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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第三章:ヴァルキリーの台頭
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第四話:推論と決断

 地下書庫において、私は一つの推論を導き出した。あくまで推論ではあるが、この世界は魔で構成されている。魔法がそれにあたる。プレイヤーは魔法、魔術の類を駆使する。神と魔を区別しないとするなら、私の神技もそれにあたるのかもしれない。そして、科学が世の理を導き暴く術だとするならば、この世界では神は死に絶えている。この世界に恩恵を与えているのは科学ではなく、魔導だ。魔が今も息づいている証拠ではないだろうか。

 一方、朽ちた神殿、ボロボロの書庫、崩れ去る書物たち。これらは神の死を意味しているのではないか。だがこれはガルさんに言えることではない。完全に別世界の住人の発想だ。


「古代から伝わる教典において、神は死んだとされている。魔も同様だか表現が違う。魔は滅んだとのことだ。この違いの意味は私には分からない」


 ガルさんはそう言うと立ち上がった。


「では行くよ。つい長話をしてしまった。君はこれからどうするんだ」


 少し考え、私は答えた。


「はい、ちょっと気になることがあるのでそれを調べに。それより、他のメンバーと話さなくていいんですか?」


 私の疑問に、知らない連中ばかりで興味がない。ガルさんはそう答えた。私以外知らないのかな、そんなことないと思うのに……不可解だ。これが近藤の言っていた分岐という奴だろうか。


「君に会えて良かったよ。また、美しくなったのではないか」

「へ? あ、はい、その通りです!」


 深い話をしていたのに急に話題を変えられて、思わず肯定してしまった。ガルさんは嬉しそうに微笑でいる。


「長髪が良く似合う。銀髪があまりに美しい。あえて神がいるとするならば、君のような女神を求めたいものだ」


 キタコレ……もう、最高にハイって奴だ。

 女神! 美人の次は女神ときたか! ほんとガルさんには何を言われてもセクハラの臭いがしない! ただ賞賛され絶賛されて、いや全て事実である! 世の理とはガルさんの言葉から紡がれる!

 チークタイムはまだか、踊ろうガルさん! カラオケのデュエットでもいい! 私がそう恍惚とする中、


「そういえば、少年はどうした。あの中にはいないようだが」


 するっとまた話題を変えられた。慌てて我に返り、近藤のことだなと理解する。そして気分を落ち着けて、笑顔をつくる。


「元気です、元気にしてますよ。一番を目指して頑張ってます」


 ガルさんは少し微笑み、事情を察知したかのような素振りを見せた。何かあったことぐらいは、分かるのだろうか。


「君のような美しい女性なら、家庭を持ってもよさそうなものだが……しかし、そうもいかないな」


 さすがにそれは早いと思います、と手を振る。


「いつか君の力が必要とされる時がくる、そんな気がするよ」

「あの、問答無用で姫を斬り捨てないで下さいね」

「考えておく。あの娘を見かけたら、知らせてくれ。早馬を使うといい」


 そ、それをやったら姫即死フラグが立ちそうなんですけど……。私はえへへと適当に誤魔化した。知らせるにしても、出来るだけ遅い馬を使おう。ロバとか牛がいいかもしれない。


「これからも気をつけなさい。自分を過信するな。何より戦場では躊躇ってはいけない」


 そんな忠告を残して、ガルさんはすっと書庫から去った。


 今回のやり取り、恐らくはイベントなのだろうが、これにより私は一つの決断を下した。ガルさんに続いて書庫を出ると、海愛が立っていた。


「なーにしてたの。逢引? にしては音も立てないし人も出てこない。一人で考え事?」


 ガルさんは気付かれずに出たのか……凄い。その事実に感心しながら、ニヤつく海愛に尋ねてみる。


「まあそんなとこ。あのさ海愛、神様っているのかな?」


 は? と怪訝な顔をされたがその後私を指差してきた。


「アンタ」

「私? ああヴァルキリーだから?」

「そ、ヴァルキリーって神様でしょ。神技は正に神の領域だしね。私も負けてられないと思った」


 そうして海愛は二の腕を誇示する。凄い筋肉だ、丸太みたい。けどそういう意味じゃないんだよね。少し笑って、私は告げた。


「海愛、私一度パーティーを離れようと思う」


 海愛は本格的に怪訝な顔をして見せた。


「ここから予定通りに行って半日で寒村に着く。現実で言って二時間だが、何があるか分からないし解散は妥当か」

「またあのデカイのが出てきたらまずいよ。森の中での戦闘じゃアーチャーの長距離射撃が使えないもん。前衛にヴァルキリーさんを組み込んだらどうかな」

「いらねーよ。さっきのは相性が悪かっただけだ。ま、適当に決めろや」


 広間では休息を終えたメンバーが、地図を広げ作戦会議を始めていた。これが終わればメンバーは一応解散、ログアウトする者とレベル上げや息抜きをするものに分かれるだろう。


「あの、いいかな」


 そう割り込んで、私は旅団を離れる旨を全員に告げた。

 本気なんだ、海愛はそう呟き他のメンバーは少し戸惑いを見せている。中核を成すプレイヤーは泰然自若としたものだが、このタイミングで離れることについては質問された。中島屋が問いかけてくる。


「基本的には自由なんですけど、今ちょっと何があるか分からない状態なんで、せめて寒村まで付き合って欲しいとは思うんです。何か理由があるんですか?」

「聞かなくていい。抜けたい奴は抜けりゃいいんだ。どうせさっきの戦闘でびびったんだろーが。知るか」


 旅団内においては、言い草はともかく間宮の反応が通常だ。仲間の選別はするが、離れる際は勝手にすればいい。中島屋のように理由を問うことは普通はない。とはいえ全てを話すつもりもない。だがまた戻ることも念頭入れ、私は大まかな理由を説明した。


「攻略情報と違うことが起き過ぎてる。ちょっとおかしいと思うんだ。こんなどでかい神殿確かに見逃すはずがない。それにあの化け物、名前すら分からない。だからもう少し神殿を見たいと思う。ヒントが落ちてるかもしれない。神聖な場所だし、ここが確認されていないのも事実だし」

「それなら手伝いましょうか。今日はまだ時間がありますし」


 中島屋が妙な提案したので、全員が驚いている。


「なんでそんな驚くのみんな。ヴァルキリーさんいないと、後衛任せる人間が術師になるんだよ。今、後ろの二人は近接も出来る。でも術師は不意を突かれたら結構厳しいんだ。術師としては妥当な意見だと思うんだけど」

「今までこの面子でやってきただろーが! 別にいらねーよ!」

「いや間宮、これは術師としての意見だ。前衛の俺達がどうこういう話じゃない」


 カラカスが間に入ると、間宮は舌打ちしてさっさとログアウトの準備を始めた。「勝手にしろ」最後にそう吐き捨て、白く消え去った。


「あのさ、中島さん、ここだけじゃなくて他の神殿も見たいんだ。だから今がどうとかじゃなくて、結構時間かかると思うの」


 その言葉に中島屋は思案顔を浮かべたが、ニコリと笑って頷いた。


「じゃあなるべく早く戻ってくる、ということでお願いしますね」

「あ、うん。追いつけたら必ず顔出すよ。私が必要だったらまた参加させてね」

「キリア、他の神殿ってどういうこと。神殿なんてないわよ、ここが初めてじゃないかな」


 海愛の問いに、いや、確実にあると答えた。そして、この違和感をどうしても拭い去りたい、そう伝えた。


「ヴァルキリーの勘って奴かもしれないね。私らとは違うんだ、気の済むようにさせてやろう」

「うちは自由だよ」


 カラカスがそう言って、話し合いは終わった。

 別れの挨拶もなく、パーティーは解散となる。しかし数人が残り私に声をかけてきた。数合わせのプレイヤー達だ。


「あの、キリアさん」

「はいな、どした?」

「早く戻ってきて下さいね」

「うーん、そうしたいね。旅団は強いもの、でもちょっと分からないんだ」

「困るんですよ、キリアさんいないと。俺らヴァルキリーに惚れ込んでるんです」


 その様子から本気度が伝ってくる。正直に嬉しいし、気持ちには応えたいけれどやはりはっきりとは言えない。そんな彼らを見て、ずっと気になっていたことを尋ねてみた。


「あのさ、聞きにくいんだけど、旅団居心地悪くないの?」


 こき使われて。とはいえないが言ってるのと同じだろうか。


「まさか! いやそりゃ多少は辛いと思うこともあります……けど居心地悪いのはメインストーリーそのものですから……」

「あーそうか、そういう考え方もありますね……」


 迂闊だった。彼らはこの理不尽なメインストーリーをプレイするツワモノでもあるんだ。ここまで来てることが実は凄いのかもしれない。


「だから猛者揃いの旅団にいるだけで、正直鼻が高いし、凄い戦いが間近で見れて楽しんでるんです。俺いつかジルさんみたいなフェアリーナイトになりたいんですよ!」


 俺も暗黒騎士に、性格はともかく! 中島屋みたいなソーサラーに! それぞれ思いの内を主張している。ヴァルキリーになりたいと言わないあたり、みんな男だな。わぁーったわぁーった、とみんなを落ち着かせ、私は一つ指を立てた。


「必ず戻ります。その時はもっと強くなったみんなと再会出来るように、期待しています、ね」

「はい!」

「ヴァルキリーさん、調査の結果、お待ちしていますよ」


 何故か残っていた中島屋がそんなことを言って、ログアウトした。これにはみんな、はにかみ笑うしかなかった。

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