16.お前だけは許されない2
ミリアン王の言葉に、近藤ですら口ごもるっている。話していいのか判断が付かないのだろう。
『陛下、以降はお任せを……』
ツォイマーの言葉にミリアンは渋面を浮かべたが、実際任せて退室してしまった。
そうして残ったのは、共犯者の顔だけだ。近藤が先を切る。
『お伝えするべきでは?』
たった一言、これだけで二人は察したらしい。
『そうしたいのは山々だが、でどうなる』
ツォイマーはばっさりと斬り捨て、あらぬ方向へと視線を向けた。近藤も近藤でしれっとしているのだが。唯一浮かぬ顔なのはガルバルディである。
『私の不手際ということになるのだな』
『そうしたい者は多いだろう。が、何も素直に嵌められてやることもない』
『こんなことになるなら、あの時……』
『責任者は死んだ、誰も責任は取れない。閣下は働き過ぎだ』
『だが処罰を受けたぞ』
苦しげに自嘲するガルバルディに、
『形式だ。格好とも言う。体裁に過ぎない』
ツォイマーは泰然と振る舞う。
そんな傷の舐めあいが終われば当然、切っ先は近藤へと向けられる。
『貴様事情を知りながら尚、王族を巻き込んだな。どういう意図だ』
格上二人に挟まれる形になったが、近藤は怯まない。
『こっちは行き詰った姫君に手を貸した認識です。文句は枢機卿かザルギインにでも仰って下さいな』
「おいやめろ」
指摘され、ザルギインが思わず声を上げている。当然映像の中の二人には聞こえていない。近藤には聞こえているだろうけど。
『あの化け物はなんだ。まさか殿下が召喚したのではあるまいな』
『まさか』
『ならばそちらの意図はなんだ』
意図ねぇと呟き、近藤はガルバルディに視線を送る。すぐにそうと察したろうに、ガルバルディは応じない。
『閣下に用向きがあると言いたいのか』
はいそうです、が答えなのだがはっきりとは言い辛い。
このイベントの意味は、真意はなんだ?
[佐々木、騙されるな]
チャット欄に近藤の書き込み。どういう意味だろう……いや違う。答えは目の前に、はっきりしているじゃないか。これが正解だとするなら……。
沈黙が続く映像を無視し、
「ザルギイン、お前どうみる」
「どうとはなんだ」
「二人、いやミリアン王を含めた三人の様子から何か感じないか?」
少し性急過ぎたろうか。普通に考えて、こいつが素直に応じるはずもない。だがザルギインはくつくつと哂い、
「なんだ、信用出来ないなら信用しなければいい。それを確かめてどうする?」
それから「妙な奴だ」と付け加えた。
「お前だって当事者だろう」
「彼らとてだろう、お前もだ。くだらん、猿芝居をしている暇があるのか」
吐き捨てた台詞ではない、呆れているのだ。やはりそうなのか……。
『まあ閣下でなくても構わないのです。ただそう、その場合窓口は俺じゃなくなりますが』
沈黙を終わせらるため、近藤が一石を投じる。
『貴様らの謀には乗らん』
『では腹蔵なく。ラビーナと話したいならこちらの提案を受け入れるべきだ』
『話すさ、いつだってそのつもりだ』
『ではなぜ今そうなさらないのです?』
それは、私達がインしていない時は、エネさんの隠れ家にいるからだ。近藤は更に続ける。
『東の大陸にいる彼らはフリーのハンターです。今回は相手が手強過ぎました。ですが、獲物は人類の敵と断じていいでしょう、いずれ成敗せねばなりません』
無理やり引きずり出したのに、人類の敵認定されてる。
それからは近藤は、鋭く核心を突いた。
『よってラビーナ嬢は未だ人間であり、知らぬ存ぜぬは通用しない』
迂遠に断言し、近藤は彼らの謀、いや演目を終わらせようとしている。
それは、
「王様は、何もかも知っているんだね……」
ハッキネンの口から告げられた。
近藤の一言で見当はついていた。彼らは、枢機卿とラビーナの身に起きたことを覆い隠してしまいたかったのだ。
このイベントは「我関せぬ当事者」を意味し、こちらの対応が選択肢となって結果が決まる。
この期に及んで「知らぬ存ぜぬで押し通す予定」と来たか。
やはり私はお前を許さない、お前だけは許されない。




