表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トカレストストーリー  作者: 文字塚
延長戦:だったら壊してしまえばいい
220/225

24.お前だけは許されない6

 私の言い分を理解したのだろう、ハッキネンもザルギインも息を呑みその衝撃を隠さない。

 唯一クロスターだけは何かを察していたのか、動じる気配を見せなかった。

 戸惑いを露にハッキネンはこちらを見ている。


「ガルバルディと、聖剣士と戦うというのか」

「はい」

「それが君の真意なのか」

「ええ」


 淡々と応じる私に、やはりハッキネンの思考は追い付かない。


「な、なぜだ。彼を倒してもクリアとは関係ない。というか、わざわざラスボスを仕留めるため応援に来てもらったんだぞ」


 なぜ? 邪魔だからに決まっている。

 わざわざ来てもらった? わざとおびき寄せたのだ。

 ラスボスを仕留めるため? 違う、ラスボスを査定するためだ。


「ガルバルディを尊敬していたのではないのか」


 ザルギインの切り替えは素早く、今その表情は鋭く研ぎ澄まされている。私の真意から得られるもの、その利点を理解しているのだ。


「尊敬しているからって、殺らない理由にはならない」


 抑揚なく応じ、覚悟と計算が成り立っているのだと示す。


「いやしかし……」


 切り替えの遅いハッキネンを押し退けるよう、


「勝算があるのだな」


 ザルギインは重ねて問いかける。


「お前らが協力してくれれば。ただし……」

「なんだ」

「タイミングが重要だ。それに、仲間を裏切る形にもなる」

「そんなことはどうでもいい」


 心の引っ掛かりをザルギインは一言で切って捨てた。確かにそうだ、そのつもりでいる。


「いや待ってくれ、ラスボスを仕留めるために集まった、クリアするために集めた彼らがどう出るか分からない。彼らを説得出来るのか?」


 早口でまくし立てるハッキネンを私はじっと見つめた。そうして出た言葉が、


「近藤がいます」


 だったことに彼は首を振って応じた。


「つまり、事前になんの打ち合わせもしていないんだね」

「はい」


 そうだ。言うなればこれは暗殺である。王国の要人、聖剣士にして軍の最高責任者、次期国王もあり得る男を殺すのだ。


「もう一度訊くよ、なぜだ?」


 深く息を吐き、思考を取りまとめる。

 今まで何があったか、私はなぜこの結論に至ったのかを。

 周囲を改めて眺めると、そこには当然地下都市が広がっている。地上にある大抵の街より、洗練された街並みが眼前にある。

 私はここで、一度ガルバルディを見限った。

 あんな男は認めないと、強く思った。

 だけどあの時、私は最終的に屈服した。ガルバルディを敵に回し、生き残れるはずがないと。違う、彼が敵に回ることはないとどこかで信じていた。信じたかったんだ。


「なんのため、ってことだよね」

「そうだ」

「私のため、と言いたいところだけど……友達のため。ラビーナは、反対したけど理解はしてくれていると思う」


 彼女の「それだけはダメよ。絶対」あの時の表情が眼に焼き付いて忘れられない。

 ラビーナはガルバルディと関わることも利用することも、どちらも乗り気ではなかった。そしてどこか、諦めがついていたのだと思う。

 もう、逃げられないと。


「ラビーナ嬢が望んだのか」

「まさか、反対されましたよ。それだけはダメって」

「ならなんでーー」

「ラビーナを一人孤独に見捨てるぐらいなら、こんなのどうってことない。ラビーナを政治の道具にしか見ていない奴らを、私は絶対許さない」

「いや、だけど彼女は……」


 ハッキネンが躊躇ったその先を、私ははっきりと口に出来る。


「NPCですよ。そう、プレイヤーじゃない」

「分かっているなら、こんなこと言うのもなんだけれど、そこまで思い入れることは……」


 何を、何を言っているのだハッキネンは。

 トカレストは、VRMMORPGはどこまでもゲームじゃないか。

 だからこそどう生きるかは私が決める。

 何を選択しても私の自由だ。


「推しがどうこうの問題じゃない。私が切り開いた道の先にあるのは、ラビーナの自由でなければならず、そのためにはガルバルディを殺すしかない」


 これは私だけが歩むレアルート。

 ラビーナ・ガルバルディルートの結末は私とガルバルディ、どちらが正しいのかを決することにあるのだ。

 正義は我にあり。

 運命からは誰も逃れられないというのなら、その思い上がった連中を私が貫いてやる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ