22.時来る
夜通し戦い続けたのだろう、皆疲弊の色は濃かった。
一方ラスボスからはそれが見て取れない。
「こうも明暗はっきりすると、見ていて辛いな」
「辛かったでしょうね、実際」
ハッキネンの気持ちは分かる。私だって皮肉で言ったわけではない。映像を観ていれば分かる、入れ替わったメンバーはもう手の内を隠せる状態にはない。
「アストライアー、星乙女ときたか」
「見るの初めてですよ」
天候を操る特殊なジョブに変わったのは、サキである。支援系と思っていたが、かなりのハイバランスだ。なるほど、でなければラストダンジョンで道中戦死、なんて経験をしたロナを助けられないか。
他の面子も隠していた能力や武器や道具を使い始めている。
「いないのは元旅団のメンバーとクリード、ゼイロの二人か。ああ、エネさんもいない」
「今はお休みみたいですね。じゃあこれ、誰からの映像でしょう」
「近藤君じゃないのかい?」
『俺だよ』
と画面越しに話しかけてきたのは相沢だった。
『エネさんも疲労困憊だ。昼まで戻らないんじゃないかな』
「そうなんだ。映像ありがとう、さっき戻ったんだ」
真心を込めた嘘に、
『ああそうだってね。驚いたよ生きて還って来るなんて』
何一つ驚かず相沢は調子を合わせる。確か、エネさんは相沢に気付かれたと言っていたな。
『随分大変な思いをしたらしいし、しばらく観てればいいよ。映像は都度、誰かが送る』
「本当に助かるよ。メンバー承認も感謝してる」
「ああ、僕もだありがとう。初めましてと伝えておいてくれ」
『伝えておくよ。ま、これからも楽しめばいいと思うよ』
皮肉気に言って、相沢は支援を再開する。
トリックスター、トラップや状態異常を駆使し、同時に敵の状態異常攻撃を阻止する。意外性溢れるジョブらしいが、使いこなせば計算出来得る戦力となる。事故率はぐっと下がるだろう。
皆の頑張りは観ていれば分かる。だが、ラスボスのでたらめさには明らかに及ばない。それを支えているのは意外にもピナルとラビーナだ。回復と防御魔法に徹しているようだが、よくエネさんが許したな。
音声を切ってハッキネンは言う。
「いつ頃だろう、聖剣士殿が出張るのは」
同じく音声を切り、
「もうすぐだと思います。私達には基本今日しかない、どこかで決断するはずです」
応じると、ハッキネンは何度も頷いた。
「相沢君は何か気付いていそうだ」
「昨日からおかしいと思ってはいたんでしょう」
「余裕があるのか勘がいいのか」
どっちでもいい、邪魔さえしなければ。
「で、僕らはどこで参戦する……」
音声を切っているのにハッキネンは声を小さくした。
「ガルバルディ次第です」
「本当にそのつもりなんだね……」
頷き、口元を引き締める。
もし、今回共に戦ってきたメンバーがラスボスを仕留めることが出来たなら、それはめでたいことだ。私はそれを受け入れる。その為に準備したのだ。
だから私が出張るのは、仕留め損なった場合に限られる。
理由はあれど一度戦線離脱した身だし、彼らに対する最低限の礼儀もある。
だからまた、見守る時間が長くなる。
映像は相沢のものから別の仲間に、そしてまた別の仲間へと変わる。
『ダメだ、誰か死ぬぞこれ……』
ゼイロの弱音が吐き出され、
『くそっ、回復の時間が足りない!』
神崎の悲痛な思いが響く。
戦死者が出れば名簿が更新される。さすがにおかしいとどこかの誰かが不思議に思うだろう。そうすれば、いずれこの場所が割れる。バレてしまえば、収集が付かなくなる。横取りされても文句は言えない。占有権があるわけではないのだから。
そんな中、仮のリーダーを務める近藤から一報が入った。
『ガルバルディの準備が出来ました。後は皆さん次第です』
――決断の時がきた。
NPCに頼ってでもこの状況を打開する。
或いは、制限時間を越えても自分達だけで戦うか……死者が出て、誰かに掠め取られる可能性があったとしても。
決をとるのにさして時間はかからなかった。
『さっさと呼べ! もう持たんぞ!』
『僕は特に無理だ』
『俺の回復じゃ間に合わない!』
『なんなのこいつ、ムカつくんだけど』
『もう嫌! 誰でもいいから助けて!』
これにより、ガルバルディとラスボスの対決が現実と化した。




