7.佐々木再び7
三人が入り込んだという場所へと移動を始める。暗がりに小さな灯が揺れる。
「キリア君、正直肝が冷えたよ。君のことだから本気でやるんじゃないかと思った」
二人肩を並べ歩いていると、ハッキネンが小声で話しかけてきた。
「ううん、それはないですよよ。優先順位がありますから」
のほほんと応じ、久しぶりに笑みを浮かべる。
「けど、外の敵は相当な数だ。実際勝てるかどうか。映像を見せたいがこの中じゃそれも出来ない」
ラスダンの仕様、そこは維持されている。まあ問題ない。
「大丈夫大丈夫、私達強いじゃないですか。そんなことよりラスボス、やれるかもしれませんよ」
話題を変え好奇心を刺激すると、
「それは豪気な話だ。けど、僕が参加していいのかい?」
「自由参加ですよ。どうせそうなります」
仕留めたなら何かしら反応があるはずだ。だが何も表示されない。まだ見つけていないか、見つけはしたが仕留めきれていない。誰かがやられた可能性もあるか。けどここじゃ分からない。
「そうなるとキリア君は、冥府から一気に地上を目指すつもりなんだね」
率直な問いかけに微笑んでみせる。
「となると二人はどうするだろう。僕は契約があるんだが……」
急な話で戸惑うのも無理はない。迷うハッキネンには悪いが私には関係ない。あくまで当人同士の話だ。が、恐らく問題ない。
ザルギインには目的がある。今回手に入れたモンスターだけで冥府を戦うのは難しいだろう。よく知らないけど。
「なるようになります。というか私よりあいつら取るとか傷つきますよ?」
軽口を叩くとハッキネンも笑ってみせた。かつては旅団で、その後地下都市で共に戦った。懐かしい思い出だ。
けれど感傷に浸っている場合じゃない。
私達はラスボスと戦う機会を得たかもしれない。
みんなより優位な状況にあるかもしれない。
それはつまり、このゲームを初めてクリア出来るプレイヤーになれるかもしれないということだ。
最強の侍を目指すため、不利を背負い厳しい道を歩み続けたハッキネンが、この機会を逃すことはないだろう。
問題は後ろを歩く二人と、ここから出ることは可能なのか、だ。
ラストダンジョンメインルートから大きく外れた場所に、三人が逃げ込んだという入口はあった。かなり慌てて穴埋めしたのだろう、岩石が散乱している。
「なるほど、ここから」
一つ呟きザルギインを見やる。
「で、連中外にまだいんのか」
「なぜ尋ねる。行って確かめればいいではないか」
クソが、足元見やがって。仕方なくハッキネンを頼る。
「どう思う?」
「うん、これまでのダンジョンとは仕様が違う。気配が感じ取れない」
どうなってるか分からないか。
「数はどれぐらい?」
「千は超える。小物も入れるともっとだ。飛行型モンスターもいるし、一体一体がかなり強い。冥府の雑魚は地上の中盤ボスクラスだ」
腕組むハッキネンを見てああ、そういうことかと納得した。
私達が送り込んだレアボスの塊、或いはそれ以上。しかし数が多い。数が増えれば統率も連携も取り辛くなるものだが。
「指揮官はいるんですか?」
「ああ、どうだろう。クロスターどう思う?」
「いるさ。ただしあの場にはいない」
話を振られたクロスターは素直に応じた。意外に思いつつも、
「なら問題ない。おいザルギイン、覚悟決めろ。やんぞ」
その主に決断を促す。
「何度も言わせるな。勝手に行けばいいだろう」
「なんなら手伝ってやってもいい、じゃないのか」
「手を貸してやっても、だ。案内しただろう」
それからザルギインはくだらんと首を振った。
ふん、余裕ぶっちゃいるが出たいのは分かってんだ。
冥府に落ちるのは初めてだが……覚悟するしかない。
全てを終わらせるためには、地上に戻るしかない。
レベルが半分になったら……いや、考えるな、そんなことあるはずない。もう前提は崩れてる。
パンっと頬を張り、
「よし、派手に暴れるぞ!」
檄を飛ばすと、
「なぜ我々も行く前提なのだ。お前は頭がおかしいのか」
「残ったら囲まれるだけだけど、それでいいのか?」
ザルギインがまたうんざり顔を浮かべたので、
「そうそう言ってなかったけど、ラスボス倒すのにいざとなったらガルさん頼ることになってるんだ。見たくない? 最強聖剣士対神話の化け物」
誘い水を差し出すと、初めて興味をそそられたらしい。ザルギインは傲然としながらも応じた。
「そういうことは早く言え」
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