15.お前だけは許されない
王城の地下へと近藤は招かれた。いや、呼び出されたということなんだろう。
近藤の視点でイベントは進み、我々はそれを見守る。ザルギインやクロスターのようなNPCまで観ている、というのはかなり異例だ。
そもそも誰が呼び出したのか疑問だったが、扉の向こうにいた顔を見て納得出来た。腕組みしたクイン・ツォイマーがそこにはいた。
これで騎士団絡み、アナーニ・プシェミズルが関わっていると察しが付く。
情報網に引っかかったという近藤の話は事実だったのだ。
石壁の部屋に案内され、近藤はかつてイベントで何度も関わったツォイマーと向き合うこととなった。
『おや、副団長は出世されたものだとばかり』
軽口を叩き近藤は余裕をアピールしてみせる。このツォイマーにとって近藤は初対面のはずだ。不遜で馴れ馴れしいと思って不思議でないが、
『したさ。したからこうしてここにいる』
平然と受け止め応じている。
『それは失敬』
『すぐ来る。しばらく待て』
さいですか、と応じ近藤は口を閉じた。
実際すぐに来た。我々のよく知っている人物と、名前だけは聞いたことのある人物が。
「これがラビーナの父親……」
表示から思わず呟くが、三人は反応を見せず、近藤も何も言わない。
思っていたよりも若い。髭面で、王侯貴族というよりいかにもやり手と言った風体だ。
小さなテーブルを囲むようツォイマー、ガルバルディ、ミリアン王が腰掛ける。もう一人側近のような人物も来たが、立ったままだ。
近藤は素知らぬ振りを貫いている。王もガルバルディも知らないといった顔だ。
『で、どういう状況だ』
ミリアン王の低い声が響きツォイマーが慇懃に応じる。
『かの怪物は現在東の大陸に。素性不明の戦士共が対応しており、団員が監視しております』
『そこに娘がいると、そういうのだな』
『御意』
チャット欄に[異論はあるが、まあ正解]と近藤が打ち込んでいる。恐らくラビーナはラスボスの近くにはいない。ただし、交替するメンバーとは接しているだろう。
『将軍閣下、どういうことか』
重々しく尋ねるミリアンに、ガルバルディは苦しげだ。
『申し訳ありません。何か企んでいると感づいてはいましたが……』
『看過出来ん。その身に何かあった時誰が責任を取るのか』
その一言で、しんと水を打ったかのように静まり返る。
看過出来ないのは娘の身を案じてか、それともラスボスの存在か。口では娘と言っているが……。
『で、俺はなんで呼ばれたんですかね』
しびれを切らした振りをして、近藤が口を挟む。口振りは横柄で、時代によっては死罪とか言われそうだ。そんなことにはならず、ツォイマーが口を開いた。
『貴様、王女殿下と随分親しいそうではないか』
王女殿下ときたか。未だ王族扱いということになる。
『特段親しくはありませんよ。ご存じありませんか』
『最近近づいたことは認めるのだな』
誘導尋問に入るまでもなく、確かに近藤は認めている。
『でなきゃ呼ばれないでしょうから。で、私にどうしろと』
見ようによっては悪質な開き直りに、ツォイマーが鋭い視線を向ける。
『そもそも目的はなんだ。なぜ王女殿下を巻き込んだ』
『目的は化け物退治。姫君は力貸して下さるとのことで、お力添え頂きました』
……まあ、合ってなくもない。
『王女殿下と知ってのことか』
『さあ、家出少女は立派に一人立ちされているようなので、お仕事の依頼という認識ですが』
軽い挑発に、ツォイマーは慎重に振る舞うことを選んだ。視線をガルバルディへと向け口を閉ざしている。
『君の認識は理解した。とはいえあんな化け物に近づけるのは、理解に苦しむ』
言葉を選ぶガルバルディに、近藤は一つ間を置いた。
『姫君は危険と認識されていないようですが』
『そんなことはどうでもよいのだ』
ミリアンが声を荒げ割って入る。
『あれが何を考えているのかではない。あれをどうするかが問題なのだ』
あれ呼ばわり……憤慨してもいいところだが、見過ごせない箇所がある。
『憚りながら、どうされるおつもりなのです?』
近藤のストレートな問いかけに、
『連れ戻す。王族には王族の役割がある。貴様なんぞには分からんだろうが』
この言葉に対しツォイマーは反応を殺し、ガルバルディは苦い顔を浮かべている。
そうしてああ、と悟るのだ。
ミリアンはラビーナが魔に堕ちたことを知らない。
もう人間ではないのに、王族も何もないというのに。
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