18.お前だけは許されない4
「このイベ……会合には大きな意味があった。収穫も」
「そうだね。一歩間違えればどう転ぶか分からなかった」
ハッキネンが控え目に頷く。
ツォイマーが退室した際、もし近藤が後を追っていたなら騎士団、そしてアナーニ・プシェミズルへと続くルートを選ぶことになったろう。
ガルバルディとの話し合いが不調に終われば、海軍、もしくは反主流派辺りと繋がるルートが開かれたかもしれない。
全て無視してミリアンに直談、という選択肢もあったかもしれない。
近藤はガルバルディを選び続け、約束も取り付けた。
これで、下ごしらえは終わったと見ていい。
となれば問題はやはりラスボス、そしてチームメートだ。
「近藤、映像どうにかなる?」
チャットでもよかったが口頭で伝えてみる。
[待て。エネにもう一回繋ぐ]
「ん」とだけ返し、しばらく待つとみんなに伝えると、
「結局将軍閣下が来て全て丸く収まるわけか」
ザルギインがつまらんといった顔をしてみせた。
「本当にそう思うか?」
「時間はかかろうが、あの者に勝てる奴などそうはおらんよ」
「だといいんだけどね」
ガルバルディで足りればいいし、足りなければ困る。
問題は、彼らだけで対応出来た場合だ。
今のところは手詰まりだが、どこかで動き出すだろう。
あれだけの実力者が揃った、攻略してしまうかもしれない。
それでは困るのだ。
映像は再び東の大陸へと移り変わる。
メンバーは交替しており、ゼイロ、相沢、神崎にラカンと最初のメンバーに戻っている。元旅団のメンバーはサポートに徹しており、小さいが『怖い』『死ねる』『無理』なんて声が聴こえる。
『どうも順番くさいな……』
ゼイロの声だ、攻略の一端を掴んだか。
『魔法、物理、アイテム……その次は?』
『それを確かめるんだ』
ラカンに神崎に応じている。なるほど、同じ攻撃を続けてはいけないということか。意外と古風な設定だ。
四人で彼らの攻略風景を眺めつつ、私だけは違うことを考えていた。
――このまま攻略出来るわけがない。いや、逆にプレイヤー側が攻略されかねない。彼らには全滅してもらっては困るし、完全攻略してクリアされても困る。
「ラスボスだけは絶対に渡さない、譲れない」
強い思いから独り言つ。ハッキネンも頷き、
「序盤の攻略法が見つかるかもしれないね。問題はここからだ。僕も是非参加したい」
再び強く主張してきた。
ザルギインとクロスターはどうだろう。
ザルギインは顎に手をやりよく観察している。一方のクロスターは静かに見守っているというところか。
しかしこいつ、さっきおかしくなかったか?
なぜ「追うべきではない」なんて言ったのだ。
まさかとは思うが……。
「時間の問題だな」
ザルギインが言ってから、
「ええ、このままでは破綻します」
クロスターが応答した。
「あの化け物の意図とは違うかもしれないが、引き付けて撃つ、がいい具合にハマるタイミングだ」
おい、それはまずい。確かめている場合では――。
強く大きな衝撃音、映像ではなく画面まで揺れそうだ。こちらにも衝撃の大きさは伝わってくる。何をした? 何が起きた?
『いた……痛い』
『無事かい?』
『ああ、なんとかね。アイテムの次は特殊スキルだ』
相沢と神崎のやり取りから、本当に無事なのだと分かる。粉塵を撒き散らし、周囲は真っ白になっているが無事らしい。攻撃を受けたのはラカンのようだ。
「拡散の投擲系だね。飛び道具を放ったらしいけど、みんなもう慣れているのかもしれない」
「おい、ややこしいこと言うなよ。仲間がやられるかと思っただろ!」
思わず二人に声を荒げると、ザルギインは鷹揚としたものだった。
「いいや、やられる。残念ながら時間の問題だ」
「根拠は」
「貴様ら、数値化するのは得意のはずだろうに」
「根拠を訊いてるんだ」
「本気を出せと伝えろ」
「時間をかけてるんだ、勝負はこれからなんだよ」
まだ序盤の攻略法も確立出来ていない。
「ならせめて、将軍閣下を早く呼ぶのだな。生物として我々は脆弱なのだ。勝負は一瞬でつくぞ」
また核心を突きやがって、あまり早くても困るんだよ……。
「お前がいけば一番早い。なぜそうしない」
懐疑を孕んだ視線を向けられても、私には答えられない。
今は、いや恐らく今日、私は戦場へは向かわない。




