暗い闇が奥深くまで続いている。あれが、入り口だ。一人の戦士が、口を開いた。
「いよいよだな……」
「ああ、長いなんてもんじゃなかった。でも何故かここまで来てしまった……」
「100人いたからだよ、じゃなきゃ折れてる」
「そうだね。みんながいて、初めてここまで来れたんだよね……」
「俺、この戦いが終わったらサブクエストやり込むんだ……」
「俺は、彼女を……」
「おい、死亡フラグ立てるな。行くぞ」
そして、リーダー格の男が先頭に立ち、入り口へと向かった――。が、
「あたっ!」「痛っ!」「おっと」「何これ?」
入れない。
[今では周知の事実ですが、この頃の彼らは最後の条件を知りません]
そう、つまり彼らは、光の勇者にならないとラスダンに突撃出来ないという事実を知らない。逆に言えば、彼らが初めてそれを見つけたのだ。
「あんだよ、パーティーの上限か? 人数絞らないといけないみたいだぞ」
「じゃあいつも通りの面子で」
「ちょっと待った、なんか書いてる……」
「ん? ほんとだ、メッセージ浮いてる」
『――光の勇者でなければ、この先に進むことは出来ません』
映像を見れば分かる、誰しもが「何それ」という顔をしているのだ。繰り返しになるが、彼らは光の勇者であることの必要性どころか、光の勇者という存在自体知らなかった。
映像では作戦会議が始まっている。一方ナレーションは、黙ったまま喋らなくなった。もう、話さずとも見れば分かるといったところか。
「ごめん光の勇者って何?」
「知らない。知ってる人」
そう問われても、皆ざわつくだけで、誰も返事をしない。
「どっかにヒント落ちてたか?」
「いいや」
「今更だが、いつものことだよな……」
「あーせっかくの気合いがー……」
「か、彼女が遠のいて……」
「そういう運命だったんだよ……」
「とにかく探そう。この大陸は初めて来たんだ。どっかにあるんだろう……」
そうして彼らは四組に分かれ、探索へと向かった。だが、
「あった、これじゃね?」
「ん? ほんとだ、それっぽい」
すぐに見つかる。
「鳥居? 社? ほんとにこれか?」
「他の組からはまだなんの報告もない」
「けど鳥居って……一応勇者でしょ? 光の」
「世界観もへったくれもねーですな」
「慣れたよ僕は……」
一人のプレイヤー、見た目は女性で艶やかなオレンジ色のドレスに身を包む彼女が、社に近づき立て札を見つけ、その前に立つ。
「なんか立て札あるよ」
「なんて書いてある? この鳥居と社の起源でも書かれてるのか?」
「ううん、光の勇者試練の場、だって」
「やっぱここか。みんなに連絡」
「あいよ」
「あとね、限定一名様って書かれてある」
「はあ?」
「景品じゃねーんだから……」
「つーことはここは一人選ばないといけない?」
「なんか知らないけど勇者だからね、まあそんなもんだろう」
「パーティー上限は五名だって」
「五人? 意外とシビアだな」
一行が再度集まり、また会議が始まる。当然議題は、誰を光の勇者にするか、だ。リーダー格の四人が集まり、議論はその後頭脳役の四人にバトンタッチされた。皆、固唾を呑みそれを見守っている。
「エース格集合」
その号令で、各組のエース格が招集される。その中からさらに選抜され、六名が残った。そして十名の話し合いにより、一人のプレイヤーが指名される。
「彼がいいと思うんだが、みんなどうだろうか?」
リーダー格の発言で、皆選ばれたプレイヤーを注視する。所属する組の面子は納得の様子で、それ以外はよく分からないといった風だ。だからだろう、彼はステータスボードを開き、皆に提示してみせた。
――ジョブはラストシーカー、これは今でも珍しいとされるもの。本来は特殊ジョブだが、バランス系にも育てられ、以外に幅広い選択肢を持つ。言わば便利屋に近い。
パラメーターは下は500台、上は800台。どちらかと言えばごり押し系で、魔術耐性などが低い。スキルとしてはオート全回復、カウンター100パーセント×2、瀕死パワーアップ、飛び道具に対するバリア機能Bランク――はっきり言って、普通である。
「若干偏りはあるが、プレイヤー性能も含めて彼が適任と結論づけたらしい。これでいいかな?」
リーダー格の発言に対し特に異論は出ず、彼で行くということになった。そして残りのエース格の中から、四人がサポート役に指名され、彼らは快くそれを引き受けた。
「んじゃ行って来る」
「気をつけて、このゲームの特性上何があるか……」
しかし、リーダー格のプレイヤーのその言葉を、彼は遮る。自分はエースである、しかもエース中のエース。このチーム最強のカードなのだと、暗にそう言っているのだ。そして、アシストする面子もエース級と呼べる者ばかり……正に最強チーム。
彼自身も、リーダーも、そして周囲の仲間皆笑顔を浮かべ、彼らを見送ろうとした。五人はそれを背に、鳥居をくぐり社へと近づいた……しかし、
「痛っ!」「え?」「は?」「どした?」
通れない。見えない壁に遮られ、彼らは社に入ることが出来なかった。
正直、見ていて辛い。
「なんだよ! 変な壁があんぞ! 封印でもされてんのか!?」
「古式に則らないとダメ、とか?」
「んなもんどうやって調べるんだよ……」
「違う違う、ほら、メッセージ、また出てるよ」
呆れ顔で、また先ほどの女性プレーヤーがそれを指摘する。確かに、見えない壁に、メッセージが浮かんでいる。そして選ばれた彼が、それを読み上げた。
「ああ……ええっと……光の勇者になるためには、借金を返済して身奇麗になってから、出直してきて……くだ……さい……」
ここに、トカレストは借金があると光の勇者の称号は手に入らないという事実が発見される。正に貴重な歴史の一ページと言えるが、やってる側からしたらそんなことは関係ない。
「なんだそれは!」「おいこらいい加減にしとけよ……」「なんの意味があんだよこれに!」「大体そんな話聞いてねーし……」「つーか借金ない奴のが少なくないか……」「借金の何がいけないんだ! 関係ねーだろ戦うのに!」「というか、強制的に治療費ふんだくっておいてそれはないだろ普通……」「つか、どうすんよこれ?」
実際的な問題提起である。この期に及んで借金のあるプレーヤーは弾かれる。しかも、これに関するヒントは、道中どこにも落ちていない。
「と、とにかく一からやり直しだ。借金のない奴、挙手」
20名ほどが名乗りを上げたが、それはつまり残りは少なからず借金があるということを意味する。八割方は大体戦闘不能になった経験があるということで、つまりこのチームは道中「街」で休息を取ることは少なく、無料の宿かテント生活をしてきたということだ。
もうこうなると、ただの遊牧民でしかない。
・ラストシーカー=探索者。ダンジョン系攻略の上級職にして、万能型。育て方は幅広く、自由度が高い。作中のラストシーカーは前線で戦えるだけの能力を伸ばしている。




