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トカレストストーリー  作者: 文字塚
延長戦:だったら壊してしまえばいい
197/225

1.佐々木再び

 翌朝、薄暗い中私達はラスダンの入口に陣取っていた。

 中か外、ラスボスは一体どちらに存在するのか確認せねばならない。だからまた、急ごしらえで集めた三十体のレア、ボス系モンスターを送り込む。目的は相変わらず奴を引きずり出すことだ。

 今回は数は少なく実力も頼りない。それでもこれ以上時間はかけられない。エネさんもラビーナも、ピナルさえ不安から疑問を持っていたが、私は踏み切った。


 一時間もせず彼らが全滅したことで、分かり切った結論が再び突きつけられた。

 中に何かが存在するのは間違いない。しかしラスボスとは限らない。

 しばし沈黙が訪れる。

 堪らず「私が確認しましょうか」とピナルが提案したが、エネさんは首を振った。危険過ぎるという師弟愛もあるだろうが、実際は確認のしようがないのだ。

 だから、


「うん、それはない。もう私が行くしかない」


 はっきりと口にする。

 皆が驚いたのは言うまでもない。


 ラストダンジョンに挑む条件は光の勇者であること。ラビーナがいるので従属する形も取れるが、今回は正攻法を選択する。これは誰かに邪魔させないという意味合いもある。

 深く息を吐き、皆の顔を見回す。


「なあに大丈夫大丈夫、私は最強だから」


 つくり笑顔はきっとぎこちなかったのだろう。皆不安そうな顔色を浮かべていたが、振り切り振り返らず真っ直ぐ入口へと歩を進める。

 暗く吸い込まれそうな闇、これまで挑んだプレイヤー達とは些か違った心境で私はラストダンジョンへと潜り込んだ。

 ラストダンジョンに帰り道はない。退路は断たれた。


「まずは洞窟か……」


 灯りをともし周囲を見渡す。現実にもありそうな大きな洞穴だ。殺風景だがここに何かがいる。そしてそれがラスボスなら、私はもう逃げられない。外部との連絡手段もトカレストの使用上は不可能だ。そしてそいつが本当にラスボスなのか、確認する手段は二つしかない。私が戦死するか、倒してこのクソゲーをクリアかだ。


「なんもいない。光の勇者が来てるのに」


 寂しく独り言つ。少なくとも外にいるレアボスよりは強い何かがいる。下手すれば入口付近に。だからこその緊張感だったが現状は違うらしい。昨日はすぐそこにいたのに。

 気を取り直し歩みを進める。トラップの類は送り込んだ面々が踏み拉いたので恐らく心配ないが、一応スキルだけはセット。ま、そんなヘマはしないだろうが、攻略という意味ではヘマしかしていない気もする。


 外はと言えばちょっとした騒ぎ程度で、どちらかと言えば等々力さんのイベントに注目が集まっているらしい。廃人勇者対最強セイレーン。仕掛け人は大いに満足しているだろう。だが未だに戦死者は出ていない。誰もそれらしいボスを捕捉出来ていない。

 今日を入れて残り二日間、この間に決着を付けねばならない。


 もしかしたらラスボスが外にいるかもしれませんが、正直よく分かんないです。皆さんお気をつけて。


 これでは私や近藤はともかく他が堪らない。

 全く、やること為すこと裏目るんだから。

 何度目かの自嘲を更なる自嘲で覆いかぶせる。


 ラスダンに入る、そう近藤に伝えた時の反応は予想通りだった。

 まだ早い、時間はある。何も慌てる状況ではない――

 違う、そうではない。じゃあ待って待って、本当にそうなった時、あなたは一緒に来てくれるの? とは言えなかったけれど。


 神殿、地底湖、迷宮(真ん中にモンスターがぶち抜いた通り道がある)都市、森林、全て真っ直ぐに進んでいく。

 これがランダムマップか、と思いはするが唯一の成果だろう。結果正直単調だ。そしてなんの反応もない。ホーリーアイも使うが、何一つ反応が感じられない。

 おかしい、元々いたモンスター達はどこにいったのだ。全て外に出たわけではない。例えば大物に駆られてそいつは奥に引っ込んだ。或いは最深部ルート以外の場所に移動した?

 だとしたら探すのは骨だ。


 うんざりだ。ラストバトルの覚悟でここまで来たのに、何とも出くわさないとは思わなかった。とことんダンジョンを探索し回れと? 冗談じゃない!

 というか、もし何もどこにも存在しなかったら、


「ただ出られなくなったヴァルキリーがここにいる……」


 ラストダンジョンは一度入ると脱出不可能である。扱いとしては道中での戦死だから、レベルを半分にされて大量の借金を抱える。


「早まった、早まったのか私は……」


 込み上げる焦燥をよそに、私は突き当りのある空間にたどり着いた。

 つまりこれが最深部。

 ここに何もいなければ――

 いない、何もいない。

 ラスボスどころかレア度の高い化け物の一匹も、何もない。


 静寂がただ流れ、無音が音として響いている。

 嫌な予感はあったが、さ、探せということだよな。そう、最深部にいるのはこれまでの話で私が、ではなく近藤が前提をぶっ壊したのだからここにいなくても何も不自然ではない。

 それでもここ数日の作業と覚悟が空振りに終わった、徒労に終わったのではないか。

 思考が一周回って呆けてしまいそうになる。

 微かな気配を感じ取ったのはその刹那だった。

再び更新再開です。たぶん完結すると思うので応援等々よろしければお願いします。

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