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トカレストストーリー  作者: 文字塚
延長戦:だったら壊してしまえばいい
217/225

21.悪くない夜2

 静かな時間に終わりを告げたのは近藤だった。


「しかし仕掛けが難しいな。先に言ってくれりゃちったあ準備出来たんだが。つかな、今日ガルバルディが参戦ってのは恐らく無理だ。根回しが足りてない」


 そうなのか、謹慎なんて形だけのものなんだし、すぐに動けると思っていた。


「そっか……でも大丈夫、全てはタイミングだよ」


 そう、ここだというタイミングにさえハマれば、いける。


「彼らは協力的なのか?」

「でなきゃこんな呑気にしてないよ」


 軽い調子で返すが、近藤はどうも反応が悪い。


「なんだよ……」

「いや別に」

「何、顔が見たいとか贅沢言うなよ」

「……それは贅沢なのか?」


 えっと……そうでもないか。いや、安売りはしない!


「そっちが見せてないのに、なぜ私だけが!」


 と言ったらすぐに映像が送られてきた。そりゃそうなる。モニター越しの近藤はなんだか眠そうだった。


「眠そうだね。ってかお前……素直過ぎるぞ」

「ああ、アピールポイントだよ」


 欲望に素直なだけのような……。


「でも顔見て安心したよ」

「ん? そうか、そいつは良かった。こっちは物足りないんだが」


 仮にも年下にその言い方は微妙過ぎるぞ。


「いいんだけどさ、やめとく。もう寝るし」

「なんで、化粧でも落としたのか」


 はは、と思わず笑ってしまった。私は基本化粧をしない。女友達との付き合いも悪いので、滅多にすることがない。その旨説明すると、


「元がいいとしなくていいもんな」


 褒められた。ほんと、私の容姿だけはストレートに褒めてくる。初めて会った時から変わらない。では、性格はどう思っているのだろう。雑、とか思われてるんだろうか。


「なんだ、おためごかしじゃないぞ」

「うん、正しい評価だと思うよ」

「ははっ、全くその通りだ。加奈は美人だもんな」


 んっ、ぐっ、なんでそんな攻めてくるのだ。もう寝るのにっ……。


「ん、あんがと」


 でもやっぱり嬉しい。


「いや事実だし」


 やめて赤くなる、話を変えよう。


「あのさ、ハッキネンはびっくりしてた。ザルギインは懐疑的な感じ。成立すんのかって。クロスターは、可能性の一つとして考えてたような気がする」

「そう。そんなことより俺の願いは叶えられないのか」


 変えたのに意味ない……とことん素直な奴だな。仕方なくカメラはつけたが、天井に向けてやった。


「やる気なくなった」

「頑張ってくれたら考える。ってかまた会えばいいじゃん」


 うわ私何言ってんだ、そんなのめっちゃ緊張しそう。どうしよう。けど近藤はさらりと流した。


「そうだな、言われなくても頑張るさ。約束だからな」


 うん、そうだよね……近藤は私に約束してくれた。だから私は頑張れる、踏み込めた。


「あのさ、私、わがままかな」


 明日、私は誰かを傷つけるかもしれない。上手くいく保証だってない。不安からの言葉だったが、


「いや、みんなわがままだよ」


 近藤はあっさりと言い切った。そっか、みんなそうか。でなきゃトッププレイヤーになんてなれないよね。


「明日、私頑張るよ。近藤にも期待してる」

「俺が手を抜くと思うか?」


 思わないよ、信じてる。


「信じてる」


 言葉にして伝える。それともう一つ。


「あのさ、このまま繋いでて貰らえるかな」

「ん?」

「私が寝たら切っていいから、それまではこのままにしてて」


 我ながら言ってて顔が赤くなってくる。


「いいけど、俺が先に寝るかもよ?」

「ううん、そんな薄情者じゃないって私は知ってるから」

「……軽い重圧だな」


 それから近藤は、期待に応えますよと続けた。

 よかった。これで私は、私はきっと明日本当に頑張れる。

 どんな形になっても、やり遂げて見せるよ。


 冴えない私の部屋は、今少しだけ暖かな空気に包まれている。

 本当に久しぶりに、悪くない夜だ。

たまにあるいちゃこら。ラストバトルはもうすぐです。

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