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トカレストストーリー  作者: 文字塚
延長戦:だったら壊してしまえばいい
204/225

8.異端のヴァルキリーは諦めない

 どの程度の力で破壊すればいいか、腰をかがめ埋め立て後を眺めていると、


「で、作戦は。私は兵団を取り戻さねばならない」


 ザルギインが上から尋ねてきた。


「さあ、取り戻したいなら自分でやんなよ」

「重要な戦力だ」

「ガルバルディ見たくないの?」

「それは後だ」

「いや逆だ」


 視線がぶつかりザルギインは眉間に皺を寄せているが、こちらの言い分は理解しているはずだ。

 もし本当にこいつが特別な存在であるならば。

 間に入るよう、


「実際どういう作戦でいくつもりだい?」


 長い髪をかき上げながらハッキネンが問いかけてきた。


「それより冥府から地上に出られる一番近い場所ってどこかな?」


 重要なことだと言い添えこちらも問いかけると、


「このダンジョンの入口だ」


 ザルギインが混ぜっ返した。


「じゃあそこから出ろよ、お前らは」

「そうしてもいいが、兵団を取り戻さねばならん」

「リサイクル可能な兵隊ってのはほんと便利なんだな。勝手に回収すりゃいいじゃん。か弱い女の子に手を出す優秀な部下もいるんだし」


 嫌味を返すと、二人は白々と顔を見合わせた。微妙な空気にまたハッキネンが間に入る。


「ここからだと……例の地下都市が一番近いと思う」

「時間にしてどの程度ですか」

「ううん、丸一日ってとこかなあ……」


 思案気な彼に向けあの、と小さく手を挙げる。


「私飛べますよ。ザルギインだって飛べるじゃないですか」

「それで一日だ。ただし侍マスターは徒歩だ。二人は抱えられない。お前がなんとかしろ。まず奴らを駆逐し兵団を取り戻す。そして指揮官を仕留める。時間としては――」


 ザルギインの勝手な言い分を遮るよう、


「じゃ行きますか。ハッキネン、葉隠れ使わないでね。さすがに怖いから」


 悪戯な笑みをつくり、序盤から手に入るショートボウを取り出し構える。

 貫通効果アップ、破砕効果アップ、広範囲攻撃スキル装備。


「おい、人の話を――」


 覇王を無視しクォレルは放たれる。



 轟音が鳴り大量の粉塵を撒き散らすと、外部が露わになった。

 意外にも外は明るい。冥府というから闇夜や赤い空をイメージしていたのに。

 そして、それらが目に入る。


「くそっ、やっぱりまだいたか……」


 ハッキネンの嘆きをよそに、私は歩みを進める。

 今問題なのは無事外に出られるかだ。

 全てはそれで決まる。

 当然、我々に気付いた冥府のモンスターが包囲網を築き始める。


 意に介さず前へ、もう一歩前へ――

 レベルを半分を失うのは、全てを失うに等しい。それでも選択肢などないのだ。


 境界を越える頃、私は大きく息を吐いていた。

 やはり、入口からでなければ問題なかった。

 でなければザルギインが止めていたはずだ。

 ムカつくが奴はずっと示唆していた。全く、嫌いなのに役には立つから性質が悪い。

 そうして私達はモンスターの大群に包囲されていた。


「キリア君、無事は何よりだが本当に勝てるのか?」


 大群を前にハッキネンは及び腰だ。一度やられているのだから無理もない。

 名前のない怪物達。なるほど強そうだ。

 大群の中から「ザルギイン!」と叫ぶ声が聴こえた。「負け犬が降伏しに来たか!」更に響き渡る。

 が、当の本人はしらっとしたもので、


「ふん、少し優位なぐらいで図に乗りおって」


 少しねえ。ザルギインは続ける。


「で、どうするのだ。これらを駆逐していけば隷属させられる。それがお前の狙いだろう」


 ん?


「いや、違うけど」

「粉々にするつもりか? 修復するクロスター卿の身になれ」

「いや、それも違う」

「ではどうすると――」


 傍にいたハッキネンを抱き抱え、


「逃げる」


 一瞬で飛び立つ。


「己貴様!」なんて台詞が聴こえたような気はするが、気のせいでもないんだろう。

読んでいただきありがとうございました。楽しんでいただければ幸いです。評価、感想などお待ちしています。

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