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トカレストストーリー  作者: 文字塚
延長戦:だったら壊してしまえばいい
215/225

19.お前だけは許されない5

 序盤の攻略法が徐々に確立されていく。やはり攻撃を順番に当てなければならないらしい。その際、強力なカウンター攻撃を繰り出すので注意が必要だ。

 わずかに光明が見えては潰え、潰えては光明が差す。

 少しずつだが前には進んでいる。

 その度、ラスボスは扉を開くよう強さが増し、仲間達も本気を出しつつある。このままいい具合に均衡を保ったまま最終形態、最終盤にまで持っていってくれれば……。


「キリア君、もういいんじゃないか。助太刀に入ろう。夜通し戦うことも考えれば、頭数は多い方がいい」


 ハッキネンのそれは正論だ。ただ私の考えとは違う。

 なぜ動かないのか分からず、彼は苛立ち始めたらしい。


「二人もなんとか言ってくれ」


 ついにザルギインとクロスターに意見を求めている。プレイヤーがNPCに頼るなど……いや、ラビーナやピナルに散々世話になってた。


「考えがあるのだろう」


 散々冥府を共にしてきたろうに、クロスターは冷淡だった。


「私は何度も促している。が、頼み事があると言われているしな」


 ザルギインは肩を竦めてみせる。そう、それをさっきは言い切れなかった。


「どういう……」


 ハッキネンが言葉に詰まる姿を見て、居たたまれなくなった。

 はっきり言葉にするのはかなり躊躇われる。

 言って理解して貰えるかも分からない。


 私は、不愉快ながらも幸運のカードを手に入れたと考えている。

 こいつらがいれば、全く違う攻略法があるのではないか?

 だが、それを提案することは、私の本心を晒すのと変わりない。


 私は……仲間達とは全く違った思惑で動いている、と。


 当然だが、気が引けるのはハッキネンに対してだけだ。

 後の二人からは賛同を取り付ければそれでいい。

 こいつらにどう思われようが知ったことではない。

 さあどうする……今か、それとももう少し様子を見るか……。

 逡巡はハッキネンにも伝わったのだろう、


「キリア君、君はクリアしたくないのか?」


 根源的な問いかけがなされた。


「いえ」

「じゃあ、リスクを取りたくない?」

「いえ」

「仲間が信用出来ない」

「あーちょっとありますが重要ではありません」


 ハッキネンは「ふー」と一息ついて、それから揺るぎない眼で私を見た。


「じゃあ聞かせてくれ、君の考えを。君はこれからどうしようというんだ」


 直球だ、遊びがない。誤魔化すなとはっきりと言っている。

 ここらが潮時か……私は映像を切ることを選択し、外部との通信を断った。


「分かりました。いつまでも本心を隠すのは難しいですね。何より、協力して欲しいのに黙ったままなのは失礼です」


 覚悟の程を感じ取ったのだろう、ハッキネンは真摯に受け止めてくれたようだ。


「聞かせてくれ、君の考えを」


 大きくを息を吐き、天井を見上げる。

 今頃ロウヒやクピドはどうしているだろうか。

 ここでは随分世話になった。あれは辛かった。

 今度は、あれの比ではない。


「ハッキネン、私はこれから強行手段に出る。ただし状況が整えば」


 こくりと頷く長身の彼に続ける。


「つまり、状況が整わなければ私は戦場には行かない」

「その可能性は」


 間髪入れぬ問いかけに、


「いくつか条件があるのだけど、九割方問題ないと思う」


 そんなに高いのか、と三人は顔を見合わせた。


「状況とはなんだい」

「ガルバルディの参戦」

「近藤君はなんて」

「ガルさんは謹慎中です。これを解くのに少し時間はかかるとしても、今日中には戦場に赴くと思う」


 この言葉に、ハッキネンは納得の表情を見せた。


「ガルバルディの存在が必要不可欠なんだね」

「はい」

「なぜか聞かせて貰えるかな」


 覚悟を決めた私は、その全てを伝えた。


 ――場が凍り付き、皆が固まる姿を眺めながら、ああやはり私は無茶をしようとしているのだと自覚する。


 だけれど、散々無茶を通して来た。

 そしてこれは、絶対に譲れない私の心からの渇望なのだ。

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