19.お前だけは許されない5
序盤の攻略法が徐々に確立されていく。やはり攻撃を順番に当てなければならないらしい。その際、強力なカウンター攻撃を繰り出すので注意が必要だ。
わずかに光明が見えては潰え、潰えては光明が差す。
少しずつだが前には進んでいる。
その度、ラスボスは扉を開くよう強さが増し、仲間達も本気を出しつつある。このままいい具合に均衡を保ったまま最終形態、最終盤にまで持っていってくれれば……。
「キリア君、もういいんじゃないか。助太刀に入ろう。夜通し戦うことも考えれば、頭数は多い方がいい」
ハッキネンのそれは正論だ。ただ私の考えとは違う。
なぜ動かないのか分からず、彼は苛立ち始めたらしい。
「二人もなんとか言ってくれ」
ついにザルギインとクロスターに意見を求めている。プレイヤーがNPCに頼るなど……いや、ラビーナやピナルに散々世話になってた。
「考えがあるのだろう」
散々冥府を共にしてきたろうに、クロスターは冷淡だった。
「私は何度も促している。が、頼み事があると言われているしな」
ザルギインは肩を竦めてみせる。そう、それをさっきは言い切れなかった。
「どういう……」
ハッキネンが言葉に詰まる姿を見て、居たたまれなくなった。
はっきり言葉にするのはかなり躊躇われる。
言って理解して貰えるかも分からない。
私は、不愉快ながらも幸運のカードを手に入れたと考えている。
こいつらがいれば、全く違う攻略法があるのではないか?
だが、それを提案することは、私の本心を晒すのと変わりない。
私は……仲間達とは全く違った思惑で動いている、と。
当然だが、気が引けるのはハッキネンに対してだけだ。
後の二人からは賛同を取り付ければそれでいい。
こいつらにどう思われようが知ったことではない。
さあどうする……今か、それとももう少し様子を見るか……。
逡巡はハッキネンにも伝わったのだろう、
「キリア君、君はクリアしたくないのか?」
根源的な問いかけがなされた。
「いえ」
「じゃあ、リスクを取りたくない?」
「いえ」
「仲間が信用出来ない」
「あーちょっとありますが重要ではありません」
ハッキネンは「ふー」と一息ついて、それから揺るぎない眼で私を見た。
「じゃあ聞かせてくれ、君の考えを。君はこれからどうしようというんだ」
直球だ、遊びがない。誤魔化すなとはっきりと言っている。
ここらが潮時か……私は映像を切ることを選択し、外部との通信を断った。
「分かりました。いつまでも本心を隠すのは難しいですね。何より、協力して欲しいのに黙ったままなのは失礼です」
覚悟の程を感じ取ったのだろう、ハッキネンは真摯に受け止めてくれたようだ。
「聞かせてくれ、君の考えを」
大きくを息を吐き、天井を見上げる。
今頃ロウヒやクピドはどうしているだろうか。
ここでは随分世話になった。あれは辛かった。
今度は、あれの比ではない。
「ハッキネン、私はこれから強行手段に出る。ただし状況が整えば」
こくりと頷く長身の彼に続ける。
「つまり、状況が整わなければ私は戦場には行かない」
「その可能性は」
間髪入れぬ問いかけに、
「いくつか条件があるのだけど、九割方問題ないと思う」
そんなに高いのか、と三人は顔を見合わせた。
「状況とはなんだい」
「ガルバルディの参戦」
「近藤君はなんて」
「ガルさんは謹慎中です。これを解くのに少し時間はかかるとしても、今日中には戦場に赴くと思う」
この言葉に、ハッキネンは納得の表情を見せた。
「ガルバルディの存在が必要不可欠なんだね」
「はい」
「なぜか聞かせて貰えるかな」
覚悟を決めた私は、その全てを伝えた。
――場が凍り付き、皆が固まる姿を眺めながら、ああやはり私は無茶をしようとしているのだと自覚する。
だけれど、散々無茶を通して来た。
そしてこれは、絶対に譲れない私の心からの渇望なのだ。
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