24.お前だけは許されない6
私の言い分を理解したのだろう、ハッキネンもザルギインも息を呑みその衝撃を隠さない。
唯一クロスターだけは何かを察していたのか、動じる気配を見せなかった。
戸惑いを露にハッキネンはこちらを見ている。
「ガルバルディと、聖剣士と戦うというのか」
「はい」
「それが君の真意なのか」
「ええ」
淡々と応じる私に、やはりハッキネンの思考は追い付かない。
「な、なぜだ。彼を倒してもクリアとは関係ない。というか、わざわざラスボスを仕留めるため応援に来てもらったんだぞ」
なぜ? 邪魔だからに決まっている。
わざわざ来てもらった? わざとおびき寄せたのだ。
ラスボスを仕留めるため? 違う、ラスボスを査定するためだ。
「ガルバルディを尊敬していたのではないのか」
ザルギインの切り替えは素早く、今その表情は鋭く研ぎ澄まされている。私の真意から得られるもの、その利点を理解しているのだ。
「尊敬しているからって、殺らない理由にはならない」
抑揚なく応じ、覚悟と計算が成り立っているのだと示す。
「いやしかし……」
切り替えの遅いハッキネンを押し退けるよう、
「勝算があるのだな」
ザルギインは重ねて問いかける。
「お前らが協力してくれれば。ただし……」
「なんだ」
「タイミングが重要だ。それに、仲間を裏切る形にもなる」
「そんなことはどうでもいい」
心の引っ掛かりをザルギインは一言で切って捨てた。確かにそうだ、そのつもりでいる。
「いや待ってくれ、ラスボスを仕留めるために集まった、クリアするために集めた彼らがどう出るか分からない。彼らを説得出来るのか?」
早口でまくし立てるハッキネンを私はじっと見つめた。そうして出た言葉が、
「近藤がいます」
だったことに彼は首を振って応じた。
「つまり、事前になんの打ち合わせもしていないんだね」
「はい」
そうだ。言うなればこれは暗殺である。王国の要人、聖剣士にして軍の最高責任者、次期国王もあり得る男を殺すのだ。
「もう一度訊くよ、なぜだ?」
深く息を吐き、思考を取りまとめる。
今まで何があったか、私はなぜこの結論に至ったのかを。
周囲を改めて眺めると、そこには当然地下都市が広がっている。地上にある大抵の街より、洗練された街並みが眼前にある。
私はここで、一度ガルバルディを見限った。
あんな男は認めないと、強く思った。
だけどあの時、私は最終的に屈服した。ガルバルディを敵に回し、生き残れるはずがないと。違う、彼が敵に回ることはないとどこかで信じていた。信じたかったんだ。
「なんのため、ってことだよね」
「そうだ」
「私のため、と言いたいところだけど……友達のため。ラビーナは、反対したけど理解はしてくれていると思う」
彼女の「それだけはダメよ。絶対」あの時の表情が眼に焼き付いて忘れられない。
ラビーナはガルバルディと関わることも利用することも、どちらも乗り気ではなかった。そしてどこか、諦めがついていたのだと思う。
もう、逃げられないと。
「ラビーナ嬢が望んだのか」
「まさか、反対されましたよ。それだけはダメって」
「ならなんでーー」
「ラビーナを一人孤独に見捨てるぐらいなら、こんなのどうってことない。ラビーナを政治の道具にしか見ていない奴らを、私は絶対許さない」
「いや、だけど彼女は……」
ハッキネンが躊躇ったその先を、私ははっきりと口に出来る。
「NPCですよ。そう、プレイヤーじゃない」
「分かっているなら、こんなこと言うのもなんだけれど、そこまで思い入れることは……」
何を、何を言っているのだハッキネンは。
トカレストは、VRMMORPGはどこまでもゲームじゃないか。
だからこそどう生きるかは私が決める。
何を選択しても私の自由だ。
「推しがどうこうの問題じゃない。私が切り開いた道の先にあるのは、ラビーナの自由でなければならず、そのためにはガルバルディを殺すしかない」
これは私だけが歩むレアルート。
ラビーナ・ガルバルディルートの結末は私とガルバルディ、どちらが正しいのかを決することにあるのだ。
正義は我にあり。
運命からは誰も逃れられないというのなら、その思い上がった連中を私が貫いてやる。




