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トカレストストーリー  作者: 文字塚
延長戦:だったら壊してしまえばいい
198/225

2.佐々木再び2

 最深部中央、ささやかな灯りが揺れている。

 背後だ、私は背後を取られている。

 私に気取られぬよう気配を消していた。

 だが気づいた、私には分かる。


 どうする、もう不意打ちは食らわないが一端距離を取るべきか……。

 一つ深呼吸をすると、ふっと近づく気配を感じ一瞬で前へと飛び出す。同時に振り返りボウガンを構えると人影が見えた。こちらも驚いてはいるがあちらも驚いているらしい。

 人型モンスターか? 何者だ! と声出す前に、


「いや、驚かせてすまない。誰かと思えば随分久しぶりだね、キリア君」


 仄暗い空間に響いたのは北欧の侍、かつての盟友ハッキネンの言葉だった。


 呆気に取られるとはこのことである。なぜラストダンジョンに先客が……声を掛けられてもまともに返事が出来ない。

 あちらはあちらでぎこちなく「気配を消して近づくなど無粋だったかな」と、ばつが悪そうだ。

 いや、そういうことではない。なんでどうしてここにプレイヤーが。そもそもハッキネンは今回連絡が取れなかった。てっきり引退したものだと。


「こんなところで会うとはね。いやあ懐かしい、元気だったかい?」


 落ち着いたのか、ハッキネンはかつてのよう穏やかに話しかけてくる。だがこちらはそれどころではない。


「あ、いやまあボチボチです。連絡取れないからてっきり辞めたのかと思ってた」


 ハッキネンは連絡をチェックしていなかったと主張し、またすまないと謝罪の言葉を述べた。違う、そうではないのだ。


「あのなんでこんなとこに。どうやって、先に入ってたの?」


 この状況、こちらにはいくつか警戒すべき点がある。いつ、どうやって、どこからだ。ラストダンジョンは強制ソロ、その仕様が変更された形跡はない。あくまで裏技的に、ラビーナの協力があって初めて複数の挑戦が成立する。もしかして他にも方法が、結果裏をかかれた……ハッキネンとは今共闘していない。

 隠し立てない警戒心をハッキネンはすぐさま感じ取ったようだ。だが小首を傾げ怪訝な顔でこちらを見ている。


「どうやってって、それはこっちの台詞だね。さすがは異端のヴァルキリーだね。いつからこっちに来たんだい?」


 おかしい、なんの緊張感も感じられない。私の知るハッキネンはあくまで紳士的で、演じるタイプではない。少なくとも私には。ではどういうことだ?


「いつからこっちって、さっきです。ついさっき入ったばかりで」

「ああじゃあ僕が大分先だね。こっちに何か用でも出来たのかい?」


 納得したよう彼は頷いた。何を言っているのだ。


「用なんて一つしかないじゃないですか」


 ややつっけんどんに応じるが、一つではないか……。しかしどこまでもハッキネンには伝わっていないらしい。

「うん?」と思案気な顔をしている。

 これを演技だと断じることが私には出来ない。だって、彼はそんな人では……それとも私の知らないうちに変わった。そして知らないうちに敵対していた……。


「ハッキネンはどうしてここにいるの? そんなこと、絶対あるはずないんだ」


 言い切り問い詰めるよう言葉を放つと、


「いや、逃げ回っていたらここに来てしまったんだよ」


 情けない、と恥じるよう彼は頬を掻いている。


「逃げ回ったって、入口から誰か入ったって聞いてない」

「入口があるのか……崩れた箇所から無理やり入ったからね。幸運だったよ、お陰で助かった。君は入口から入ったのかい?」


 ……なんでこんな噛み合わないのだ。なんでそんな呑気なんだ。私は覚悟を決めて一人孤独に戦うつもりだったのに! だから、


「どこをどう逃げたらここに来るの! そんなことあるはずないじゃない!」


 声を荒げると、


「はは、いや、冥府のモンスターはやっぱり手強くてね。さすがにあの数は相手に出来ない。まだまだ精進が足りないと思い知らされたよ」


 修行中の侍みたいな言葉を返された。

 そしてああ、やはり冥府だったのかとようやく気付かされたのだ。

評価やブクマなど応援ありがとうございます。励みになります。楽しんでいただけるよう頑張ります。

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