第七話:装備を整えよう!
港町の入り口で、一人佇み近藤を待つ。あれから寝ないで頑張って、学校で寝て家に帰ってからも頑張った。なんとかスキルポイントは稼いだけど、やはり物足りない。どうしよう、ブループラネットは格好いいけど使い道がないんじゃ意味ないよ。はあ、思わず溜め息が漏れる。
「よう、首尾はどうだ」
シュルルルルル……! という音が鳴り、光と共に近藤が戻ってきた。薄情者、顔を見た瞬間そう罵ってやりたくもあったが、素直にステータスパネルからスキルボードを開いた。改めて残念な具合だ。近藤も同じ意見らしい。
「うん、物足りないな」
はっきり言う、気に入らんな……!
喉元までそう出かけたが、事実私もそう思うのでなんとか飲み込んだ。
「けどなんとかなりそうだな。俺は強化出来たし」
自分がよければそれでいいのか! 今目の前にちゃぶ台があれば間違いなく手刀で叩き割っている。
「何、不満なのか? 心配すんな、俺達には蓄えがあるじゃないか」
「え? お金、使うの?」
「主にお前がな」
近藤は笑みを浮かべるとスタスタと歩き出した。私買い物していいんだ! まともに買い物すんの初めてかもしんない。回復薬とか、そんなのばっかり買ってたよ。何を買おうか……やっぱアーチャーらしい羽根付き帽とか欲しいな。あとは弓ももっと威力があるのがいい。軽いのが、理想的。近藤に相談してみる。
「何がいいかな、ちょっと気の利いた格好とかしたいんだけど」
港町だから普段着でもよかったけど、そろそろ違う格好もしたい。近藤だってきっとそうだ。私はそう思ったのだけれど、
「いや、ここじゃ大した物は買えそうにないから、次の街行ってからの話だ」
それを先に言え。スタスタと歩く近藤は、町の外へと向かっているのだ。これからどうするんだろう。後ろを歩きながら、その点確かめる。
「佐々木がポイント貯めてる間に色々と調べたんだが、ちょっと難しい箇所があるからそれに備える」
「難しいって何?」
「うん? まあ、難易度とかじゃないから気にしなくていいよ。ただ腐霊術を使う敵がいるから、とりあえず死霊系モンスターを倒せるようにしないといけないな」
腐霊術? えーっと死体を生き返らせたりする魔術? はやっ! まだ始まったばっかなのにもうそんな悪質な敵が出てくるのか。こんなレベルで大丈夫なのか、ほんとに。私の疑問に近藤は冷静な返答をした。
「その点は心配ない。アーチャーは実はめちゃくちゃ強い。このゲームじゃ最強クラスと思って問題ない」
「マジすか?」
「ああ、弓自体が異様に強いゲームなんだ。銃より強い謎仕様だ。それにボウガンもやたら強い。ボウガンは中距離戦闘で最強クラスになる。ただ全体化の魔法は欲しいよな、やっぱ大群相手にする時困るから。でもアーチャーは強い、これは間違いない」
「そっか、だから勧めてくれたんだよね。でもレベル上げには適してない」
近藤は深く頷いた。
「そう。騙されちゃいけないのはアーチャーも弓も確かに強い。だが、アーチャーでレベル上げ続けると最悪詰む」
初心者殺しにも程がある。私は唸らざるを得なかった。強いジョブだが欠点が大きい。最初に楽をするとあとで痛い目に遭う。近藤がいてくれてよかった。薄情者だけど。
「敵は無視するんだよね」
私は周囲を見渡しながらそう呟いた。近藤は頷いて、ガン無視して走りぬけると言い切った。辻斬りは? と尋ねるともう必要ないしリスクがあるからいいと言う。
「そういえばさ、このゲーム死んだらどうなるの? 所持金半分でライフ1? それともマジで死ぬの?」
「いや、このゲームに死という概念はない。プレイヤー側にはね。ただ戦闘不能の大怪我扱いで近くの町に搬送されて高額な治療費と搬送代を請求される」
ああ! なんだそれは!
「あと、レベルも一つ減らされて、パラメーターもきれいに減らされる」
あれ、じゃあ低レベルじゃなくても……。
「レベルが高ければ高いほど、ストーリーを進めれば進めるほど死んだとき法外な治療費を請求される。で、借金のある奴はこのゲームクリア出来ない」
なんで……。
「知らん」
この世界は一体どういうコンセプトで創られているのだろう。お金と時間、両方持ってかれた挙句に治療費払えないとクリア出来ない……現実、的なのか? 現実、超えてないか?
「キングの時お前一人逃がそうとしたのは俺一人ならまあなんとかなるかもって思ったからだ。レベル一つ低いし。けど二人死ぬと借金で首が回らなくなるかもしれないと思ってな」
そういう近藤の声はあまりに冷めたものだった。
「基本死ねない。そう考えろ。まあ現実的と言えばそうかな」
そう、だね。そう、かもね。でも現実忘れたくて来てる人には悪夢だね……そう思った。
敵という敵から逃げ切ると目的の街へとたどり着いた。規模は素晴らしいが石畳以外何の変哲もない、味気も何もあったものじゃない寂しい街だ。なんだろう、進んでいる気がしない。海岸はもう見えないし……。私は一つのことが気になっていて、近藤に尋ねようとした。
「ああ、俺も気になることが二つある」
「うーん、先に言ってもいいかな」
近藤が頷くので私が先にすませる。
「残念ホンダさん、結局戦わなかったね……」
……残念な話だな、近藤はそれだけ呟いた。まったく同感である。ではどうぞと近藤へと持ちかける。
「剛力の使い方なんだが、お前を投げ飛ばすのに使えないか考えてた」
なんで! 何がしたいんだ! なんのためだ!
「ん? 移動だよ。俺が投げて走った俺がさらにキャッチする。スピード上げていけば不可能ではない気がする。アーチャーは何気に鈍足なんだよ、いざって時に使えないかと思ってな」
ああ、なるほど。でも投げ飛ばされた私はどうなるんだ。もしキャッチし損なったらどうすんだろ。その点だけはっきりしてもらいたい。
「ライフ1かな」
だよな! だろうと思った! しかも凄い痛いんだろうね!
「投擲スキルないと話になんないから、先のことだけど、使えるもんは全部使わないとこのゲームやばいからな。まあ頭に入れといてくれ」
分かった、入れとく。急に投げ飛ばされたらパニックになるのは必然だ。もう一つは何、と尋ねた。
「この格好、何気に目立つな」
今頃気付いたのか……。