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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第五章:六英雄の物語
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第二話:正攻法と搦め手

「ありがと! すぐ開くよ!」


 興奮から叫ぶようにそう答えたが、返事は返ってこなかった。席を外したのだろう。

 一つ息を呑み、メールを開きまずは目を閉じる。

 私は一度諦めた。正確には運営になんとかしろと訴えたのだが、彼らはなんの動きも見せていない。ならばプレーヤーを決起させてやる! と色々書き連ねたが結局それを表に出すことはなかった。何せ、彼らは今や敵に回ってしまっている。結局手詰まりに陥った私が縋り付いたのが近藤で……今目の前に、その期待に応えてくれるであろう答えがある。

 そう思うと、頭が不思議と回り始める。どんよりとしていた景色が晴れ、冴えた自分がいるような、そんな感覚を身体で感じる。


「よし!」


 気合い一発声に出し、私は目を開いた。

 明度を落とし、少し暗くしてあるモニター。そこには、近藤が書いた文章が箇条書きで記されていた。「正攻法」と「搦め手」の二つに大きく分けられている。


「正攻法? 搦め手……正攻法なんてあるの?」


 ぱっと見て首を傾げたが、それでもこれが最後の、本当に頼みの綱だ。しかし項目が多い。こんなにやり方があるものなのか……そう思いながら、私は順に目を通していった。クロマグロを膝に乗せながら。


[A.正攻法。実力派のプレーヤーにラスダン、ラスボスを攻略してもらう。成功する可能性は低いが、数打ちゃ当たるぐらいの気持ちでやればなんとかなるかもしれない。問題はそれだけの実力者がトカレストのメイン、しかも最終地点までたどりついているかどうか。つーかそもそも現役なのか。

※利点、事故が起きない。欠点、まあ難しいだろう]


 確かに……近藤自身も言っていたが、目ぼしいプレーヤーはもうほとんどいないのだ。それこそ、私と間宮ぐらいのもので……とてもうまくいくとは思えない。自分で言うのもなんだが私は強い。それでも、どう考えても勝ち筋が見えてこないのだ。

 まあだけど、確かにこれは正攻法だ。しかし事故が起きないって、どういうことだろう?


[俺が把握してる範囲で、可能性のあるプレーヤーを挙げてみる。

・S、エリナ、マーカス

・A+、お前、アルベルト、JC.MUSASHI

・A、ジル、カラカス、吉田尚世(プロゲーマー?)

 A-以下、Bランクとかは話にならない。やるだけ無駄。

※例外としてS+、廃人勇者等々力。ただこれ色々とややこしい]


 一目見て、私は目を疑った。Sランクにエリナとマーカス? 私やジルとカラカスの評価はともかく、後は知らない人ばかり……プロゲーマーなんているのか。

 それにこの例外って何? S+って、化け物クラス、六英雄クラスなのか?

 もう一つ、私やジル、カラカスの元旅団組が入るなら、間宮が入っていないのはおかしい。彼は私と同等……相性次第ではどちらが上か分からない。それぐらいの位置にいるはずだ。


「近藤、これ本当に可能性のあるプレーヤー? 知らない人は分からないけど、エリナとマーカスが真っ先にくるとかなんで?」


 だが、返事は返ってこなかった。まだ席を外しているらしい。

 引っかかるものはあるが作った当人がいない。今は考えても仕方がない、そう思ってまたモニターに目を移す。正攻法の項目はこれだけで終わりだ。

 次は搦め手の項目、これはやけに多い。


[B.搦め手。そもそも普通にやってクリア出来るんなら苦労しない。というか誰かがクリアしてもいい頃合いだ。でも出来ない。となると何かしら別手段を講じないと事態は動かない。では何がある? 基本的にはお前を中心に組み立てる。というか、そういう状況。

※利点、手段が豊富。欠点、事故が起きる可能性が高い]


 確かに。ルート分岐の優先順位が異様に高いことで、今トカレストは私を主役に、いや、まるで私がシナリオを書いたかのような世界になっている。それが全てのプレーヤーに押し付けられるのだから、彼らが怒るのだ。プレーヤーの襲撃を思い出し、少しうんざりしながら先を続ける。だが、次の一文を見て私は口をあんぐりさせた。


[1.聖剣士ガルバルディを使う。

 トカレスト内最強キャラであるガルバルディをラスボスにぶつける。五分だという佐々木の見立てを信じるなら、ガルさんにやってもらった方が早い]


 ……それが出来たら苦労しない。これには首を振らざるを得なかった。近藤は私の身に何が起きているか分かっているはずだ。私とガルさんの仲がどうなっているか、知っているだろうに。

 初っ端からありえない項目を見せられると、大丈夫かなと少し不安になってしまうよ。それに、これぐらい私だって考えられる。何せ間宮ですら、同じことを言っていたのだ。そりゃガルさんがやってくれればこんなに楽なことはない。でも無理なんだよ、色々と。

 うーん、となんとも言えない言葉を吐き出し、デスクに肘をつけ、手の甲に顎を乗っける。私が悪いっちゃあそうだけど、近藤にはなんか策があるのかなあ……またうーんと唸り、先を読む。


[2.ラビーナを使う]


 しばらく固まってその一文を凝視していたが、気がつくとガタッと肘をデスクから落としていた。


「だから! それが出来たら苦労しない!」


 と、大声を張り上げるがやはり反応はなかった。まだ席を外しているらしい。全く! ラビーナだって無理な話じゃないか! ほんとに私の旅を見て分析したのか? 思いつきにしても安直過ぎる!


[そもそもラビーナさえなんとかすればトカレストは一応落ち着く。ただ、ラビーナをどう捉えてどう対処するかは佐々木が決める話。

 つまり、和解、制止、協力、恫喝、抹殺の五つの使い方がある。ただしどれもガルさんが認めるか否かという大問題を孕んでいるので、そこは留意すべきとこ]


 ……そりゃまあ確かに。ラビーナの暴走さえ止められれば、事は落ち着くかもしれない。そして、そこにガルさんが絡んでくるのもありえることだ。でも結局それだって「出来れば、可能ならば」という話でしかない。


[3.聖竜騎士団を使う]


 う……ど、どっちだったっけ? えーっと、ガルさんがぶっ飛ばしたのがこれなわけないから、生き残ってるほう、つまり今王国にある騎士団、王家側の騎士団か。でもこんなの私、見たこともないし会ったこともないぞ。そもそも聖竜騎士団の団長はガルさんで、騎士団を使うということはガルさんを使うのと実質変わりない。


「あ、いや違う……」


 少し考えれば、いや見方を変えれば話が変わる事実に私は気付いた。騎士団を使って、ガルさんを誘い出す……それなら確かにあるかもしれない。でもそれはやっぱりガルさんを使うのと変わりない。しかし搦め手らしいやり口と言えばそうだ。私がガルさんと接触出来ない以上これはありかもしれない。ただ、ただしだ……。


「騎士団は、というか王国は実質ガルさん一人の存在感で持っているようなもんだ。そうすると、王国を防衛するのに明らかに組織力というか、マンパワーが足りなくなる」


 ただそれを言えばガルさん一人動かすことだって、王国にとっては大問題か。その割りにはガルさん一人でうろうろとしてんだけど……。


[聖竜騎士団を使うのはリスクが高い。ただやってみると意外とうまくいくかもしれない。ラスボスとの対決は陸戦だろうから、海軍はとりあえず除外]


 確かに。納得出来るような、出来ないような……ここはちょっと聞いてみないと分からないな。私はうんうんと首を縦に振って、また次の項目に目を通した。


[4.ロウヒ、オーディンを使う]


 だ、か、ら! それが出来たら苦労しない!

 ゴンゴンゴンゴンとテーブルを叩くが反応はない。近藤の奴ほんとに飲み物取りに行っただけなのか? 寝てんじゃないだろうな?


[ロウヒとお前の仲だ、手を貸してくれる公算は高い。ただロウヒは使い物にならないからオーディンに繋がるルートが欲しい。そうすりゃ奇跡が起きるかもしれない。まあ、ロウヒだけでもいいけど]


 よくない。ロウヒは戦える神ではないし、気まぐれ過ぎて何するか分からない。

 多いと思った項目も、次が最後だ。なんか、どれも実効性が感じられないというか、適当に思えて本気で考えたのか悩んでしまう。いや違う、きっと最後の項目が本命で、きっとこれが近藤の言いたい結論って奴なんだ。私はそう期待して、最後の項目に目をやった。


[5.ザルギインを使う]


 ……あん?


[生きてたらの話だけどな]


「馬鹿にしてんのか!!」

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