第三十一話:プランA2
以上の事実を話すとメンバーは目を点にしたり、ポカンと口を開けたままにしたり、首が傾いたままになったり、とにかく呆れと驚きがない交ぜになったリアクションを見せた。
心が重い、ずしりと来ている。また失敗した、しくじったのだ。高転びにやらかした。なんでこう私は最後の最後でいつも……しかもこんなに大勢巻き込んで。
「最初からリスクを低くすることを主眼にしていた。別に不思議なことじゃない」
「まさか眠っていたとはね。挑発して誘導するものだと思っていたよ」
私や他のメンバーなどお構いなく、ゼイロと相沢は平常運転である。
「最初から……中で戦う気はなかったの?」
メンバーの中で真っ先にショックから立ち直ったのは、サキだった。不満顔での問いかけは、なんとも悩ましいものだ。
「プランBは中で戦うだけど、最悪放棄するということにしていて……」
「どうして言ってくれなかったの?」
「そうだよ! 言ってくれてたら……」
潜る準備なんてしなかった、とドコちゃんはそこだけ小さく呟いた。それも正直申し訳ないと思っているんだけど……。
「言えなかった理由は明確に一つある」
ゼイロはそう言うと、仲間でもあるドコちゃんに体を向けた。
「情報が漏れた場合ここに他のプレーヤーが来るのは間違いない」
「パーティー会場みたいになってただろうねぇ。仕留めるのは別に俺らじゃなくていいわけだし。便利に使われて馬鹿を見る」
相沢の笑えない皮肉にさすがの神崎も顔を歪めた。言い方ってもんが、と表に出てしまっている。
近[中でやってもいいんです。ただ、引きずり出せれば戦死率も低くなる。失敗してもこの話はするつもりでした。実際、あのド派手な噴出があったのにここには誰も来なかった。不満や不愉快さはよく理解しています。信頼出来なかった俺が悪いんです]
殊勝なことを言う。それに自分が決めたと明言し私をかばってもいる。そういうの要らないのに。けれど、
「ん……まあ分かったからいいよ」
ロナの切り換えは早く、私に目配せまでして納得の表情を浮かべた。結果サキも憤りを抑えることにしたらしい。二人の強い関係が窺える。ドコちゃんもまたゼイロになだめられ、とりあえず怒りの矛は収めてくれた。
「殺人鬼のおためごかしでも効くものだねぇ」
相沢には通じなかったが。
情報が行き渡ると皆それぞれ思うところを口にし始めた。
「そう、キリアさんが戦死するとこのルート自体が吹っ飛ぶ。ラビーナさんも前のあんなのに……」
サキは以前のラビーナを知っているからかなり実感があるらしい。少し思い詰めた顔を見せた。
「ラスボスを運ぶ……しかもすぐそこまでは連れて来れた。で、今もすぐそこにいるかもしれない」
ドコちゃんは怖い顔でラスダン入口を凝視している。
「ここに誰も来なかったということは、連中はもう諦めた?」
俯き加減の神崎は襲撃者について思うところがあるらしい。続けて、
「二人はどこで気が付いた?」
顔を上げ、相沢とゼイロに水を向けた。
「こいつはそういう奴だ。出来ないことなんてないと考えてる。昔から変わらない」
ゼイロは皮肉を込めるが私には響かなかった。考えたのは近藤だ。聞いてなかったのか。相沢はそんな私達を見て、
「さっき言った通りだよ。最初からおかしいと思った。彼女が置かれた立場を思えば、簡単にラスボスに挑もうなんて発想にならないことは明白だ。後は話の流れやモンスターを集めるって部分だよ。誰でも気付いておかしくない」
「そうか、だから連中は来なかった」
「だろうね」
神崎と相沢は情報を結び付け納得のいく答えを見出したらしい。私もそう思う。連中が来ないのは大方予想通りだ。
「ええ、彼らは私の戦死を期待して――」
「ちょっと待ったさっきから君らはなんの話をしてるんだ!?」
唐突にラカンが大声で会話を遮った。目を丸くしているが怒ってもいるらしい。あまりに大きな声なので、目を丸くしたのはこちらもだった。
「なんだよ。この状況を説明しろと言ったのは君じゃないか」
相沢はムッとして不快さを隠さない。だがラカンは収まらない。
「いやそうだけど違うだろう! ラスボスは今どこにいるんだ?」
「さあね。外か中か、或いはすぐそこの入口にいるか、もしくは最深部まで戻ったか。観測しないとどことは言えないね」
「シュレディンガーの猫かよ」
相沢は何を当たり前のことをといった顔で、ゼイロもこの状況か誰かに向けられたものなのか、呆れた表情だ。
「だ、か、ら! 外にいるかもしれないんだろう?」
「そうだよ。なんにしろ確認しないといけない。状況は面倒なことになった」
「むしろ上手く行き過ぎだ。だから事故った」
ラカンと二人は噛み合わないが、
「違うって! 外にいるかもって、戦死者が出たらどうするんだ!」
その雄叫びで「あ……」と、私も含めようやく彼の憤りを理解出来た。




