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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第二章:旅路
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第十五話:さよなら、ありがとう3

 言うべきことは大方言った。でもまだ伝えないといけないことがある。ちゃんと結論まで、話し合わないと。熱々のサンドが届き、それをほお張りながら、私はどうやって言えばいいかを思い出す。もう、考えてあるのだ。


「旨いだろ」


 ふむ、と頷く。熱々オムレツ、なんて美味しいんだろう。これはまた来たい。近藤に奢らせよう。近藤がそんな私を満足そうに見ながら口を開く。


「ゲームの世界で自立に目覚める加奈は凄いよ。自分と姫を比較するとか、どんだけ入り込みやすいんだ、心底感心する」

「ふぁって、ほういうへーむだと……」


 食い終えてから喋れと注意される。


「だって! そういうゲームだと思います。結構設定凝ってるよ」

「別にそこに注目するゲームじゃないだろ、トカレストは。仮想現実って現実の完成度を楽しむもんだ」


 違う違うと首を振る。


「RPGはストーリーが命!」

「いや、ゲームはルールが命だ」


 否! ルールだ。 否! ルールだ。どこまでも平行線だった。


「けどま、いい結論だよほんと。俺がいなくてもやるってんだからまあやってみろ」

「近藤の独占欲から解放された私は、さらに成長するのだ」


 やめてくれ……そこは突くな、と嘆くが、一生突いてやる。まあ私もどんだけ近藤頼りにしてたんだって話だけどね。


「でさ近藤、だから私は私で先に進める。近藤とのコンビは、解消ってことになります。今までありがとうございました」


 馬鹿丁寧に頭を下げると、いえいえこちらこそ、と近藤も真似をした。


「でね、近藤、私の背中追いかけたりしないでね」

「うん? ああ、まあ実際すぐは無理だしな。けどそれはつまり、俺が再開しても戻って付き合ってはくんないと、そういうことか」


 そうだ。近藤とのコンビはこれっきり。もし次組む……ないと思うけどそれがあるとしたら、


「次組むことがあるとしたら、近藤がずーっと先に進んだ私に、奇跡的に追いついた時。でもね、それはして欲しくないんだ」


 エネさんに話聞いて、そう思った。心底思ったんだ。


「追いつくどころか、追い抜くかもしれんぞ?」


 ないないと手を振る。近藤はそんなことしない。もうそれは知ってるんだ。


「近藤、病み上がりでしょ。ちゃんと治しなさいな」

「そらまあ。けどそっちも受験だろ。治る頃にはタイミングそうずれてないかもよ」


 受験のことは言うな! 私はさっと下を向く。そんなに勉強してないのかと心配された。それなりにはやってますと小さく呟く。


「そいつは、いいけど残念だな。でもまあ現実的か」

「そうでしょ。最短二ヶ月って、ほんとはどれぐらいなの?」


 知ってるんだ、ほんとは知ってるけどあえて聞く。近藤は嘘をついている、そう言ったエネさん、今からそれを確かめるよ。


「ぶっちゃけ、ゲームに集中すれば最短二ヶ月。これは事実」

「それはつまり、卓球横に置いて、でしょ?」

「まあね。部活抜いてトカレストだけ選択したらそれ。けど両方選択したら……もう少しかかるだろうね」

「卓球を選択したら? 優先したらどうなる?」


 近藤はじっくり考えて、結論を出した。


「もうやめるかも」


 そっか……やめることも考えてんだ。遅くなるとか、サブに行くとかそんなじゃなくて。でもそれも当然か。近藤の現状を考えたら当たり前かもしれない。それでも気になって、聞いた。


「現実的にはどうしようと思ってるの?」

「加奈が待ってるなら、当然トカレストに重点置くつもりだった」

「私を手放したくない?」

「……結構しつこいな。あるかもしれないだけに恥ずかしいわ。でも、いや悪いと思うからだよマジで」

「思わなくていいよ。私は近藤に甘えてたんだ」

「それは一面的で、俺が付き合わせてた面もあるだろ。加奈は俺に合わせて、俺は好き勝手やってたとも取れる」

「けどそれを止められなかった。どっちにしても相棒失格だよ」

「そうか、そうならそうする。そもそももう結論は出てるんだから、適当に決めるよ」


 適当ではなく、真剣に考えて欲しい。それが聞きたい。


「近藤って、卓球どれくらい強いの?」

「強い? まあ、県内でトップ争いするぐらいかな。こうなる直前は、国内トップに食い込めるかもしれないと、自分で思ってた。それぐらい」

「高校一年でトップ争いなら、超エリートじゃん。卓球、疎かにしちゃダメだと思う」

「まあ、身体なんとかしてからの話だよ。大会後でよかったよ、負けて終わったけど一応出れたし」


 その時の話も聞いた。エネさん曰く、その大会初日の近藤の動きは『世界を感じさせるものだった』と。けど初日で燃え尽きた。そりゃそうだ、こうして入院してたのがいい証拠だよ。


「卓球って、反射神経と動体視力の人類最速を競うスポーツだよね」

「ああ、そう言われてる。技術もいるけどね。対人スポーツでトラック競技じゃないから」

「だからスピードに拘ってたんだよね。分かるよ」

「いやいや、自分の特徴、武器を伸ばしてたら自然とそうなったの」


 それはそうだ。私は漫研で、少女マンガから少年マンガ、そして昼ドラを愛しているのでそこを……伸ばしたというかそうなった。でも、限度がある。


「近藤は疲労の蓄積で入院したんだよね」

「ああ、練習しすぎた」

「やっぱそれってトカレストの影響かな。リミッターアンロック、今でもそう思う?」


 人間の限界を引き出す。肉体にダメージを背負うことになっても。


「だろうと思うんだ。あれで感覚狂った。取り戻すのに、練習しすぎたなあ……」


 近藤は心からやってもうた感を出している。そか、そうなのか。


「じゃあもうやんない方がいいのかもね」

「未知の体験だっただけに、惜しいが同時に怖いな。もうあれは使わないだろう」

「ううん、トカレスト自体」

「やめさせたいのか。俺はストーカーじゃないぞ。やめるのも考えてるよ実際」


 苦笑して、近藤はハンバーガーについてきたポテトを口に放り込んだ。私も一ついただく。


「勿体無いよ、そっち頑張って欲しい」

「なんだ、何が言いたいんだ? はっきり言えよ」


 なんかちょっとだけいらっとしたらしい。じゃあ言ってやる。


「無理して欲しくないです……私のせいでこうなったかもしんないと思うと、心苦しいので」

「は?」

「私のために無理してたのかなって。卓球頑張りすぎて、そのくせトカレストでも私を独占するために頑張って、それでだったら私の責任もあんじゃん」

「ほんとしつこいな。なんだ、モテるだろお前? その顔でスタイルなら。そんな褒められたいのか? 普段から言われるだろ、俺が言わんでも」

「ぐぬぬぬぬぬぬ、近藤! 聞いてくれよ!」


 私は思わずなんか基本的なこと忘れて身を乗り出していた。

 こんどお! それがちげーんだよそれが! もてねーんだよこれが! 自分でも驚くほどにもてねーんだ! なんでかは知らないが、自己評価と周囲の評価がまったく一致しないんだ! 私は女としてほぼ完璧に近いんじゃね? 性格も含めてと思ってるのに、告白されたのはちょっと頭のネジの緩い奴と既婚の先生だけだぞ。犯罪だそれ! 世の中まちごうとる! 革命おこしたろかと思うよほんと!


「そいつは、気の毒に……でかいと色々大変だな」


 マスター……熱っっっいホット珈琲くれ。こいつの頭に、ゆっくりかける。

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