17.お前だけは許されない3
『貴様は何を言っているのだ。殿下には帰って頂く。間違いなく我々の手でだ』
ツォイマーはわざとらしく言い放ち、席を立った。部屋を出て行く背中を映した映像が流れている。
「追うべきではない」
珍しくクロスターが口を開いた。[わーってる]と近藤はチャット欄に書き込むが、さすがにクロスターには見られない。
ガルバルディが大きく溜め息をつき、場は沈黙に包まれた。
残されたのは聖剣士と暗殺者の二名のみだ。
近藤の選択、行動いかんで全て決まってしまう。本当にこれが正しいのだろうか……と思っても私はそこにいない。今は信じるしかない。
『聖剣士も大変ですね』
たっぷり時間を使ってから徐に、近藤は呟いた。
『あちらこちらに気を遣わなければならない。場所を変えますか』
確認すると、
『出ようか』
ガルバルディは短く応じた。
王城地下から外へと出て行く。行き先は決まっているようで、どうも郊外へと向かっているらしい。
『全く、ひやひやしたよ。もう少し慎重に振る舞ってくれると思っていた』
二人並んで歩く中、ガルバルディはそう愚痴を零した。
『随分前にお会いして以来ですからね。仕方ないとは思うのですが、俺はああいう人間ですよ。覚えていらっしゃるかと』
『そうだった、私も煽られた』
もうどれだけ前の話だろうか。始めたての頃じゃないか。ラビーナとガルバルディと私達のイベント。枢機卿が死んだあの宮殿で、確かに近藤は二人を煽り倒していた。
『しかし、直接言いにくればよいと思うのだが』
『謹慎中でお会い出来なくて』
この言い分はガルバルディにはしっくりこないらしい、首を捻っている。これはイベントの性質によるものだろう。謹慎しているのだから自宅にいる、というのは現実での話だ。謹慎の結果会えなくなった、がゲーム内での事実である。
『ラビーナの希望か』
ぼそりとガルバルディが確認した。
『そいつは、そうとは限りません。ですがケリを付けることに、双方異論はないと思ってはいます』
私と近藤では認識が違う。ラビーナとも話し合ったが、合意には至らなかった。それでも私はガルバルディを欲する。アナーニ・プシェミズルでもクイン・ツォイマーでもないのだ。
『体裁を気取ったが、彼らの本音はラビーナを取り戻すことにある。まあ私は、それを邪魔していたとも言えるのかな』
『お気遣いの結果でしょう。俺からはなんとも』
私からはもっと早く対応出来た、だが今更詮無いとはこのことか。ガルバルディは続ける。
『何をすればいい』
『ラビーナを含めた彼らが苦戦した際、手を貸して頂きたい』
『それは彼らの総意か。許可は取ってあるんだろうな?』
『ラビーナ以外からは』
ガルバルディは些か困惑したようだが、選択肢はないはずだ。
『分かった。下準備を終えたら合流しよう』
『あくまで苦戦したら、ですので。善戦していたら見守ってあげて下さい』
『それでは貸しがつくれない』
ガルバルディは一蹴したが、
『いえ、いて下さればそれだけで心強いのですよ。充分貸しです』
柳に風と近藤は受け流した。
どうやら二人は戦死者を弔う墓地へと向かっているらしい。道中ガルバルディは花を摘んでいた。以降、話し合いは細かな点に入るだろう。映像は流したままにするが、一区切りしたと私は判断した。
王国における最重要人物三人とのイベント。その中心はやはりラビーナだった。
そして彼らの考えは理解した。ガルバルディですらあんな三文芝居に付き合うのだ、根っこは同じ……とは辛口過ぎるか。
雑談も含めた二人のやり取りを横目に、地下都市に陣取る我々は些かの沈黙が訪れていた。
これからのことを考え、認識を共有せねばならない。今のところ大きなズレは見られないが、確認とすり合わせが必要だ。
「奴らの考えは理解した。このイベント……話し合いの意味もよくよく理解出来た。結局あいつらは、権力者なんだ」
「当然だ。今更過ぎるぞ。権力には正統性が必要なのだ」
ザルギインは誰の味方でもない。当たり前のことを言っているだけだ。
それでも私の中には言い知れぬ怒りが膨らんでいく。
お前ら権力者の思惑通りに進むと思うなよ。
私もラビーナも、この日のために戦い続けてきたのだ。
冷たい思考、覚めた頭で私は映像を眺めていた。
ラビーナは、血統を絶やさぬ道具ではない。
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