4.佐々木再び4
懐かしさ、嬉しさの反面私には大きな違和感があった。この状況であるにも関わらず、ハッキネンから緊張感が見て取れない。
ラスボスは分からないが手強いモンスターはいるはずなのだ。この最深部にはいないと確信しているのか?
それにそもそもどうやって冥府に行ったのだろう。それがどうしてここに繋がったのか。
じっと見つめていると、彼もこちらを見ていた。視線が絡み合うなんてことはないが、
「あの、そもそもどうやって冥府に――」
言葉を放ったその時、奇妙な感覚を覚えた。人の気配ではない。であるならば! 素早くダイアソードに手をかけると、
「ああいやちょっと待った。ごめんごめん、違うんだ。まだ説明を終えてない。そもそもどうやってだったよね。彼らが戻るのを待ってたんだ」
慌てたハッキネンは、私と奇妙な違和感の持ち主に苦笑して見せる。
視線の先には、ボロボロの法依を纏った若い男が一人佇んでいた。
「誰です」
「まあ、契約者というか協力者というか、君も知っている人物だ」
知っているのか……。戦闘で追い詰められここに逃げてきた。それで装備がボロボロ……違う、とすぐに気が付いた。こいつはNPCだ。何も表示されていないし表示する意思も見せない。
「で、誰なんです?」
「誰だって言われてるよ」
水を向けられたが、
「知っているのだろう。自己紹介する必要があるのか」
平板な男の言葉に「全く」とハッキネンは溜め息を吐く。
「すまない面倒な奴で」
「いえ、大体分かりましたから」
その言葉でハッキネンも察しが付いたらしい。
「彼らと仰いましたよね。ならあいつもいるはずだ。出て来いよ」
強く暗闇向け言い放つと、そいつは少しずつ姿を現した。
この空気、このオーラ、なにより底なしの不愉快感……、
「相変わらず失礼な奴だ。口の利き方がなっていない」
クソ野郎ザルギインがそこにいた。
不愉快極まりない者、お互いそう思っているのだろう。睨み合うよう向かい合ったが、これで大よその見当はついた。だが、本人の口からはっきりと説明が欲しかった。
「ハッキネン、どういうことなの?」
「うん、どうしても冥府に行くのに、彼らの力が必要だったんだ」
些か言い訳がましく聴こえるが、実際それしかなかったのだという。彼は冥府への手がかりを探るため再び地下都市へと向かった。何度か通う内、偶然戻っていた彼らと再会した。
そこで交渉を持ち掛け、傭兵のような扱いで彼は冥府へと赴くことが出来た。以降ザルギインの冥府征服戦争に参画し、延々各地を転々としていたらしい。
「お陰でかなり強くなれた」
少し自慢げなのは、やはりソードマスターという不利なジョブの可能性を開拓出来たからだろう。だからってこいつと組むなんて……という私の気持ちは当然察しているので、自慢は控え目で居心地は悪そうだが。
「そうだったんだ。で、なんでこんなとこに。何があって何してたの」
問題はここだ。ラスダンが冥府と繋がっていたのは以前からなのか、或いは我々の活動のせいかは分からない。焦点はここで何をしていたのか、だ。
「さっき言った通り凄い大群に囲まれて、逃げ場がなくなったんだ。そうしたら崩落して入れそうな場所があるって彼がね」
そうしてハッキネンはボロ法依の男に視線を向ける。
「なんだ。必要だから避難した。それが問題か」
平板に言ったそいつはどこまでも冷めている。ザルギインは不快な笑みを浮かべ、あらぬ方向を見ている。
だから、
「別に問題ないよ。結局あれでしょ、また負けて軍団は崩壊して逃げ回ってたってだけの話なんだろうから」
この言葉に、冷め切っていた男が微かに反応した。ハッキネンは「いや展開がね……」と言い訳をし、ザルギインは自分のことなのに他人事のように振る舞っている。慣れているのか、私に弱みを見せたくないのだろう。
なるほどこいつら本当いつまでも変わらない。
そしてこのボロを纏った男が、クロスターという人物だ。
こいつがラビーナを追い詰めた。直接手を下したのは、近藤の解釈ならこいつだ。
丁度200部目になります。読んでいただきありがとうございました。楽しんでいただければ幸いです。評価、感想などお待ちしています。




