14.広がる景色は5
ラスボスは硬い、攻撃も苛烈。だけど……、
「こいつは何者なんだろうな」
ザルギインがハッキネンを見ながら言うので、一瞬知ってるだろと突っ込みそうになったが呑み込む。
「誰か分かんないの。何千年も生きてるくせに」
「さあな、知らんものは知らん」
ほんと使えねー野郎だ、連れて来なけりゃよかった。内心で愚痴ると、
「何者かは不明ですが、戦意がないのは間違いないでしょう」
クロスターが静かに指摘した。
戦意? ラスボスに戦う意欲がない。クロスターはそう言うのか?
「なるほど、迷惑なので追い払っているだけということか」
「そんなところでしょう」
「ふむ。とはいえ双方よくやるな、いい腕をしている」
「まだはっきりとは。しかし打開策はあるのに取らない。何か意図がありそうです」
あ? 打開策があるだと。ダメージが通らないのにどう打開するってんだ。
ハッキネンを見つめる男二人、という奇妙な絵面は一端頭の隅に追いやる。
「何をどう打開すればいいんだよ。あんな硬いの、どうしろって言うんだ」
ザルギインはちらりと視線を寄越し、
「硬い脆いはともかく、叩き続ければいずれ破砕する」
「そんな常識通用するか怪しいだろ。現に1しかダメージ……」
って、表示の話をしても通じないか。溜め息をつくと、
「お前らは数値化するのが得意なのだろう。それは知っている。だが、数値化出来ない苦手分野があるな」
鋭い指摘で言葉に詰まる。こいつ、相変わらず察しがいい。
「あれは相当嫌がっているんだよ、攻撃されることは。反撃とて普通の人間なら簡単に倒せるはずだ。だが死なない。手詰まりなのはお互い様という奴だな」
そんな真面目に答えられても……サイレント映画状態なのになんでそこまで分かるんだ。そもそも合ってるのか分からないけれど、
「じゃあどうしろって言うんだ」
「お前が戦場に行けばいい」
「だから……」
「分かっている。今は行きたくない理由があるんだろう? 同様に、奴らも本気でやりたくない理由があるのだ。お前ら、そう深い付き合いではないな」
さして興味なさ気に、的確に言い当ててみせる。
「あ、ああ……そうかそういう……」
意味を理解し、思わず言葉が漏れた。
「戦いはまだ始まったばかりだ。互いに牽制し合っているのか……」
この互いというのはクリードや時長さんだけを指しているのではない。ラスボスも何故か本気を出したくないらしい。
我々に関しては信頼関係を構築出来なかった面が強い。加えて連携プレーを全くと言っていい程軽視してきた。手の内を晒すことをこの期に及んで嫌うのは理解に苦しむが……。
「考えようよっては時間はたっぷりあるんだ。今日の残りと明日。もしかしたらその次も」
ハッキネンの指摘に頷く。三日間という縛りは私達の前提だ。けれど、誰かに気付かれ横取りされそうになった時どうするのだ。近藤は今日明日しか参加出来ないぞ。上位プレイヤーが来た時、簡単に排除出来るだろうか。
だからこそ手の内は明かさない、か。対応策があるのかもしれない。
ラスボスは戦意がないらしい。でたらめな全方位攻撃は、現状物理攻撃に限られている。ここに魔法や特殊スキルや状態異常系が加われば、今のような安定した膠着状態ではいられない。
「ザルギイン、お前ら本当にあれを知らないんだよな?」
「こいつのことか? さあな、似たようなものなら見かけたことぐらいはあるかもしれない」
似たようなもの? 冥府にいたということか?
「まさか、地上の話……」
「なわけないだろう。むしろ、なんでこんな化け物を引きずり出したのだ。お前らは世界を滅ぼしたいのか」
思わぬ指摘に渋面が浮かぶ。とはいえそこまで考えていなかった。
「そんなに凶悪な強さか? プレイ……戦士は腐る程いるぞ、数じゃ負けない」
「統制が取れるなら、だろう」
正論野郎になっている。グサグサと刺し傷つくりやがって。
「そう悲観することはないだろう。ガルバルディが来るならきっと抑えきれるよ。まあ僕らにしてみればちょっと不満は残るけどね」
ハッキネンのこれまた正論が述べられた時、突然映像が切れた。
『悪いな、エネと代わって貰った』
近藤の声だ。ああ、何か起きたのだなと直感する。
『ガルバルディ絡みのイベントだと思うわ。なんでか俺が城に呼ばれたよ。ちっと行くから、お前ら見てろ』
それから近藤は、初めましてお三人さん方と付け加えた。
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