27.私達の戦いはこれからだ!
ラスボス、仲間達だった者、そして聖剣士ガルバルディ。東の大陸では戦闘が再開された。
打ち合わせの最中、ラスボスが巨大な尾を振り回し周囲一帯を凪ぎ払おうとした。
だが、ガルバルディが受け止め弾き返す。
予想通り、聖剣士にダメージ表記は見られない。
『事情は理解した。しばらく私に任せてもらえるかな』
『任せた、お手並み拝見だぜ!』
ゼイロが威勢よく応じ、ここにラスボスとガルバルディの一騎討ちが現実と化した。
私達はその様子を、固唾を飲んで見守っている。
ハッキネンは「これが最終形態なのだろうか」とか「ガルバルディ頼む、いや頼まない」などと呟き不安げだ。
ザルギインは、
「小娘、移動はどうするつもりだ」
などと実用的な話題が多い。
そしてクロスター。
「ここが博打の打ち所、か。お前予期してたな」
「さあ。だとして都合が悪いのか」
「いいや全く」
と、かぶりを振る。不愉快なだけだ。
最初から話を聞いていた、察しておかしくない。元々こいつらは、ガルバルディ目的で王国を見張っていたのだから。
私はといえば、映像を眺めながら改めて自分のステータスを確認していた。
最高レベルまでやり込んだわけではない。レベルが高くなれば、後はアイテムでステータスを上げた方が早いからだ。
そのステータスはと言えば、とっくにカンストしている。素のステータスも、ジョブチェンジ後のステータスもMAX。
スキルはどうか。
状態異常への耐性は装備と共に準備出来ている。攻撃への付加、追加効果も当然万端。
装備も当然整っている。
そもそもラスボスと単独でやり合うつもりだったのだ。やり残しはない。
そういや光の勇者は外した方がいいな、と思い付いたのはそれぐらいだった。
「戦い方の確認をしよう」
そうして、四人で最後の打ち合わせへと入る。
ーー彼らの強さには敬意を表したい。
急遽集めたメンバーだが、確かにみんなやり込んでいる。きっと私よりトカレストを理解しているだろう。
見たことのないスキルやアイテム、特殊装備や華麗な魔法、鮮やか必殺技など目を見張るとはこのことだ。
連携も出来てきた。ラスダンの強制に備え、ソロで戦ってきた私にはとても出来そうにない。連携技の特別なエフェクト、演出まで拝めるなんて私は幸せ者である。
その君達を裏切る形になろうとは、思いもよらなかった。
ラスボスと単独で対峙出来るガルバルディ、やはりあなたが最強だ。
私にとっては大凶だが、今はその強さを存分に発揮してくれればいい。
ラスボスは、ガルバルディさえいなければ最強だったろう。複数の形態に変化し、範囲攻撃を撒き散らす。多彩な状態異常までばら蒔くのに、自分となれば耐性と回復で嵌めようもない。
確かな火力、これどう考えてもクリアさせる気ないだろうという打たれ強さ。お前は本当に何者なんだ。とても楽しみだよ。
そのラスボスはガルバルディに痛め付けられ、複数の上位プレイヤーに取り囲まれている。
そろそろタイミングが訪れそうだ。
「近藤、なんか申し訳ない」
『うん? ああ別に構わんよ。加奈が決めたことだ』
「そうなんだけど、もしかしたらクリアとかなくなるかもしんない」
『そこは俺には関係ないだろ。そもそも俺にその気はないわけだし。つかむしろだな……』
「つか何?」
『まあ、なんか予言めいたことを言ってしまったなと』
嗚呼、と嘆息する。
本当に初めの頃、近藤は言っていた。
ガルバルディがラスボスになるのではないかと。
今思えば確かに予言めいている。気にするようなことではないが、これから起こることを考えれば思うところもあるだろう。
「大丈夫攻略してみせるよ」
『なら期待しよう。ラストバトル、楽しんでこい』
あいよと心の中で応じ、
「さあ行こうか」
三人と向き合う。
「いざってなると、武者震いがするね。ここまでやるとは、君は本当に大胆不敵だ」
ハッキネンはそう言ってから、慈しむよう愛刀を見つめた。
「我が覇道を成し遂げる好機。失敗は許されん。敵に回してしまうのだからな」
「そうね。待ってればいつか手に入るのに、せっかちだね意外と」
皮肉混じりで応じると、ザルギインは苦笑してみせた。初めて見るかもしれない。
「老い朽ちた肉体を手に入れてどうする。しかし、正直言うならばだ」
「なんだよ」
「負け続きでうんざりしていた」
不適に嗤うが、そこにはこいつなりの苦労が見て取れる。小指の先ぐらいは同情してやろう。
「退路はない」
クロスターはそう言い、ボロきれだった法衣を脱ぎ捨て、丁寧に畳んでから新しい法衣をどこからか持ち出した。
「あの二体は我らが頂く。お前は大願成就、侍も同じくだ」
「早く着ろよ、全裸で語るな」
主従揃って露出狂かこいつらは。モザイク見るの久しぶりなんだけど。
「我に秘策ありだ。そちらも用意にぬかりはなかろう」
ようやく法衣を纏い、クロスターの準備も整った。
こうして我々は、地下都市から戦場へと旅立つ。
忌々しい記憶、悲惨な出来事、意味不明な仕様、謎の借金システム、薄っぺらを越えたストーリー、管理する気がない運営、エトセトラエトセトラ。
さあ行こう、私達の戦いはこれからだ!
違う。
奴を血祭りにあげて、何もかもぶち壊してやる!




