26.お前だけは許されない8
「ないよ、保障はない。保証もきっとなくなる。物語は私たちの知らない間に一瞬で進んでしまう」
連れ戻されたラビーナがどうなるか、どの地点で介入出来るのかさっぱり見当もつかない。
「でも今なら、無理矢理にでもあいつらを止められるじゃあないか」
演技がかった物言いをすると、
「侍マスター、この娘の言う通りだ」
ザルギインがなぜか口を挟んだ。
「いやどこがだい?」
「もしツォイマーとかいう跳ねっ返りに照準当をててみろ、お前ら無事ではすまんぞ」
ほんとこいつ、よく理解している。
「国王にしても同様だ。お前ら自由人を気取る者達と王国の戦争になる」
「つまり……プレイヤー全体が標的に……いやでもそれは、ガルバルディでも同じだろう?」
「聖剣士殿は気ままが過ぎる。強い、という事実が彼を正当化しているのだ。負けた、しくじったという事実が表沙汰になれば、彼が失脚するだけだ。死んで喜ぶ奴らが一体どれだけいると思う」
ガルバルディのことならともかく、王国の事情をハッキネンが知るわけない。
「本音はガルさん、天下国家とかどーでもいい人なんですよ。もう枢機卿もいないし、王国なんて知ったこっちゃないと思う」
「意味が分からない。それでもまずいだろう!?」
「ううん、何もかも投げ捨てて放浪の旅に出ちゃうルートがあるぐらいだから、問題ないよ」
「なら、それを襲うのは気の毒と思わないのか?」
「いや全く。こんな小娘と負け犬覇王とその付き添いに負ける奴なんて、所詮そんなもんっすよ」
悪びれず言ったわけではない。それでも、今のガルバルディはラビーナに対し冷淡だ。仕事をこなした後、見捨ててどこかに旅立つ可能性だってある。
「私はラビーナを諦めさせたいんだ。そのきっかけはガルさんからしか得られない」
「この土壇場で君は……」
「うん、この土壇場でいきなりクリアとか諦めて私と一緒にトカレスト最強キャラクターと戦おうぜっ! って言われても、ピンと来ないよね」
もう、ハッキネンは空いた口が塞がらないといった風だ。だけど、
「真の侍は、女子供を守るためにあると私は思う」
「ちょっと待ってくれ」
嫌だやめない。
「侍とは死ぬことと見つけたり。この意味は最強の敵を的とすることから逃げ出すことだろうか?」
「キリア君、やめるんだ」
絶対にお断りだ。
「私、ハッキネンがいてくれたら凄く心強い」
「やめろ、僕はただ侍として生きたいだけーー」
ここで必殺上目遣い。
「ねえハッキネン、最強を証明したくない?」
奴を倒せば、ソードマスターを見下していた奴らを見返すことが出来る。
この現実から、果たして彼は逃れられるだろうか。
それとも、ただのクリアメンバーの一人として名を残す実を取るのか。
侍なら決まってる。
「……僕がいれば、勝てる?」
「もちろん」
「真の侍に、なれる?」
「誰にも文句は言わせない」
真摯な目で、じっと北欧の大男を見つめる。少しの時間を要した後、
「ーー分かった、殺す。あの怪物ぶっ殺そう」
ようやく彼と私は、真の仲間になれた。
ごめんハッキネン、正直チョロかった。
残るは覇王とその側近。
「お前らへの手土産は、言わんでも分かるよな」
「無論だ。さてクロスター卿、どうするね」
覇王は側近へと水を向け、
「陛下、ここが博打の打ち所かと」
側近は待ってましたと言わんばかりに乗ってみせる。
「最強剣士と神話の怪物、どちらも我が配下としてみせん」
覇王も側近も、およそNPCらしからぬ怪しい笑みを浮かべ、身も心も侍コスプレを極めんと欲す北欧の大男は、狂気を孕ませ笑みをつくる。
私は戦乙女ヴァルキュリア。
ラグナロクのためならば、男共を手玉に取ることなど造作もない。
なんて思いながら、彼ら同様不適笑みを浮かべるのだ。
敵は、敵は本能寺にあり!
私達の本能寺は、ラスボスがいる場所だ!
裏切り上等下克上!
国王も騎士団の跳ねっ返りもここにはいない!
だけどガルバルディ、あなたは来てしまった!
だから、お前だけは許されない!!
その喉笛、掻き切ってやる!!




