第十一話:離別するための旅路3
結果はすぐに出た。近藤が確かめ、はっきりと言われたらしい。
「二ヶ月。最短でこれだ、どうよ? 受験に集中出来るんじゃないのか?」
「手遅れだ……入学の準備してるわ……でも思ってたより短いね」
おおう……と嘆くふりをする。けど少し安心してもいたんだ。入院して二ヶ月ならそんなに長くない。さすが近藤、タフだぜ。
「そう言ってくれると嬉しい。入学祝い、トカレストでやろうぜ」
「そのトカレストのせいで私は……なんと浪人生に!」
「……残念会の準備もしよーぜ」
「やめろっ!」
お互い笑っていた。でもトカレストの時よりなんだか遠慮がちだ。そりゃそうだ、声しか聞けないのは初めてのこと。ずーっと顔を合わせて旅してきたんだ。私はどこまでも私で、近藤だってどこまでも近藤のはず。ほんとガチだったからなー容姿は。そう冗談めかすと、
「こっちも眼鏡以外はガチだ。問題は時間。二ヶ月に六かける」
真面目な声が返ってきた。なるほど確かに。
「単純計算でゲーム内だと一年だね」
「それだ。どうする?」
「近藤いないと、進めませーん」
当然。攻略情報つきで神の領域に踏み込んだ近藤がいてこそだ。けど、返ってきたのは意外な提案だった。
「……情報源、教えようか?」
なんで……強い違和感を覚え、私は答えられなかった。だってそれだと、二人でやらないってことで……。私だけ進めろってこと?
「どうだ」
「近藤、それはちょっと……」
「なんで?」
「近藤いないと進めないからだよ! 分かるでしょ!」
「いや、だから情報源」
そういう問題ではない。近藤の的確な判断と冷静さ。プレイヤーとしての強さ。最近はお疲れ気味でこんなとこになったけど、元の近藤なら問題はない。何より、二人パーティーでずっとやってきたんだ……パーティー解消なんて、出来ない。レベル抑制のためにパーティー解消するのとは、わけが違う。はは、と無理に笑って私は告げる。
「二人でやってきたじゃない。それは、ないかな」
「けどこれじゃあ俺が足引っ張る形になる」
「気にしなくていいよ。仕方ないもの」
「けどなあ……」
「こんど……もしかして私が、嫌になったのか……」
「まさか、会いたくて仕方ないけど」
こ、近藤? そ、そんなこと言うなんて、や、
「やめろっ。告白するなら、眺めのいいところで頼む……」
弱ったことを口実に私を口説き落とそうとは、近藤め、人の弱みに付け込みやがって! これだから色気づいた高校生は! ちょっと考える時間くれ!
「ゲームでの話だけど」
そうですかーですよねーってややこしいこと言うな! こっちは顔真っ赤だ。電話でよかったな! トカレスト内だったらブルプラぶっぱなしてるぞ!
「加奈が変なこと言うからだよ。結構現実的提案だと思うんだけど」
「追いつける? 私先に進んで」
「そもそも加奈が先に進めるかも不安だけど、追いつけるか……正直分からん」
無礼な上に自信ないのか。話にならない!
「二人パーティーも問題だ。大勢のパーティーに入るいい機会だとも思うんだが」
それは……それには少し反論がある。
「なんか流れが変わってるんだ。少数パーティー結構見るようになった。ソロも目立つ。基本は大人数パーティーだけど、そうも聞いてるんだ」
無駄に一週間過ごしていたわけではない。色々と観察もしていた。変化する様をこの目でも見た。ただ理由までは分からない。分析は近藤の仕事だ。そうなのかと近藤は呟いて、しばらく沈黙が出来た。私はそれを嫌って、また同じことを繰り返し強調した。
「いいかい近藤。近藤がいないと進めない、と思う。自信ないんだ。少数パーティーが増えてる点も気になる。とすると今の形は結構有利なのかもしれない。だから簡単に先行けって言わないでくれ。死んで来いって言われてるみたいで、怖いんだよ!」
「……ううん、分かった。もうちょっとちゃんと考えるわ」
「考えて言ったんじゃないの?」
「いや、思いつき」
その思いつきでこっちは狼狽してんだ。こいつ……直土下座決定だな。
「その思いつき、高くついたな近藤」
「待て、なんだ」
「ちゃんっっっっっと考えて、打開策考えろ! 一番は、病院抜け出してさっさとトカレストやろうぜ、だ」
――出来たらそうしたいよ。その近藤の苦笑が本物で、やっぱ無理だよねと私は笑った。でもさ、笑って終われるのは凄くいいと思う。ちゃんと考えろよーチームの頭脳だろーそうとだけ言っておいた。




