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トカレストストーリー  作者: 文字塚
延長戦:だったら壊してしまえばいい
219/225

23.有り得ない世界

 恐らく、彼らはガルバルディと取り引きをするだろう。

 程々に痛めつけてくれれば、とどめはこちらが刺す、とか。

 時間の問題から攻略が間に合わない箇所、難しい部分をガルバルディに任せ、他をそれぞれで分担する。こう言えば聞こえはいい。

 相沢と時長さん以外はまず賛成するだろう。

 ホークマンの横山さんに案内され、ガルバルディが戦地に到着した。

 時刻は正午を過ぎていた。


 数々のトッププレイヤーを葬り去ってきたラスボス。

 人数こそ少ないが、トッププレイヤーに薄っすら認識されているガルバルディ。

 現状、この凶悪最凶なラスボスに対抗出来るのは、聖剣士ガルバルデイしか思いつかない。


『なんだこれは……聞いていたのと随分違うな』


 白いマントをはためかせ、無精ひげの男は呟く。

 ラスボスは岩石染みた姿形から、性質の悪い、巨大な麒麟のようになっていた。神話上の存在を思わせる外見、強さもそれに比例するかのようだ。

 場が静まり返る。

 穴ぼこだらけの地上、近い山林は一部が吹っ飛んでいる。

 その中央にはもちろん、我々の最終目標にして最大の標的であるラスボスが構えている。

 そのラスボスが突然動きを止めた。

 顔はあるのかないのかさっぱりだから、表情は読み取れないが明らかに警戒している。


『一番最悪なのは逃げられること、だな』


 ゼイロの台詞に、ガルバルディが応じる。


『逃がさんよ』

『そいつはありがたい』


 戦闘は一時停滞し、皆とガルバルディの話し合いが始まっている。無論警戒は怠っていないようだが。


 ここからが勝負だ――ラスボスの真価を見極める最後の機会だ。

 奴が役に立つならよし、足りないなら私は列の最後に並ぶ。


 ――昨日。


「条件とはなんだい?」


 とハッキネンは尋ねてきた。だから私は、


「ラスボスとガルバルディのどちらが強いのか、それだけです」


 率直に答えた。


「ガルバルディの応援は前提なんだろう? でもいくら強くても、単独でラスボスを上回るとは……」


 普通は思わない。


()()()。地下都市で戦闘した時、深紅のヴァルキリーとなったクピドは、ガルバルディをそう表していました。ロウヒもやたら警戒していた」

「いや、随分前だよ?」

「私はトカレスト最強プレイヤーの一人であるという自負があります。でも、それだけでガルバルディと戦おうなんて思わない。それぐらい差があります」


 なるほど、とハッキネンは小さく首肯している。


「じゃあラスボスなら? やれますよ。勝てるとは言い切れないけど、今みんなが複数で分担していること、私は一人でやれます」


 あくまで皆が手の内を曝す前の会話だ。まあ、それでも変わりない。


「つまり、ラスボスよりもガルバルディの方が圧倒的に強い、と」

「恐らく」


 そう、圧倒的過ぎるかもしれない。だから近藤は"ガルバルディがラスボスになる可能性"を警戒していたのだ。


「ラスボスは曲がりなりにもダメージが数値化されます」

「そうだね。今までと同じなら、最大ダメージも結構与えたプレイヤーがいる」

「ガルバルディはそもそもプレイヤーと戦った回数、母数が少な過ぎるのでちょっと分かりません。けど私は、()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()


 ハッキネンは唸って、いやしかし……と苦悩している。


「だからなんだ。どちらが強いかなど、戦えば分かることだろう。お前は何がしたいのだ」


 ザルギインが割って入り、私の真意を確認してきた。


「戦争と戦闘は違う、だよな」

「当たり前だ。局地的戦闘に勝利しても、戦争には勝てん」

「そういうことだよ」


 苛立ちを見せるザルギインに、構わず続ける。


「問題はラスボスがどの程度戦えるかだ。もしガルバルディ相手に善戦出来るというのなら、()()()()()()()()()()()


 地下都市に、一陣の風が通り過ぎた。


「……貴様」


 目を剥く覇王に突きつける。


「ザルギイン、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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