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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第一章:トカレストストーリー
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第二十二話:聖剣士の告白2

 ガルさんの解説が一区切りした。いまいち分からない。つまり、ガルさん無双超チート、でいいんだろうか。近藤は「なくはないが、かなり変則的な国体だな」と呟いている。そして顔を上げて言った。


「跡継ぎはいるが王位には就いていない。父親とはいえ王族ではないのなら、事実上乗っ取ったに等しい」

「苦肉の策だ。私は関与していないが、混乱状態でどうしようもなかった。それに、跡継ぎは決まっているのだから方法として明らかに間違えているとも言えない」


 ガルさんの返答に「こういうのって大体うまくいかないんだよ」近藤がそう私に囁いてきたが意味わかんねーし。近藤はつまりと地面に何やら地図を書く。半円に、横線一本。


「アフリカ大陸をイメージしてみろ。それかインドだ。で、その南端にあるのが王国。大陸とは岩山で隔てられてる。こっちじゃ魔王だなんだって言ってやたら敵が強いだろ。けど王国は内戦続きに敵といえばボールアルパカだぞ。ただの動物だ、違いすぎだろ。挙句周辺海域は謎の海流で操船技術に長けた海賊どもしかまともに出入りも出来ない。平和ボケだな、一言で」


 いやいや、と私は首を振り前のめりになってアピールする。


「そういうことじゃなくて、端からガルさんがやってれば全部解決じゃん。それか、今の王様じゃなくてちゃんとした血筋の姫が王位についてれば何も問題ないんでしょ?」

「どうかな。とにかく私は海賊だった。国権にも騎士団の争いにも当初はなんの興味もなくてね」

「ガルさんが端から参戦してたら今頃ガルさんの王朝が出来上がってるよ。姫は邪魔だからって殺されてるな。それこそ禅譲って奴だ。しかもあのタイミングで姫が王位に就いてたら護衛の任務はガルさんがやってたかもしれん。となると騎士団同士の激突になる。どんだけ被害が広がってたか。全部仕方ないんだよ」


 二人に反論されて、むくれる私がそこにはいた。近藤はそんな私を見て苦笑いを浮かべ、それからガルさんに話しかける。


「陛下の恐怖心はここからきてるんですね。さらに、一度終わった王朝であるから、ガルさんに譲位して、退位後摂政職なんぞに就いても殊更大袈裟なものではない。それに、元船長さんも絡んでいるのかな?」


 近藤は正しく理解したらしい。どこか得意げだ。そんな近藤に、ガルさんが苦しげに答える。


「今は枢機卿だ。死んでしまったが」


 そしてしばらく沈黙の後、さきほどの老騎士がそうだ、と付け足した。あの人、あのおじいさんがそうだったのか。姫を説得するために最後まで付き添って、そして最期は騎士の格好で戦い、ガルさんを船長と呼んだ……。認めてたんだ、ガルさんのこと。元は自分が船長だったのに、ガルさんをそう呼ぶなんて……。そんな感傷に浸る中、近藤は「海賊から聖職者かよ」と全く違う方向で驚いていた。


「しかし、そうかもしれないな。陛下も枢機卿もそう考えたのかもしれない。もしかすると、この人が父親かと思ったこともあるが、最期の言葉から察するに、子供のように可愛がってもらっていた、が事実なのだろう」


 ガルさんは空を見上げている。全てを受け入れるかのように。近藤は議論を深めたいようだが、その姿を見て多少躊躇うところが出来たらしい。それでもしばらく間を置いた後、遠慮がちに問いかける。


「禅譲には二つの意味がある。一つは共犯であることを明確にする。もう一つはあくまで元船長さん……枢機卿さんか……猊下(げいか)は何故あんなとこまで……」

「野心家とはいえ一国を乗っ取ろうとまでは思っていない。責任感が皆無というわけでもない。身内のことは考えてくれる人だった」


 自慢の船長さんだったんだ。私は最後まで姫を止めようとした船長を思い、胸が痛んだ。どうしてこんなことに……。近藤はそんな私を横目に気を取り直す。


「形としては、枢機卿、ガルさんラインの政権であることを明確にする。こういうことかな」

「心外だな、そうは聞いていない。荒廃した国土の復興に重税を重ねていた。派手なお飾りが必要だろう。枢機卿からはそう聞いている。陛下からは、姫までの中継ぎだと考えてくれと言われた。だが断った」

「姫君が正当な後継者である」

「そうだ。そもそも玉座に座るほど暇ではない」

「反乱続きに、王家の正当性を疑問視する声。土台無理な話だ」

「だから婚約だけは受け入れた。が、姫は私がどうしても気に入らないらしいな……」


 巨獣を切り刻み、かつて世界中を荒らしまわった人物とは思えない苦悩がはっきりと浮かんでいる。それは分かるけど、でもやっぱ分からんというか納得出来ん!


「疑問点があれば聞いておけよ。俺も一つある」


 近藤に水を向けられ、私は重くなった口をこじ開ける。


「あの、姫との関係のところだけ、もう一度説明してもらえないですか?」

「姫の相手をしていたのはまだ私が二十代の頃だ。出産後奥方は健康状態が芳しくなくてな。慣れない船上の生活だったからだろうが、二年後に亡くなった。姫は、最初は跡継ぎというよりただの王族の一人、その子供だと思っていた。事実だからな。海賊の私には意味のないものだ、子供の相手なんぞまともにしてられんよ」

「でも、姫はそれをずっと引きずってました」

「そうでもないだろう。たまたま婚約という話が出て、こんなことになったのかもしれない。ただ陛下は勇敢だが少し軽率なところがあってな、弱った奥方と姫を置いてよく戦場に出ていた。海賊に家族を任せるとは陸の人間もなかなか大胆だと私も思ったが、それどころではなかったのだろう。だからあの子は……両親とろくに顔も合わさず育った」


 それだ。船員は皆家族で父親代わり。兄弟みたいなものだ。結婚しろと言われて、そうそう受け入れられるか。


「なんで断らなかったんです?」

「話聞いてないのか? 死線をさまよい王朝の衰退を目の当たりにした現王が、ガルさんの存在を無視するわけがない。二つも要求を断れば、敵とみなされる。一緒に戦ってきた王家派の人間も敵に回るぞ。ややこしい」


 近藤に突っ込まれたが、退くわけにはいかない。


「でも、家族同然の人と結婚なんて複雑になるじゃない。まして父親代わりなんだよ? それに、変貌した経緯を説明してればこんなことに……」

[そういうゲームだ]


 チャットでまた突っ込まれたが、当然のように無視してやった。


「断ることも可能だった。可能性を模索することは出来たはずだ!」

「どうでもよかった」


 即答。ガルさんの偽らざる本音。なんてことだ……今答えを手に入れた。どうでもいいことに神経注いでいられるか。ただ戦い続けることだけが自分の生き方。そんな人と結婚して誰が幸せになれる! 私の頭は本格的に沸騰していた。

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