23.有り得ない世界
恐らく、彼らはガルバルディと取り引きをするだろう。
程々に痛めつけてくれれば、とどめはこちらが刺す、とか。
時間の問題から攻略が間に合わない箇所、難しい部分をガルバルディに任せ、他をそれぞれで分担する。こう言えば聞こえはいい。
相沢と時長さん以外はまず賛成するだろう。
ホークマンの横山さんに案内され、ガルバルディが戦地に到着した。
時刻は正午を過ぎていた。
数々のトッププレイヤーを葬り去ってきたラスボス。
人数こそ少ないが、トッププレイヤーに薄っすら認識されているガルバルディ。
現状、この凶悪最凶なラスボスに対抗出来るのは、聖剣士ガルバルデイしか思いつかない。
『なんだこれは……聞いていたのと随分違うな』
白いマントをはためかせ、無精ひげの男は呟く。
ラスボスは岩石染みた姿形から、性質の悪い、巨大な麒麟のようになっていた。神話上の存在を思わせる外見、強さもそれに比例するかのようだ。
場が静まり返る。
穴ぼこだらけの地上、近い山林は一部が吹っ飛んでいる。
その中央にはもちろん、我々の最終目標にして最大の標的であるラスボスが構えている。
そのラスボスが突然動きを止めた。
顔はあるのかないのかさっぱりだから、表情は読み取れないが明らかに警戒している。
『一番最悪なのは逃げられること、だな』
ゼイロの台詞に、ガルバルディが応じる。
『逃がさんよ』
『そいつはありがたい』
戦闘は一時停滞し、皆とガルバルディの話し合いが始まっている。無論警戒は怠っていないようだが。
ここからが勝負だ――ラスボスの真価を見極める最後の機会だ。
奴が役に立つならよし、足りないなら私は列の最後に並ぶ。
――昨日。
「条件とはなんだい?」
とハッキネンは尋ねてきた。だから私は、
「ラスボスとガルバルディのどちらが強いのか、それだけです」
率直に答えた。
「ガルバルディの応援は前提なんだろう? でもいくら強くても、単独でラスボスを上回るとは……」
普通は思わない。
「神殺し。地下都市で戦闘した時、深紅のヴァルキリーとなったクピドは、ガルバルディをそう表していました。ロウヒもやたら警戒していた」
「いや、随分前だよ?」
「私はトカレスト最強プレイヤーの一人であるという自負があります。でも、それだけでガルバルディと戦おうなんて思わない。それぐらい差があります」
なるほど、とハッキネンは小さく首肯している。
「じゃあラスボスなら? やれますよ。勝てるとは言い切れないけど、今みんなが複数で分担していること、私は一人でやれます」
あくまで皆が手の内を曝す前の会話だ。まあ、それでも変わりない。
「つまり、ラスボスよりもガルバルディの方が圧倒的に強い、と」
「恐らく」
そう、圧倒的過ぎるかもしれない。だから近藤は"ガルバルディがラスボスになる可能性"を警戒していたのだ。
「ラスボスは曲がりなりにもダメージが数値化されます」
「そうだね。今までと同じなら、最大ダメージも結構与えたプレイヤーがいる」
「ガルバルディはそもそもプレイヤーと戦った回数、母数が少な過ぎるのでちょっと分かりません。けど私は、ダメージをくらった姿を見たことがない」
ハッキネンは唸って、いやしかし……と苦悩している。
「だからなんだ。どちらが強いかなど、戦えば分かることだろう。お前は何がしたいのだ」
ザルギインが割って入り、私の真意を確認してきた。
「戦争と戦闘は違う、だよな」
「当たり前だ。局地的戦闘に勝利しても、戦争には勝てん」
「そういうことだよ」
苛立ちを見せるザルギインに、構わず続ける。
「問題はラスボスがどの程度戦えるかだ。もしガルバルディ相手に善戦出来るというのなら、奴は最強のカードになる」
地下都市に、一陣の風が通り過ぎた。
「……貴様」
目を剥く覇王に突きつける。
「ザルギイン、お前らがラスボスを従属させれば、ガルバルディですらやれるだろうと、私はそう言ってるんだ」




