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トカレストストーリー  作者: 文字塚
延長戦:だったら壊してしまえばいい
208/225

12.広がる景色は3

 私だけが違う景色を見ている。

 ずっと違う景色を見続けてきた。

 みんながラスボスと戦う機会を得られたことは本当に良かったと思う。努力した甲斐があった。

 さりとて我々は皆別の物語を抱えている。動機もそれぞれ違うだろう。目的だけは統一されている、と私も思っていた。そう言い聞かせていた。

 声をかけたはいいが、二の句を繋げず沈黙していると、


「キリア君、僕は戦いたい。こんな機会滅多にない。彼らの力になりたい、仇を取りたいなんてお為ごかしを言うつもりはない」


 ハッキネンが踏み込んだ発言をしてきた。


「自分の努力を無駄にしたくない。力を試したい、証明したい。死地に赴くを恐れてはサムライは名乗れない」


 率直な言葉に心が揺れそうになる。そうだろう、わざわざ弱ジョブ選んで鍛え上げてきたのだ。今やらないでいつやるというのだ。

 彼は彼で過酷な道を歩んできた。それぞれが人生と同じよう様々な経験を積み、自分の道を歩いてきた。

 オープンワールドRPGは自由度が高いから尚更だ。


「今は近藤からの連絡を待ちます。映像を観て分析しましょう」


 力なく応じ、視線も合わせない。

 放っておくと戦場を捜しに行きそうな勢いだが、ハッキネンはそれ以上何も言わなかった。映像を観る、という言葉がそれなりに説得力を持ったのだろう。


「観る、というなら現地に赴くべきではないのか」


 ザルギインからしてみれば当然の疑問。と言いたいところだが、かつてこいつは私達がチャットでやり取りしていることに気付いていた。


「その手には乗らない」

「ではどうするというのだ。ここで仲間が傷つき死にゆくのを待つつもりか。それが貴様の真の目的ということか」


 なわけないだろう。露骨な挑発には乗らず、なるほどやはりザルギインはラスボスを見てみたいのだなと解釈する。

 クロスターはどうだろう。こいつは冥府のからの脱出に何故か協力的だった。参謀としての判断だろうが真意が図れない。


「頼みがあるのではなかったのか」

「今は待ってくれればいい」


 そうとだけ告げ私は押し黙った。

 地下都市中央の噴水広場はどこまでも穏やかだ。

 激戦繰り広げられる戦地を思うと胸も痛むが、それでも今は待つしかない。


「外します。今は待って下さい」


 またデバイスを外し、視界は冴えない自室へと戻る。


 三十分程経ち、近藤から連絡がきた。


「映像用意出来るぞ。問題は中じゃ会話も出来ないことだな」

「そうだね。こまめにチェックするよ」

「なんだ元気ないな。みんな大したもんだ、ここまで強いとはね。さすがトッププレイヤーってなもんか」


 近藤は素直に感心したらしい。それは結構。善戦しているのだろう。


「じゃあまた。ガルさんのことよろしく頼むよ」

「任されたよ」


 通話を終え再びトカレスト世界へと戻る。


「映像が用意出来ます。まずは分析しましょう」


 少し焦燥感を醸し出すハッキネンに告げると、落ち着きを取り戻した。


「そうだね。まずはどんな相手か確認したい」


 映像はすぐに送られてきた。それぞれのボードで確認してもいいが、一本にまとめるため空中にパネルを表示させる。

 パネルには巨大な岩石のような存在が映っている。その周囲をクリード、時長、ロナとサキが囲んでいた。他のメンバーと交替したらしい。

 クリードはフェンサーと名乗っていたが、実際はルーンフェンサー。しかもリングイスト、言語能力に長けているようで言語魔法を駆使している。

 パニッシャーを名乗る時長さんは万能系なのか、回復しながら接近し、多彩な刃物で斬り付けていた。

 ロナは歌声を響かせ、サキは魔法か何かの詠唱繰り返し遠距離攻撃を繰り出していた。


 問題は――ダメージが通らないことだった。


「冗談だろう……」


 ハッキネンは眼差しは真剣そのものだ。しかし、自分ならどうするか想定する以前にダメージを与えることが出来ていない。

 たまに表示されてダメージは1。これを戦闘と呼んでいいのかどうか……。

 ラスボスの硬さは評判通り。嘆息する我々にザルギインが言葉を発する。


「貴様らさっきから何をしているのだ。ぶつぶつと気持ちの悪い」


 ……そうだった、こいつらに映像は見えない。

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