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トカレストストーリー  作者: 文字塚
延長戦:だったら壊してしまえばいい
213/225

17.お前だけは許されない3

『貴様は何を言っているのだ。殿下には帰って頂く。間違いなく我々の手でだ』


 ツォイマーはわざとらしく言い放ち、席を立った。部屋を出て行く背中を映した映像が流れている。


「追うべきではない」


 珍しくクロスターが口を開いた。[わーってる]と近藤はチャット欄に書き込むが、さすがにクロスターには見られない。

 ガルバルディが大きく溜め息をつき、場は沈黙に包まれた。

 残されたのは聖剣士と暗殺者の二名のみだ。

 近藤の選択、行動いかんで全て決まってしまう。本当にこれが正しいのだろうか……と思っても私はそこにいない。今は信じるしかない。


『聖剣士も大変ですね』


 たっぷり時間を使ってから徐に、近藤は呟いた。


『あちらこちらに気を遣わなければならない。場所を変えますか』


 確認すると、


『出ようか』


 ガルバルディは短く応じた。

 王城地下から外へと出て行く。行き先は決まっているようで、どうも郊外へと向かっているらしい。


『全く、ひやひやしたよ。もう少し慎重に振る舞ってくれると思っていた』


 二人並んで歩く中、ガルバルディはそう愚痴を零した。


『随分前にお会いして以来ですからね。仕方ないとは思うのですが、俺はああいう人間ですよ。覚えていらっしゃるかと』

『そうだった、私も煽られた』


 もうどれだけ前の話だろうか。始めたての頃じゃないか。ラビーナとガルバルディと私達のイベント。枢機卿が死んだあの宮殿で、確かに近藤は二人を煽り倒していた。


『しかし、直接言いにくればよいと思うのだが』

『謹慎中でお会い出来なくて』


 この言い分はガルバルディにはしっくりこないらしい、首を捻っている。これはイベントの性質によるものだろう。謹慎しているのだから自宅にいる、というのは現実での話だ。謹慎の結果会えなくなった、がゲーム内での事実である。


『ラビーナの希望か』


 ぼそりとガルバルディが確認した。


『そいつは、そうとは限りません。ですがケリを付けることに、双方異論はないと思ってはいます』


 私と近藤では認識が違う。ラビーナとも話し合ったが、合意には至らなかった。それでも私はガルバルディを欲する。アナーニ・プシェミズルでもクイン・ツォイマーでもないのだ。


『体裁を気取ったが、彼らの本音はラビーナを取り戻すことにある。まあ私は、それを邪魔していたとも言えるのかな』

『お気遣いの結果でしょう。俺からはなんとも』


 私からはもっと早く対応出来た、だが今更詮無いとはこのことか。ガルバルディは続ける。


『何をすればいい』

『ラビーナを含めた彼らが苦戦した際、手を貸して頂きたい』

『それは彼らの総意か。許可は取ってあるんだろうな?』

『ラビーナ以外からは』


 ガルバルディは些か困惑したようだが、選択肢はないはずだ。


『分かった。下準備を終えたら合流しよう』

『あくまで苦戦したら、ですので。善戦していたら見守ってあげて下さい』

『それでは貸しがつくれない』


 ガルバルディは一蹴したが、


『いえ、いて下さればそれだけで心強いのですよ。充分貸しです』


 柳に風と近藤は受け流した。

 どうやら二人は戦死者を弔う墓地へと向かっているらしい。道中ガルバルディは花を摘んでいた。以降、話し合いは細かな点に入るだろう。映像は流したままにするが、一区切りしたと私は判断した。


 王国における最重要人物三人とのイベント。その中心はやはりラビーナだった。

 そして彼らの考えは理解した。ガルバルディですらあんな三文芝居に付き合うのだ、根っこは同じ……とは辛口過ぎるか。

 雑談も含めた二人のやり取りを横目に、地下都市に陣取る我々は些かの沈黙が訪れていた。

 これからのことを考え、認識を共有せねばならない。今のところ大きなズレは見られないが、確認とすり合わせが必要だ。


「奴らの考えは理解した。このイベント……話し合いの意味もよくよく理解出来た。結局あいつらは、権力者なんだ」

「当然だ。今更過ぎるぞ。権力には正統性が必要なのだ」


 ザルギインは誰の味方でもない。当たり前のことを言っているだけだ。

 それでも私の中には言い知れぬ怒りが膨らんでいく。


 お前ら権力者の思惑通りに進むと思うなよ。

 私もラビーナも、この日のために戦い続けてきたのだ。

 冷たい思考、覚めた頭で私は映像を眺めていた。


 ラビーナは、血統を絶やさぬ道具ではない。

応援よろしくー

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