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トカレストストーリー  作者: 文字塚
延長戦:だったら壊してしまえばいい
206/225

10.広がる景色は

 久々に地下都市へと足を踏み入れ、一目見て驚いた。

 完全に修復されている。

 あれだけ戦闘があって更地になるほど粉々にしたのに。

 ハッキネンに確認すると、自然と元に戻っていたらしい。


 地下都市中央の噴水広場へと歩を進めながら、さてどうしたものかと思案する。

 ラストダンジョン、冥府は地上と連絡が取れない。一方ここは、既に地上扱いなので最早なんの制限もない。


「じゃあどうなっているか、ちょっと確認しようか」


 噴水の縁に腰かけハッキネンは情報を集め出した。

 私はステータスボードを確認し、自分がチームヴァルキュリアから離脱していることを発見した。何故だ、六英雄の物語ならチームはそのままのはずだったが。

 しかしこれは都合がいい。今戻ったと悟られるのは都合が悪い。

 で、どうすると思考を巡らせていると、


「キリア君……戦死者が出ている……」


 ハッキネンが静かに告げた。思わず舌打ちしそうになるが、努めて冷静に応じる。


「残念です。関係者ですか?」

「知ってるプレイヤーだ。タツタは元々旅団のメンバーだからね」


 ブリーダーのたっくんがやられた。つまりラスボスと遭遇したのは私達のチームか。悲劇ではあるが最悪の事態は避けられた。みんな覚悟は出来ていたはずだ。


「戦死者名簿が更新されたことでちょっとざわついてるね」


 そう言って、ハッキネンは静かに目を閉じた。黙祷のつもりだろう。私もそれに倣う。


「殊勝だな。お前が始めてお前が煽った結果とはいえ、本人の意思だ。勝利こそ正当な追悼ではないのか」


 ザルギインは冷徹に振る舞えと言いたいのだろう。一人一人の死を気に留めていては、戦争指導者など勤まらない。が当然、私達は戦争指導者ではない。


「敵討ちなど考えるな。ただ勝てばいいのだ」


 リサイクル出来る奴はいいよな。それに、これは煽っているのだ。さっさと戦地に赴き戦えと。


「まだ状況が確認出来てないから行かない。疲れてるし」


 目を開き素っ気なく応じると「なんだそれは」と白い眼を向けられた。こいつの都合に付き合う道理などない。

 さて、問題はここからだ。戦っているのは彼らだけなのだろうか。どこでどういう状態なのか。今私はチームから外されている。確認しようにも外部との連絡はシャットアウトされている。相沢の言い分を私と近藤が飲んだからだ。

 しかし抜け穴はある。私と近藤はリアルで知り合い、エネさんもだ。他のメンバーも似たようなケースはあるだろう。

 とにかく、


「一端休みます。ちょっと疲れました」


 そう言って一端デバイスを外した。


 現実に戻ると時間は午後一時を過ぎたところだった。特に急がないので近藤へはメッセージを送る。

 椅子に腰かけたまま背筋を伸ばし、ほっと一息。

 何か食べておいた方がいいだろうか。とりあえずリビングに下りようとしたところで携帯が鳴った。


「おい、還ったのか。どうやった」


 開口一番近藤はそう言って驚いている。「早いよ」と苦笑して、事情を簡潔に説明。今は地下都市で待機中だと伝えた。


「そっちは?」

「んん、まだ王都だ。ガルバルディと話してないからな」


 悪い、と付け足し近藤の声が小さくなる。ガルバルディと話がついていないのは計算外だ。これは困る。


「んー私が行くべきかな?」

「いや、騒ぎが広がってるだろ? 王国の情報網にも引っかかってる。何せヴァルキリーがいるからな。いずれ向こうから接触してくると思う。なけりゃ乗り込むさ」


 アナーニ・プシェミズル……天上界を除けばこの世界唯一のNPCヴァルキリー。荒らされては敵わない。副団長のクイン・ツォイマーがどう動くかも測れない。


「近藤、ガルさんで頼む。他のじゃみんな納得しないよ」


 念を押すと「分かった」と近藤はすんなり受け入れた。


「で、どこで誰が戦ってる状況? たっくんがやられたのは知ってる。みんな善戦してる? ラスボスはどんな奴?」


 矢継ぎ早に問いかけると、


「見つけたのはゼイロ達だ。タツタさんがやられて初めてラスボスだと認識した。場所はかなり東だな。王国からすりゃ別の大陸で、人が少なくて遺跡の多い場所だ」


 だからたっくんがやられたのか……仇は……いや、と頭を振る。ザルギインではないが勝利すること、目的を達することが重要なのだ。


「ラスボスはいくつも形態を持ってる。滅茶苦茶堅い。攻撃もでたらめでオールレンジだ。さっきまでは岩見たいな形をしてたよ」


 そうか、やはり六英雄の物語を始めみんなが経験してきたことは事実だったんだ。

 多くの犠牲の上にここまで追い込んだ、引きずり出したんだ。

 私が、私がケリをつけてやる。

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