3.佐々木再び3
こうしてハッキネンとまた会えるのは、本来感慨深いものなのだろう。だけど、なんでこんな出会い方をしたのだ。
話が噛み合わない理由は理解したけれど……私達は一体何に巻き込まれているのだ。
噛み合わないのはハッキネンも当然感じていた。彼も状況を理解したがっている。一体どこから話せばいいのか……。迷っていると彼が先んじた。
ハッキネンとは地下都市のイベントで別れている。彼はあのイベントにかなりの衝撃を受けたらしい。メインストーリー以外にこんな隠しイベントがあるのかと。そして冥府の存在に強い興味を持った。そして行動に移した理由は二つあるという。
「誰も知らない場所がある。だったら行ってみたいし、見てみたくなるのがゲーマー心理ってものだ」
確かに、メインストーリーとは関係ないが気持ちは分かる。
「もう一つは深刻でね……ソードマスターの実力は知っているよね」
小さく頷く。正直強さを求めるというより、趣味とか拘りで選ぶジョブだ。そしてハッキネンは侍に憧れている。
少し暗い顔をして彼は言う。
「ふふ……色々やったし調べたさ。ソードマスターだってやれば出来る。僕は侍として最強になりたいってね。でも無理だった」
だから、と彼は続ける。
「なら、表通りで無理なら裏通りを選ぶしかない。ジョブの限界と可能性を探るために」
そうして彼は微笑んだ。なるほど確かに納得出来る話だ。動機も充分、だがどうやって?
「で、キリア君はどうして冥府を選んだんだい。君も可能性を求めて?」
興味津々と言った具合だが、根本的に間違っている。これを説明せねばならない。少し躊躇いはあるが……。
「あの、ここがどこだが把握されてますか」
いや、と彼はかぶりを振った。冥府のどこかだとは分かっているけれど、と苦笑している。嗚呼……こんなことがあるとは。気持ちを整理し、告げる。
「あのですね、ここはラストダンジョンです」
至って真剣に、事実を誠実に伝えた。だが、
「なるほど、どこのラストダンジョンなんだろう。冥府は広いから探索し甲斐があるんだよね。で、キリア君はここに何か用があったわけだ」
納得顔の彼に訂正を加える。
「違います。メインストーリーのラストダンジョンです」
努めて冷静に伝えると、ハッキネンは少し固まった後、飲み込めないと露骨に態度で示してきた。
「えーと、メインストーリーのラストダンジョンってあの強制ソロの奴だよね」
「はい」
「二人いるよ」
「だから驚いて警戒してたんです」
二人の間に沈黙が降りてきた。この間は当然のものだろう。
ハッキネンは顔をしかめ、思考を巡らせ事態を理解しようとしている。それでも彼は首を振り、違った結論を導いたらしい。
「からかってる?」
「そんなことしませんよ。あの、これは大事なことなんですけど、ここはラストダンジョンですから当然ラスボスがいるかもしれません」
真っ直ぐ見つめ告げると、さすがのハッキネンも冗談ではないと思い始めたらしい。
「いやしかし、なんでそんなことに。もしかして君また……」
ハッキネンの論理的帰結を、私は不承不承受け入れるしかなかった。
簡潔にここまでの流れを説明する。ラスボスをやるためにはこの方法しかないと私達は考えた。仲間も募った。だが実行した結果奴が中か外か分からない状態になった。だからこうして私は踏み込んだ。そうしたらなぜかハッキネンがいた。
彼はしばし呆気に取られていたが、
「つまりラビーナ・ガルバルディルートを突き詰めた結果、ラストダンジョンの条件が変わった?」
恐らく、と小さく頷く。
また沈黙が生まれたが、今度は多分に感心が含まれた様子がありありと見て取れる。
「キリア君は本当に大胆だ。さすが異端の最強ヴァルキリーと言ったところか」
「いえ、考えたのは近藤で私は悪くありません」
そっぽを向いて責任転嫁をするとハッキネンは苦笑して、
「強い信頼関係があるんだね。それに戻って来たのか彼は。そうか、僕が知らないうちにそんなことなっているとは」
信頼関係なんて大したものではない。あいつ、滅茶苦茶だ。
しかし私絡みで派手な動きがあったことをなぜハッキネンは知らなかったのか。その点を尋ねてみると、
「冥府に入ると外と連絡が取れなくなるんだ。リアルなら可能だけど、僕は僕の道を極めるためにここにいる、外のことは正直ほんの少ししか把握出来てないんだよね」
肩を竦める姿はいかにも欧米人と言った感じだった。
この土壇場でなんて呑気な、と思うが彼にしてみれば巻き込まれただけだ。しかしなによりも、敵対していないという事実が心底嬉しかった。
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