21.悪くない夜2
静かな時間に終わりを告げたのは近藤だった。
「しかし仕掛けが難しいな。先に言ってくれりゃちったあ準備出来たんだが。つかな、今日ガルバルディが参戦ってのは恐らく無理だ。根回しが足りてない」
そうなのか、謹慎なんて形だけのものなんだし、すぐに動けると思っていた。
「そっか……でも大丈夫、全てはタイミングだよ」
そう、ここだというタイミングにさえハマれば、いける。
「彼らは協力的なのか?」
「でなきゃこんな呑気にしてないよ」
軽い調子で返すが、近藤はどうも反応が悪い。
「なんだよ……」
「いや別に」
「何、顔が見たいとか贅沢言うなよ」
「……それは贅沢なのか?」
えっと……そうでもないか。いや、安売りはしない!
「そっちが見せてないのに、なぜ私だけが!」
と言ったらすぐに映像が送られてきた。そりゃそうなる。モニター越しの近藤はなんだか眠そうだった。
「眠そうだね。ってかお前……素直過ぎるぞ」
「ああ、アピールポイントだよ」
欲望に素直なだけのような……。
「でも顔見て安心したよ」
「ん? そうか、そいつは良かった。こっちは物足りないんだが」
仮にも年下にその言い方は微妙過ぎるぞ。
「いいんだけどさ、やめとく。もう寝るし」
「なんで、化粧でも落としたのか」
はは、と思わず笑ってしまった。私は基本化粧をしない。女友達との付き合いも悪いので、滅多にすることがない。その旨説明すると、
「元がいいとしなくていいもんな」
褒められた。ほんと、私の容姿だけはストレートに褒めてくる。初めて会った時から変わらない。では、性格はどう思っているのだろう。雑、とか思われてるんだろうか。
「なんだ、おためごかしじゃないぞ」
「うん、正しい評価だと思うよ」
「ははっ、全くその通りだ。加奈は美人だもんな」
んっ、ぐっ、なんでそんな攻めてくるのだ。もう寝るのにっ……。
「ん、あんがと」
でもやっぱり嬉しい。
「いや事実だし」
やめて赤くなる、話を変えよう。
「あのさ、ハッキネンはびっくりしてた。ザルギインは懐疑的な感じ。成立すんのかって。クロスターは、可能性の一つとして考えてたような気がする」
「そう。そんなことより俺の願いは叶えられないのか」
変えたのに意味ない……とことん素直な奴だな。仕方なくカメラはつけたが、天井に向けてやった。
「やる気なくなった」
「頑張ってくれたら考える。ってかまた会えばいいじゃん」
うわ私何言ってんだ、そんなのめっちゃ緊張しそう。どうしよう。けど近藤はさらりと流した。
「そうだな、言われなくても頑張るさ。約束だからな」
うん、そうだよね……近藤は私に約束してくれた。だから私は頑張れる、踏み込めた。
「あのさ、私、わがままかな」
明日、私は誰かを傷つけるかもしれない。上手くいく保証だってない。不安からの言葉だったが、
「いや、みんなわがままだよ」
近藤はあっさりと言い切った。そっか、みんなそうか。でなきゃトッププレイヤーになんてなれないよね。
「明日、私頑張るよ。近藤にも期待してる」
「俺が手を抜くと思うか?」
思わないよ、信じてる。
「信じてる」
言葉にして伝える。それともう一つ。
「あのさ、このまま繋いでて貰らえるかな」
「ん?」
「私が寝たら切っていいから、それまではこのままにしてて」
我ながら言ってて顔が赤くなってくる。
「いいけど、俺が先に寝るかもよ?」
「ううん、そんな薄情者じゃないって私は知ってるから」
「……軽い重圧だな」
それから近藤は、期待に応えますよと続けた。
よかった。これで私は、私はきっと明日本当に頑張れる。
どんな形になっても、やり遂げて見せるよ。
冴えない私の部屋は、今少しだけ暖かな空気に包まれている。
本当に久しぶりに、悪くない夜だ。
たまにあるいちゃこら。ラストバトルはもうすぐです。




