25.お前だけは許されない7
このままいけばラビーナはまず間違いなく王国に連れ戻される。
王位を望まず、魔に堕ちてまで血塗れの王国から逃げ出したのに、それでも運命は変わらない。
理由は明白かつ古典的、根源的なものだ。
血統がそれを許さない。
魔に堕ちようが、子供ぐらいは産めるだろう。産めなければ、その時考えればいい。
見た目は人間なのだ、仮初めに王位を継がせ、ガルバルディと偽装結婚でもさせれば問題ない。
血統の問題は、ミリアンの近くからガルバルティに誰か嫁がせればいいのだ。そうすればキレイさっぱり、全ての問題は解決する。
事実上新たな王朝が誕生したことを公表するかどうかは、彼らの決めることだ。
だが、恐らくミリアンはそんな一足飛びな決断は下せない。
そもそも王国内部には不穏分子が多すぎる。騎士団には、元々神竜騎士団主流派だった者が大勢含まれている。彼らはレンベルク王国の乗っ取り、王家抹殺を目的としていた。
正統な血筋を持つラビーナを排せば、彼らの悲願が成就してしまう。仮にもミリアンは、王家復権を旗印に内乱に加わったのだ。
正統性のない新たな王国を創り上げれば、また内乱がおきかねない。あの内乱の終結は、あくまでシュタウハーの血を継ぐ者がいることが前提となっている。
だからミリアンは、ラビーナとファウストリア枢機卿の事件を知らぬ存ぜぬで押し通した。
推測だが内々に、ラビーナを人間に戻す方法が見つかるまで連れ戻すな、という指示でも出していたのだろう。
でなければガルバルディが、いつでも捕らえることが出来たあの娘を野放しにしていた理由が見つからない。
「私はそんな、彼らの傲慢さが許せない」
私の想い、一連の流れを説明すると、
「それが通用するほど王室は甘くない」
かつて覇王として君臨したザルギインは、手短にはね除けた。
「そう、そうだろうとは思うよ。でもお前はもう王族でも皇帝でも、魔王ですらない。ただの負け犬、というかお前は当事者だ」
「そうだったかな」
素知らぬ顔に、些かの迷いもない。そりゃそうか。
「クロスター、お前がやったんだものな」
沈黙を貫いていたクロスターは、突然向けられた刃に、それでも泰然としてみせる。
「さあ。一つ尋ねたい。なぜお前はそれを確信出来ていないのだ」
嫌なところを……。
「ラビーナは枢機卿との一件を話してくれなかった。きっと自分の自由のため、大勢を犠牲にした事実に苦しんでいた。だからだと思う」
「そうか。お前がそう思うのなら、それでいい」
あの件は本当に分からない。だが、ここで詰問するつもりはない。全ては終わったことで、私はその事実を抹消してしまおうとしたのだから。
私は、言うなれば共犯者だ。
「じ、事情は分かった。けどそれは今じゃなくたってーー」
ハッキネンの的はずれな指摘を、
「今じゃなきゃいつ殺るんだ! 冥府にそんな気の利いた化け物がいるの? いるんだったら連れてきてよ!」
大声で制する。未だ戸惑うハッキネンに、重ねてもの申す。
「言ってることは分かるんだ。無茶も承知してる。だけど、もうこれしかない。ガルバルディが来た以上、もうラビーナが逃れる術はない。フラグ立ちまくってて、あいつらが回収しにくるのは確定しちゃってるんだ」
だからそれを潰すしかない。
クリアしたいという思いと、ラビーナを救いたいという思いを両立させるたった一つの冴えないやり方。それが私の結論だ。
「いやでも、なんで王様とかそのツォイマーとか、その辺じゃないんだ。ガルバルディでなきゃいけない理由が、僕には分からない!」
嗚呼……それはそうだ。私がなんでも話し合いで解決すべきマン、そんな乙女だったらきっとそうしていただろう。
でも実際はツォイマーなど知らず、ミリアンの顔などついさっき初めて見た。
私はガルさんがどこかで守ってくれるだろうとーーいや、ただ自分のことで必死だっただけ。なぜかみんなに敵視され、引退を迫られ、ふざけんなとかつての相棒に助けを求め足掻いていただけの、惨めな最強プレイヤーに過ぎない。
「私は近藤に助けられた。なんか無茶苦茶なことになったような気がしないでもないけど、とにかくここまでこぎ着けた。次は私がラビーナを助ける番だ」
「そうじゃないそうじゃない! クリア後でもラビーナ嬢の手助けは出来る! 今ガルバルディを襲撃しても、その後なんの保障があるっていうんだ!」




