8.異端のヴァルキリーは諦めない
どの程度の力で破壊すればいいか、腰をかがめ埋め立て後を眺めていると、
「で、作戦は。私は兵団を取り戻さねばならない」
ザルギインが上から尋ねてきた。
「さあ、取り戻したいなら自分でやんなよ」
「重要な戦力だ」
「ガルバルディ見たくないの?」
「それは後だ」
「いや逆だ」
視線がぶつかりザルギインは眉間に皺を寄せているが、こちらの言い分は理解しているはずだ。
もし本当にこいつが特別な存在であるならば。
間に入るよう、
「実際どういう作戦でいくつもりだい?」
長い髪をかき上げながらハッキネンが問いかけてきた。
「それより冥府から地上に出られる一番近い場所ってどこかな?」
重要なことだと言い添えこちらも問いかけると、
「このダンジョンの入口だ」
ザルギインが混ぜっ返した。
「じゃあそこから出ろよ、お前らは」
「そうしてもいいが、兵団を取り戻さねばならん」
「リサイクル可能な兵隊ってのはほんと便利なんだな。勝手に回収すりゃいいじゃん。か弱い女の子に手を出す優秀な部下もいるんだし」
嫌味を返すと、二人は白々と顔を見合わせた。微妙な空気にまたハッキネンが間に入る。
「ここからだと……例の地下都市が一番近いと思う」
「時間にしてどの程度ですか」
「ううん、丸一日ってとこかなあ……」
思案気な彼に向けあの、と小さく手を挙げる。
「私飛べますよ。ザルギインだって飛べるじゃないですか」
「それで一日だ。ただし侍マスターは徒歩だ。二人は抱えられない。お前がなんとかしろ。まず奴らを駆逐し兵団を取り戻す。そして指揮官を仕留める。時間としては――」
ザルギインの勝手な言い分を遮るよう、
「じゃ行きますか。ハッキネン、葉隠れ使わないでね。さすがに怖いから」
悪戯な笑みをつくり、序盤から手に入るショートボウを取り出し構える。
貫通効果アップ、破砕効果アップ、広範囲攻撃スキル装備。
「おい、人の話を――」
覇王を無視しクォレルは放たれる。
轟音が鳴り大量の粉塵を撒き散らすと、外部が露わになった。
意外にも外は明るい。冥府というから闇夜や赤い空をイメージしていたのに。
そして、それらが目に入る。
「くそっ、やっぱりまだいたか……」
ハッキネンの嘆きをよそに、私は歩みを進める。
今問題なのは無事外に出られるかだ。
全てはそれで決まる。
当然、我々に気付いた冥府のモンスターが包囲網を築き始める。
意に介さず前へ、もう一歩前へ――
レベルを半分を失うのは、全てを失うに等しい。それでも選択肢などないのだ。
境界を越える頃、私は大きく息を吐いていた。
やはり、入口からでなければ問題なかった。
でなければザルギインが止めていたはずだ。
ムカつくが奴はずっと示唆していた。全く、嫌いなのに役には立つから性質が悪い。
そうして私達はモンスターの大群に包囲されていた。
「キリア君、無事は何よりだが本当に勝てるのか?」
大群を前にハッキネンは及び腰だ。一度やられているのだから無理もない。
名前のない怪物達。なるほど強そうだ。
大群の中から「ザルギイン!」と叫ぶ声が聴こえた。「負け犬が降伏しに来たか!」更に響き渡る。
が、当の本人はしらっとしたもので、
「ふん、少し優位なぐらいで図に乗りおって」
少しねえ。ザルギインは続ける。
「で、どうするのだ。これらを駆逐していけば隷属させられる。それがお前の狙いだろう」
ん?
「いや、違うけど」
「粉々にするつもりか? 修復するクロスター卿の身になれ」
「いや、それも違う」
「ではどうすると――」
傍にいたハッキネンを抱き抱え、
「逃げる」
一瞬で飛び立つ。
「己貴様!」なんて台詞が聴こえたような気はするが、気のせいでもないんだろう。
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