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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第二章:旅路
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第十六話:ただ、前だけを見て

 私の結論。近藤は嘘はついてない。今までも、今もそう。本当に腹割って話してくれた。特に美人だと断言した点は、大いに評価してやりたい。ただ……やっぱり言いたくないこともあるようだ。大分吐かせたので、それはもう聞かないことにした。


「ありがとー美味しかった。ご馳走様です」

「おう、わざわざ来てくれたんだ。こっちこそ感謝してるよ」


 なんか名残惜しいけど、お別れだ。私は近藤離れすると決めた。だから、しばらくもう会わない、会えない、会ってはいけない。


「受験もあるし、お前も大変だなー」


 近藤が冷やかし気味に肩を叩いてくる。だからっ、それは触れるな!


「俺もリハビリ頑張るかー」


 そうだそうだ、病み上がりだってこと忘れるなよー。

 冬空の下、二人は歩き近藤は駅まで送ってくれた。そしてヒョイッとお金を差し出した。私は思わず前のめりになりながらも拒絶する。


「いいよ、大丈夫ちゃんと親からくすねてきたから」

「一応約束だからな。取っておけよ。まあ、親に叱られたいならいいけどさ、ちょっと早い入学祝いだと思って受け取れ」

「ぐ……本当にいいのか……返さないぞ……」


 もう手は伸びている。だが、だがやっぱりお金のやり取りは慎重に……。


「なんだ受け取りにくいか? じゃあ落ちたときは返しにこい。これでどうだ」


 受け取りたくねーでもそんな意地の悪い一言で、私は素直に受け取れた。あざっす! ほんと助かります! うちの親怖いんです!


「じゃまたな。お互い、まずは当面のことを」

「うん、卓球に挫折して戻ってくんなよ!」


 やかましい。そう言われ、くるりと身体を回され背中を押された。

 振り返らない、そう決めて私は一歩踏み出す。振り返ると、まだ色々言い足りない、聞き足りないと近藤にまとわりついてしまうかもしれない。


 もっと褒めてくれ! 絶賛してくれ! 最高にハイにしてくれ!

 まだ全部言ってないだろ! 全部吐け! 隠し立てするな!

 そもそも、往復で考えるとこれじゃお金足りない……とかもう色々だ。

 でも足しにはなった。ありがとう。


 そして私達は別れた。本当の意味で、別れることになる。私は振り返らなかった。

 駅のホームは冷え切って、冷たい風が吹いていた。

 流れるように通過する列車の、大きな余韻が私の心に深く響く。

 今でも思う、それでも私はあの時泣かなかった。

 寂しい気持ちより、嬉しい気持ちが勝っていた。

 ただ感謝の気持ちでいっぱいだったように思う。


 こうして、近藤和一はトカレストから去った。


 近藤の離脱は少なからず周囲に影響を与えたようだ。

 ネットで検索すれば、未だに「スピードスター」としてその名前が引っかかる。

 そして一卓球選手としても、近藤は若手のホープとして期待される存在であることが分かる。


「凄いな、全国レベルなんて素晴らしい人材だ。惜しいなあ、うちのパーティーに欲しいなあ、戻ってきて欲しいよ……」


 そんな風に零したプレーヤーもいる。同感だけれど、これ以上無理はさせられない。

 しかし、年を越し随分と時間が経った頃、彼はひっそりとトカレストの世界に戻ってきた。メインをやっているのかは分からないが、ログインしていることだけは分かる。だけれど、互いに連絡することはなかった。私は後ろを振り返らず、ただ前だけを見て、トカレストストーリーの世界を生きていた。

二章のラストになります。次章もお楽しみ下さい。

感想、評価お待ちしています。よろしくお願いします。

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