表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トカレストストーリー  作者: 文字塚
第一章:トカレストストーリー
4/225

第四話:メインストーリー派の存在

 ぺしゃっ、という音ともに地面に激突した。一瞬自分が薄焼きピザになったかと思ったが、気のせいだった。だが、身体がまともに動かない。そうだ、ライフが1に……そのための全回復薬。倒れながらポーチの中をまさぐる。ええっと、これ、これじゃなくて緑のビンに入った……あった。そうして探し当てた瞬間、上空から声がした。


「佐々木ーどけーぶつかるぞー!」


 馬鹿野郎! 同じ場所から飛び降りるどあほがどこにいる!

 私は内心罵倒しながら身体を引きずり移動を試みた。上を見ると、凄まじいスピードの塊が、落下してくる。まずい!

 そう思った瞬間私の隣に近藤が墜落した。ぐしゃっという音と共に、その身体が弾けたざくろのようになった気がしたが、やはり気のせいだった。

 だ、大丈夫かと声をかけようとしたが近藤はそれを手で制した。ジェスチャーで、回復しろと言っている。言いたいことは色々あったがとにかく回復だと自分と近藤を全回復する。これで、痛みと自殺気分はともかく体力だけは回復だ。


「崖沿いを西に走るぞ、海がある。敵には目もくれ……きたか!」


 気配を感じた。崖の反対側に、陰が見える。人ではない、獣、モンスター。とにかく敵だ!


「あ、あれは何?」

「恐らく猪豚戦士Mk-2だ!」

「手強いの?」

「Mk-2だからな! とにかく走れ、走るんだ佐々木! 明日という未来を見たければ!」


 Mk-1はどこにいたんだろう……そんな思いを振り払い私は、私達は走った。痛む身体を引きずりながら、まともに戦っては勝ち目のない敵から逃れるために走り続けた。岩山が途切れると同時に森の境界にもきたらしい。海も見えてきた。猪豚戦士達がその追撃を止め始めた。私は一息ついてちょっと休もうと提案した。だが近藤は首を振る。


「ダメだ、この海沿いを行くと港町がある。そこまで休めない」


 嫌だ嫌だと抗議したが、近藤は頑なだった。


「そろそろ日が暮れる。敵が手強くなる。逃げ切れない敵に遭遇した場合、洒落にならない」


 一理ある。それに反論もし辛い。何せ、


「誰かが岩山で時間を食うから、こんなことになる」


 という具合だ。仕方ない、痛みの増す身体をさらに引きずり私達はさらに海岸沿いを走り続けた。

 夕暮れが、きれいに見える。水平線を太陽が沈んでいく。こんな夕暮れ、現実の世界でも見たことないかもしれない。耳に入ってくる波の音も、爽やかな潮風も、街育ちの私には縁のないものだ。

 そろそろだな……と近藤が呟いたその時、どすん! どすん! と地響きが聞こえてきた。せっかくの雰囲気をぶち壊すのは誰だ! と音のする方向に目を向けると、力士型のモンスターがしこを踏んでいた。


「なんすかあれは?」


 私は気が抜けて、思わず素っ頓狂な声をあげた。


「ち、タジルバジルか。あれはまずい」

「なんなの、あれ?」

「見たままだ。通称残念ホンダとも言われている」


 変な通称だなあと思いネーミングの由来を尋ねる。


「対空技がないんだ。上から攻められると弱いモンスターだからさ」


 じゃあ勝てる、私アーチャーだしいけるじゃない。そう主張したが近藤は首を振った。


「佐々木はいいけど前衛の俺はどうすんだ。あいつの足払い攻撃は異様に長いんだぞ。一発もらっただけで足がもげるわ。それに佐々木の攻撃力じゃせいぜい1しかダメージ与えられない。レベルが違うんだ。一体何時間戦うつもりしてんだ?」


 知らない知識を披露されて私は一瞬拗ねかけたが、さすがにそこまで幼くはない。不満げな顔はしていたかもしれないが、とにかく言われた通り港町を目指し海岸線を走ることにした。どれだけ走らせるんだと思いながら。

 日も完全に暮れた頃ようやく港町が見えてきた。結局一回の戦闘もなしにここまでたどりついたことになる。なんだか物足りない、ゲームしてる気がしないよ。そんなことを思いながら海岸以外は殺風景な港町へと二人で足を踏み入れた。


「うますぎるっっっっっ!」


 ノンアルコールビールテイスト飲料を持って乾杯。一気に飲み干した近藤はそう叫んだ。港町にある酒場で夕食をとることにして、私達は町の探索もろくにせずさっさと酒場へと入っていた。


「味、するんだね」


 不思議な感じだった。五感が再現されているのは分かるけど、こうして飲んでいることがまるで事実に感じられる。


「どーでもいいんだよーんなことはよー」


 近藤の目が赤い。あれ、ノンアルコールじゃないのか。大丈夫かこいつ。夕ご飯も兼ねているのでつまみのピザが出てきたが、私はさすがにそれは口に出来なかった。平気で食べられる近藤がうらやましい。


「あーうめえー薄焼きピザが本物のピザだろー」


 やめろっ! 私は心の中でそう叫んだ。さっきそうなっていた自分が思い起こされる。


「で、この先どうすんのさ。知ってるんでしょ……ああ! 思い出したよくも突き落としたなこの野郎!」

「あ? とろとろしてっから手貸してやってんだろ。さっさと飛んでりゃもっと早く休めたのによ。アイキャンフライぐらい一人でやれよ馬鹿野郎」


 こいつ、開き直ってる、しかも酔ってる。私がどれだけの恐怖心で覚悟を決めて、突き落とされようとしていたのか、全然分かってない。


「言ったよね私、大切な人でも出来たのって。あんた彼女でもあんな風に突き飛ばせたの!」

「しらね。いないもんは、答えようがない」


 ……そうだね。っていうか、彼女いない歴イコール年齢なのか。なんだろう、悲しくなってきた。


「えーっと、なんだっけ」


 酔っ払いのような近藤に尋ねられ、慌ててフォローに入る。


「え、あ、うん強く生きて欲しいって。出会いはこれからたくさんあると思う」


 何言ってんだ私は。近藤も意味が分からないという顔を浮かべていた。いやその違う、えーっとこの先だ。この先どうするのかを近藤に聞いたのだ。「ああはいはい、それね……」近藤はそう言うと、真顔に戻りそっと周囲を窺った。私もつられて周囲を窺う。結構人がいる。あの崖、飛び降りた人かなりいるんだ。そういえば町にも通行人はたくさんいた。凄い、素直に感心する。だが、近藤が見ていたのはそんなことではなかったらしい。声を落として、話し出した。


「とりあえず次にやるのはレベルを上げずにスキルポイントを稼ぐことだ」


 レベルを上げない? 謎な返答に私は戸惑い、それでいいのと確かめる。


「ああそれでいい。というよりそれしかないし、それが正しい」


 よく分からん。テーブルをバンバンと叩きたい気分だったが顔をしかめて説明を求めた。


「周り見てみろ。大体レベルはいくつだ」


 私は改めて周囲を見渡した。10、15、20に35! どんだけレベル上げてんのここで! 見たままだ、少なくとも私達よりはレベルが高い連中がうようよいる。私達はこんなことしてる場合じゃない!


「違う、よく見てみろ。レベルが表示されてない奴らがいるはずだ。名前しか出てない奴らだ。探せ」


 そういえば、近藤は町に入る前にステータス表示を切れと言ってきた。それと関係あるのだろうか。私は周囲をまた見渡しレベル表示がされていない人を探した。いた、確かにいた。奥の一団だ。けどレベルが分からないとパーティーにも誘いづらいし、そもそも誘ってもらえないんじゃ。


「あいつらはメインストーリーを理解してる連中だ。ここは低レベルでないとダメだと知ってるんだよ」

「なんで? 勝てないパーティーなんて意味ないよ?」

「目の前の敵に勝つにはそうだ。だけどメインストーリーを攻略しようと思ったら方法はこれしかない。正確には、これが妥当だ」


 分からない。ここは近藤の知識を聞くしかない。


「まず第一に、佐々木、お前このゲームが発売されて一年経つのは知ってるよな」


 黙って頷く。どれだけ耐えて楽しみにしてきたか、思い出して少し胸がうずいた。


「で、一年も経つのに誰もクリアしてないことは知ってるか」


 少しだけ、首を傾げた。確かにクリアしたという話は聞かない。けど、クリアしてないとも聞いてはいない。知っているのは難易度が高いという噂だけだ。


「一年も経つのにまだ誰もクリアしてないんだ。これは事実だ。少なくともクリアしたら騒ぎになるのは間違いない。それだけクリアするのが難しいゲームってのは周知のことなんだよ。佐々木は情報を意図的に遮断してたから知らないんだろーが」


 そうなんだ。難しい難しいとは聞いていたが一年経ってもクリア出来ない難易度ってなんだろう。何回飛び降りたらクリア出来るのだろうか。ちょっと不安になってきた。


「俺も全部を全部把握してるわけじゃない。けど調べた結果分かったのが、効率よくやらないと詰みかねないってことだ。今のジョブは最初から選べる下位職業だろ。これでレベルを上げてしまうと基本パラメーター、つまりパワースピード耐久力、知力の類がどうしても上がりにくくなる」


 レベルアップと共にパラメーターが上がるのは確かだ。ウォーリアーやアーチャーはダメってことか。


「まあそうなる。上位ジョブに転職して、基礎パラメーターを効率よく上げるようにプレイしないと、正直手に負えない難易度だってのが一応基本で、基礎攻略法だ」


 そうなるとまるで低レベル攻略のようにプレイしないといけないのか。それは辛い。しかめっ面を浮かべる私に対し近藤は付け足すように、一応基礎パラメーターを上げるアイテムはあるけど、上にいけばいくほどすずめの涙ほどの効果しかないと言って続けた。


「残念だけどしばらくそうなる。けど重要なのはレベルではなく基礎パラメーターと実際の戦闘パラメーターだ。職業別の補正値で言えば、ウォーリアーもアーチャーも悪くはないんだが、レベルを上げるのには適してない」


 思わず溜め息が出た。じゃあ逃げ回ることしか出来ないのか。それはそれで難しい。大体それ私が求めてたゲームじゃない。そう不満を漏らすと、近藤は首を振って否定した。


「だからスキルポイントを稼ぐ。レベルは敵を倒したら経験値の積み重ねで上がる。でもスキルポイントは攻撃、防御やアイテム攻撃で稼げる。スキルポイントをがっつり稼いで、攻撃力アップや防御力アップのスキル、カウンターやオートスキル、魔法の類も覚えて強化するんだよ。いいか、大事なのはレベルじゃない、実際の能力値だ」

「でも、レベル上がっちゃうじゃない」

「とどめは刺さない。辻斬りだと思えばいい。一発殴って即逃げる。倒さなければ、低レベル攻略は可能ってわけ」


 そういうことか。ここではレベルを上げない。付け加えるなら岩山の向こうだとすぐ死ぬ敵ばかりでこの方法は取れない。何より目立つ。


「周り見てみろ、馬鹿みたいにレベル上げて表示させてるだろ。見栄か格好か知らんが、少なくともあれじゃ攻略できない。意味のない数字だ。奥にいる奴らだけが、本当の意味でこのメインストーリーをプレイしていると言える」


 近藤はそう言うと、そっと奥の一団へと冷めた視線を送った。一方私はメインストーリーの難易度を今実感していた。近藤様々だ。突き飛ばしたことは絶対仕返しするけど、今はただただその知識を認めたい。でも、私は一つ気になって尋ねた。「みんなそのこと知らないの?」と。その問いに、妙に難しい顔を浮かべている。


「どうもメインストーリー派は閉鎖的でね、情報がそう出てこない。だから知らないんだろうな。いいのか悪いのかは、どうとも言えないが」


 そういう側面があるのか。それでも私はこう思った。


「でもここにいる人達はさ、あの崖登って飛び降りたわけでしょ。それだけで凄いと思うんだけどどう?」


 高所恐怖症の人にあのエリアをクリアすることは無理。その割には結構人がいるぞ。その点どうなんだろう。


「ばーか。そんなもんレベルの高い奴に目つむったまま背負ってもらって最後は突き落としてもらえば一応突破出来るだろ。自力でここまで来た奴がどんだけいるか、甚だ疑問だね、俺は」


 こいつ……っ。よくも目の前で、悪かったな……悪かったな! 近藤の言葉は私の胸に深く突き刺さるものだ。どーせ私は一人じゃ突破出来ませんでしたよ……強く睨みつけると近藤が肩をすくめた。


「うん? めっちゃ疲れて言葉遣いが悪くなってるだけだ、悪気はない、気にすんな」


 嫌だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ