20.悪くない夜
遺跡が多いという東の大陸では、相変わらず激戦が繰り広げられているだろう。
私は一足先に落ちたので、今は部屋で寝る準備をしている。
現実が夕方になり、夜を迎える頃、彼らは本気を出し始めた。互いの戦い方を理解し、信頼関係が出来始めたのだろう。加え、手の内を隠しては攻略どころか生き残りさえ難しい状況が生まれつつあった。ラスボスも徐々に本性を現し始めたからだ。
こうなれば自然、ガルバルディの存在が頭にちらつく。
NPCの手を借りるのは癪だが、なら死んでもいいのか、クリア出来なくてもいいのか、或いは横取りされてもいいのか……。
結論は決まっている。だからガルバルディが、まだ一日残っているにも関わらず合流することに反対するものはいなかった。内心どう思おうとだ。
今晩、彼らの内何人が参加するのかは知らないが、夜通しガルバルディと共にラスボスの攻略を進めることになるだろう。
私はそれをある種無視する。
よくよく観察しなければならないが、今ではない。
分かっているのは、我々とラスボスなら、ラスボスが明確に有利であるということ。「明日まで」という時間制限がなければ話は変わるが、現状は不利だ。
私がいればどうか? 恐らく大きくは変わらない。攻略速度が少し増す程度だろう。
ではガルバルディが来ればどうか?
これが問題で、最大の注目点だ。
近藤やマーカスは「ガルバルディは死なない設定になっているのではないか」と言っていた。なら、ガルバルディは死なない。どれだけ痛めつけようと、最後に勝つのはガルバルディだ。
ではラスボスはどうか?
ここが最重要ポイントである。
私の考えでは「ラスボスも死なない設定になっている可能性がある」のだ。
つまり、このゲームはそもそもクリアさせる気がないということになる。
近藤もこの点を勘案した結果無茶な手段を講じ、ガルバルディという最強のカードを切るべきだと主張した。
死なない者同士の戦い……不毛な削り合いが延々と続き、引き分けとなる。本当にこんな設定なら、結論はこうだ。
しかし、本来なら出会うはずもない存在が邂逅した時、一体何が起きるだろう。
ラストダンジョンとラスボスに関する前提はぶち壊した。そして私はラビーナ・ガルバルディルートのプレイヤーだ。これを進む者は今現在私しか確認されていない。
不可能だと思われていたものは、覆した。
不可能だと考えられもしなかったことを、実行した。
よって……不可能などないと、私は信じたいんだ。
私だけは信じるべきなんだ。
――ってなことを、近藤にだけ話した。
近藤も今は落ちており、戦闘の様子はモニターで見ている。
「言いたいことは分かるし、そのつもりでやってきたからなあ」
その通りだ。そもそも近藤がこの方向に誘導したのだから。
「けどお前、これはさすがに無茶だろう」
今更なんだ、らしくないぞ、と嘆いてもいいところだが、近藤は近藤でみんなに対して責任を感じているのだろう。
「なんだよ、約束したじゃん。約束破る奴私嫌い」
拗ねてみせると、苦笑の後、
「まあ嫌われたくはないわなあ」
「でしょう?」
少し調子に乗ったのか、気がつくとふふふと笑ってしまっていた。これは、見ようによっては甘えているようにも見えるか。或いは……いや、やめておこう。
静かな夜だ。あれだけのことがあったのに、みんなはまだ戦っているというのに。
私は近藤との間に出来た沈黙の時間を、静寂に浸った。
なぜだろう、会話のないこの時間すら心地良いのは。
外は暗く、夜の帳が一日の終わりを告げていた。




