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トカレストストーリー  作者: 文字塚
延長戦:だったら壊してしまえばいい
218/225

22.時来る

 夜通し戦い続けたのだろう、皆疲弊の色は濃かった。

 一方ラスボスからはそれが見て取れない。


「こうも明暗はっきりすると、見ていて辛いな」

「辛かったでしょうね、実際」


 ハッキネンの気持ちは分かる。私だって皮肉で言ったわけではない。映像を観ていれば分かる、入れ替わったメンバーはもう手の内を隠せる状態にはない。


「アストライアー、星乙女ときたか」

「見るの初めてですよ」


 天候を操る特殊なジョブに変わったのは、サキである。支援系と思っていたが、かなりのハイバランスだ。なるほど、でなければラストダンジョンで道中戦死、なんて経験をしたロナを助けられないか。

 他の面子も隠していた能力や武器や道具を使い始めている。


「いないのは元旅団のメンバーとクリード、ゼイロの二人か。ああ、エネさんもいない」

「今はお休みみたいですね。じゃあこれ、誰からの映像でしょう」

「近藤君じゃないのかい?」

『俺だよ』


 と画面越しに話しかけてきたのは相沢だった。


『エネさんも疲労困憊だ。昼まで戻らないんじゃないかな』

「そうなんだ。映像ありがとう、さっき戻ったんだ」


 真心を込めた嘘に、


『ああそうだってね。驚いたよ生きて還って来るなんて』


 何一つ驚かず相沢は調子を合わせる。確か、エネさんは相沢に気付かれたと言っていたな。


『随分大変な思いをしたらしいし、しばらく観てればいいよ。映像は都度、誰かが送る』

「本当に助かるよ。メンバー承認も感謝してる」

「ああ、僕もだありがとう。初めましてと伝えておいてくれ」

『伝えておくよ。ま、これからも楽しめばいいと思うよ』


 皮肉気に言って、相沢は支援を再開する。

 トリックスター、トラップや状態異常を駆使し、同時に敵の状態異常攻撃を阻止する。意外性溢れるジョブらしいが、使いこなせば計算出来得る戦力となる。事故率はぐっと下がるだろう。

 皆の頑張りは観ていれば分かる。だが、ラスボスのでたらめさには明らかに及ばない。それを支えているのは意外にもピナルとラビーナだ。回復と防御魔法に徹しているようだが、よくエネさんが許したな。

 音声を切ってハッキネンは言う。


「いつ頃だろう、聖剣士殿が出張るのは」


 同じく音声を切り、


「もうすぐだと思います。私達には基本今日しかない、どこかで決断するはずです」


 応じると、ハッキネンは何度も頷いた。


「相沢君は何か気付いていそうだ」

「昨日からおかしいと思ってはいたんでしょう」

「余裕があるのか勘がいいのか」


 どっちでもいい、邪魔さえしなければ。


「で、僕らはどこで参戦する……」


 音声を切っているのにハッキネンは声を小さくした。


「ガルバルディ次第です」

「本当にそのつもりなんだね……」


 頷き、口元を引き締める。

 もし、今回共に戦ってきたメンバーがラスボスを仕留めることが出来たなら、それはめでたいことだ。私はそれを受け入れる。その為に準備したのだ。

 だから私が出張るのは、仕留め損なった場合に限られる。

 理由はあれど一度戦線離脱した身だし、彼らに対する最低限の礼儀もある。

 だからまた、見守る時間が長くなる。

 映像は相沢のものから別の仲間に、そしてまた別の仲間へと変わる。


『ダメだ、誰か死ぬぞこれ……』


 ゼイロの弱音が吐き出され、


『くそっ、回復の時間が足りない!』


 神崎の悲痛な思いが響く。

 戦死者が出れば名簿が更新される。さすがにおかしいとどこかの誰かが不思議に思うだろう。そうすれば、いずれこの場所が割れる。バレてしまえば、収集が付かなくなる。横取りされても文句は言えない。占有権があるわけではないのだから。

 そんな中、仮のリーダーを務める近藤から一報が入った。


『ガルバルディの準備が出来ました。後は皆さん次第です』


 ――決断の時がきた。

 NPCに頼ってでもこの状況を打開する。

 或いは、制限時間を越えても自分達だけで戦うか……死者が出て、誰かに掠め取られる可能性があったとしても。

 決をとるのにさして時間はかからなかった。


『さっさと呼べ! もう持たんぞ!』

『僕は特に無理だ』

『俺の回復じゃ間に合わない!』

『なんなのこいつ、ムカつくんだけど』

『もう嫌! 誰でもいいから助けて!』


 これにより、ガルバルディとラスボスの対決が現実と化した。

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