第四話:二つの世界
「このゲームの負の側面だ。サブクエスト、ミニゲーム廃人だと金が出て行って仕方ない。本人達がいくら幸せでも周囲はたまらん。程度によるが、いずれ問題になるだろう。
でも仮想現実・空間が実現した今、廃人と一言で切り捨てていいんだろうか。選択と言えなくもない。廃人と呼ぶのは正確ではない、と思ったりもする。これはもう生き方の問題にまで膨らんでいるんだ。人ひとりの価値も下がって、テクノロジーの進化は止めようもない。
世界自体が広がった。今世界は二つ存在する。
それでもなあ身内がそうなると理屈じゃないんだよ……マジ廃人勘弁してくれってな。挙句メインストーリーの廃人モードだぜ。"金がなくなったらはい終わり"ってのが見込めない。ショックだし疲れるよ」
寂れた酒場で、近藤は肩を落とし説明してくれた。私は気分を変えるのにおつまみでもどう? と提案したがリアルで飯食ってきた、とやんわり断られる。
「なあ、なんで二人パーティーか分かるか?」
近藤に尋ねられ、ふむと頭を捻る。そういやんなこと考えたこともなかった。確かにもっと大勢でもいいのに、なんでだろう。ああ、そうか。
「情報を漏らしたくない」
ビシッと指をさす。私だって状況は掴めて来ている。近藤は小さく頷いた。
「それもある。出来るならメインの情報は管理したい。メインストーリーやってる人間はそう考えてる。まあ気持ちは分からんでもないのでその流儀には反したくないんだ」
「ちょっとだけ分かる。口の軽い奴いたら困る。やり込んでる人ほどそう思うかもしれない」
でも時間の問題じゃないだろうか……いや一年経ってもまともに出てこない。一体メインストーリー派はどれだけ結束が強いのだ。
「で、まあそれと、あとは二人じゃないと色々困るとこあったろう」
近藤が腕組み状態で話を振ってきた。ん? あったっけ。
「崖。何人突き落とせばいいんだよ」
ああ……。
「大勢ぞろぞろ連れて辻斬りになんねえだろ」
はい……。
「見つかってはいけないマラソン状態なら少数がいいよな」
宮殿ですね……。
「攻略方法知ってればいいけど、知らなかったら眼球野郎が暴れだした時点でとんだ惨事だよな」
確かに…普通にやっていればみんなパニックになるだろう。
「パニックですみゃいいけどよ。惨状が思い浮かぶよ、パニックは感染する。とにかく少数パーティーがいい。効率的に」
そういう理由があったのね……。私は今まで自分が歩いた道すら把握出来ていない自分がなんとなく情けなかった。近藤はしれっとしたもので、左手を広げてさらに続けた。
「ここらへんまではな。まあだからゲーム始める最初の時、旅の広場じゃぼっち探してた」
お前な、と指さされる。ぐぎが……なんかむかつく。
「それは近藤もでしょ! 近藤もぼっちじゃん!」
ぼっち言うなぼっち! と抗議するとそりゃそうだと近藤はおどけるように笑った。
しかめっ面をそのままに、それでもお互いたまたま一人だったから知り合った、その事実に不思議なものを感じていた。これがもし、何も知らない人達やゲーム慣れしただけの人だったら、私はある程度進めたとしてもどこかで必ず詰んでいる。今目の前にいる卓球部の彼との出会いがあったから、こうしてここに二人でいるんだ。
最初はお互いキャラメイキングもしていなかった。何も情報がない中で、偶然にも知り合い、それが功を奏している。二人だからこそたどりついたこの場所なんだ。
「はは、でまあこっから本題。難易度の異様さは今までの経験とそこのお化け屋敷で本格的に伝わったと思う」
「あれ難易度っていうか、ふるいにかけられてるみたいでむかつく!」
「いやだから、ふるいにかけられてんだ」
でした。ってかマジないよ……ホラーとかそういうんじゃないじゃん。
「あれですめばいいんだが、あれが続く。だからここがリアルな分岐点」
あんなのが続くのか……私はお化け屋敷を思い出し、かなり落ち込む自分を自覚していた。




