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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第二章:旅路
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第五話:お化け屋敷という名の狂気

 闇夜に浮かぶお化け屋敷での体験は壮絶だった。疲れていたからとかそうことではない。あれは、苛烈な悪夢だ。

 外見は意外と可愛いお化け屋敷、という名の洋館。首吊ってる影が窓から見えるけど人形だと思えばどうということはない。よくあるパターンだ。ちょっと見るだけだという近藤について屋敷に入る。ちなみに、料金は取られない。けど、中の物は備品なので絶対壊してはいけない。弁償地獄で借金まみれになる。

 入り口は普通の広間。広い洋館、お屋敷という感じ。薄暗いし、多少不気味ではあるがこれは宮殿で経験済みだ。まあ確かにゾンビ犬は飛び出してきそうだけど……。どう進むか迷うが、あくまで下見なので適当に左の通路へと入った。


 ――金切り声が聞こえる。女のヒステリーな声だ。


『どうしてアンタは言うことが聞けないの! だからアンタみたいなのはダメなのよ! ふざけないで! ちゃんとやれば出来るでしょう! 嫌がらせなの! どうなの!

 答えなさい! 答えろ! 答えろ! 答えろ!!

 ……どうして答えないの! どうしてあなたはいつもそうなの! なんで、言う通りに出来ないのよ!!』


 部屋の中から聞こえる叫びは、酷いものだ。怒り狂ってる。私は恐る恐る中を見た。

 女が叫び狂っている。それはそうだろう、声がしたんだ。いやむしろ誰もいない方がホラーじゃね? と思いさらに奥を見ると――子供の死体があった。規制の関係でモザイクがかかっているが、それが死体なのは間違いない。


「し、死んでる子供に説教してるよこんど……」

「みたいだな。でも敵じゃない。ありゃ人形だ、備品だよ」


 ――ありえない狂気を無視して進むと、赤鼻のピエロがいた。


『はーい皆さーんピエロですよー』


 見れば分かる。


『でもなんの芸もないのでー頭外しまーす』


 やめろっ。リアルにぶちぶちと音を立てて、ぐおおおと呻いて自分の頭を無理やりちぎろうとしている。ぶちっっっっと外れる寸前にモザイクがかかるが、何が起きているかは一目瞭然だ。


『はーい……これで満足かー満足なのかー!』


 落ちた首から声がする。モザイクの向こうから。


「うわぁぁぁ……こんど……こ、これは何?」

「芸がないって自分で言ってたじゃないか。何も出来ない奴は極端なことするしかない。でもこれ備品な」


 ――『いーち、にぃーい、さあーん、しぃー、ごー、ろーくしちはちくーじゅぅー』


 節をつけて数を数える子供の声がする。西日本方面の訛りだろう。やだな、なんか和風ホラーっぽい部屋。正直見たくないんだけど通らないと進めない……。数が百に近づいた頃、意を決し中に入った。

 そこは教室で、人がたくさん寝転がっている。子供達? モザイクかかってるけど凄い数。モザイクってことは……先生もいるけど……。一人いた少女がこちらを振り向いてにこっと笑った。


『もうみんなむかつくから殺したってん。給食に毒いれったった。食べたらあかんよーアホやわー』

「ど、どういうコンセプト?」

「拾い食いはするな。違うな、復讐するはガキにありって感じか。ま、ただの虐殺だろう。とにかく備品な」


 ――ドゴンッ。ドゴンッ。何の音?

 そこはバッティングセンターで、一人の男性が気持ちよさそうにバットを振っている。しかし球は人間の頭部だ。


『やめろーやめてくれー!』と頭部は叫ぶ。


 構わずフルスイング。ガンッと鈍い音を立てて転がっていく。


『おし、ホームラン』打った本人は満足そうだ。ゴロなのに。

「は、はったりだね、大したことない」

「球も含めて備品な」


 ――古ぼけた缶を抱えた小さな女の子が近づいてきてこう言った。


『なんでホタルすぐ死んでしまうん?』

「知るか!」


 私は切れたが、近藤は冷静なのか冷徹なのか、エサやりゃ死なない、失せろと追っ払った。


「ふざけんなよ! なんだこれはこんどお!」

「あの子自体飢えてたな。どうでもいいけど、備品な」


 ――電子レンジの中に……子供が……回ってるんですけど。


「備品ですね」

「せやな」


 ――『元気ですかー!』と叫ぶ男はもう死んでいた。観衆もみんな死んでいる。『元気があれば、なんでも出来る』と訴えるが、誰に対してだ。


「どうしろと?」

「知らん」


 ――手術室に医師がいる。患者もスタッフも揃っている。そして医師は告げる。


『では、殺します』

「治せっ!」

「備品な」


 ――大勢の人々が、まるで応援しているチームが優勝したかのように騒ぎ、橋から飛び降りる。だが下は地面だ。激突して次々ともだえている。即死じゃないのが無駄にリアルだ。


『いやっほーう!』『ばんざーい!』

「どれだけ待ちわびたら、ああなれる……」

「千年ぐらいかな」


 ――部屋に入ると妻が夫を刺し殺していた。何度も、何度も何度も。妻が包丁を投げ捨て満足そうな笑みを浮かべている。


『やったわ……これで財産は全て私のもの!』


 しかし何故か立ち上がった夫に妻はフライパンで殴打された。何度も、何度も何度も。


『俺は、俺は生まれ変わった! 俺は今人間を超越した!』


 と言ってガッツポーズ。眼球がドロッと零れ落ちた。


『私も、私も生まれ変わった!』


 と言って何故か妻も復活。二人でハイタッチすると交差した腕がそれぞれ吹き飛んだ。


『らんーらんらららら、らららららららぁ♪』


 それでも踊ってる。


「何気に、ストーリーと関連性があって……汚された気分がする、物凄く」

「敵、かもしれん無視しよう」


 ――吹き抜けになったホールの向こう側、ビッグ・アイが物凄い勢いで転がっている。足はない。こらちを確かめると、真っ赤に染まり追いかけてきた。


「あ、あれは敵?」

「備品。体当たりされるとこっちが壊したことになる」


 ――全裸の白人男性が、モニターに向かって叫んでいる。映っているのはアニメキャラ? 女の子?


『ガッデム! ガッデムガッデムガッデムガッデムガッデムガッデムガッデム、ガッッッッッデム!』

「何故、怒ってる……」

「モニターから出てこないからだろ。ありゃ敵だ、構うな。ガッデムガッデムうるさい」


 もはやホラーですらないものも含めて、嫌がらせのような演出は延々と続く。完全に精神攻撃だ。一番絶望的な台詞は近藤の口から出た。


「慎重に進んで、大体二十四時間でここをクリア出来る」

「ガッデム!」


 思わずも叫ぶ。おかしいだろ二十四時間とか! 無理だろこんな状態突き進むの!


「パニック起こしたら終わり。備品壊したら弁償。そういうことな」


 嫌な、事件だった……じゃねーよ、マジでこれをクリアしないといけないのだ。もう中世風RPG関係ないじゃないか!

 私は近藤に身体を支えてもらい戻った。戻るのも悪夢だ。

 そして八つ当たり気味だが近藤に怒声を浴びせた。なんてものを見せるんだ! と。

 こんなの、こんなことするためにこのゲーム買ったんじゃない!

 心の叫びはそう言っている。はらわたが煮えくり返るような思いだ。

 現実を超えた現実、夢の世界へようこそ……どこがやねん!

 もういっそ切れてやりたい。クソゲーだと何もかも叩き割りたい。

 ネット通販のサイトに悪評を叩き込み続けてやりたい。

 ネガティブキャンペーンの先頭に立ちたい。

 やめだ! そう言って何もかも投げ出したい。

 だが――それが出来ない。私にも事情というものがある。近藤に事情があるよう、私にもどうしても外せない要素というものがある。それはやはり、お金だ。

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