9.異端のヴァルキリーは諦めない2
飛行能力は世界最速、私はそう自負している。
とはいえ敵もさる者、飛行型モンスターと連携し地上からも追って来る。ハッキネンを抱き抱えながらでいつもと勝手が違うし、ザルギインとクロスターは既に攻撃を受けている。
「ったく、役立たずが!」
致し方ないんだ、私は悪くないので。と告げてからハッキネンを剛力を使い高く放り投げる。
「ちょ、ちょっとおおおお!」
警告なしの行動、北欧の侍の叫び声が遠くなっていく。気にせず敵を視界に捉え、
「ああもう! いいよ相手してやるよ!」
瞬間、血のざわつきを感じ不穏な予感がした。だが構っていられない。
「お前らなんぞにブルプラ使うか、ストーンボムで充分だ!」
石の矢が無数、一瞬で浮かび上がる。一つ一つは細く頼りなく見えるが、
「千だったな、なら百だ」
空中に浮かぶ百の矢が地上に降り注ぐ。時をかけず巨大な爆発が百か所で起きる。
続いて空中の敵に、広範囲トリプルショットを連発。散弾をばら撒くようなものだ。
だが、これらはあくまで足止めである。
「行くぞザルギイン! さっさと飛べ!」
落ちてきたハッキネンを受け止め再び飛び立つ。
ザルギインも遅まきながら付いてくる。
戦場は徐々に、しかし確実に遠のいていった。
追撃を振り切ることに成功し、一端地上に降りる。
「で、ここからどれぐらい。ずっとは飛べないから出来たら移動手段が欲しいんだけど」
三人に対し口早に尋ねると、
「いや、急に投げられたせいで立ち眩みが……」
嫌味かと思ったが本当にふらついている。ああ、ちょっと高く投げ過ぎてしまった。
「すみません……」
「いや、正しい判断だからそれはいいんだ……」
「飛び続けられないのか。情けない。それなら地上を往くしかないではないか」
ザルギインのは分かりやすく嫌味だ。
「そもそもこれでは兵団を取り戻すことも、奴らを手中に収めることも出来ない」
いつまで同じ愚痴を言うんだこいつは。また二人して睨み合っていると、
「私の手持ちに脚の速い物がいる。それで距離を稼ぎ、休息が取れた後再び飛行。これならタイムロスは少ない」
意外にもクロスターが簡潔に提案してきた。
ザルギインの反応を見ると、溜め息をつくだけでそれ以上何も言わない。一体どういう関係なのだろう。
ま、そんなの構わない。
クロスターの提案が採用され、我々は冥府の地上を移動し始める。
あの地下都市へと向かって地上を往き、飛べる体力が回復次第飛行する。これを繰り返せばトカレスト内の二十四時間程で目的の場所に着く。
道々で妙なモンスターに絡まれ、あしらい、空で鳥型や竜に突かれ、半殺しにして旅は続く。
「嗚呼、あれを回収出来れば……」
ザルギインは口惜しそうだが、クロスターはそうでもないらしい。ただじっと、私達を観察している。こいつの詳しい人となりを、私は知らない。後でハッキネンに確認するべきか。
そうして移動を続けて丸一日、ついに目的地が見えてきた。
「あそこが入口だ。なんとか一日でたどり着けてよかった」
ハッキネンはほっとしたようで大きな溜め息をついた。
確かにそうかもしれない。現実では四時間、まだ昼を過ぎたばかりだ。
「んじゃ行きますか」
反対側から入るのは初めてだ。冥府に名残惜しさなどないが、なるほど性質の悪さはよくよく理解出来た。これを征服しようってんだからザルギインは底なしの馬鹿、というか無謀な奴だ。
横目で様子を窺うと、
「なんだ。言いたいことがあるなら口にしろ」
「いやこの広さの世界、征服すんの無茶でしょ」
率直な感想をぶつける。
「お前が諦めないよう私も諦めを知らない。それだけだ」
真っ直ぐ前を見たままザルギインは言った。
同じ……こいつと私が。まさか共通点があるとはね。
「さあ戻ろう。地上は久しぶりだ」
ハッキネンはそんな二人を見て明るく声を上げてみせた。
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