第三十話:プランA
戦前、私は近藤と話し合いの場を持った――。
「近藤、プランAは無理があるよ」
「ん? そうだな。でも仕方ない」
「成立すると本気で思ってるの? プランBをメインに据えて、プランAはおまけでいいじゃない」
「マジに言ってんのか?」
「いやむしろ近藤が本気なの?」
「当たり前だろう、プランAは絶対放棄しない。むしろ失敗するならプランBを放棄してやり直した方がマシだ」
「みんなになんて説明するのさ」
「あのなあ佐々木、自分の立場をよく理解してるだろ。お前がもし戦死したらこのラビーナ・ガルバルディルート吹っ飛ぶぞ」
「そうなる可能性はあるけどさ……」
「けど、じゃない。まあそうなる。そん時今のラビーナは消え去る運命だ」
「そう、だろうさ。だからガルさんに……」
「ガルさんはお守りだ。お前が中に入ってラスボスと戦えば、戦死する可能性は少なからず高まる。最初からガルバルディ投入がありえない理由も、分かってるだろ」
「ガルさんが勝っちゃうと、ガルさんがラスボスになる可能性が生まれるから」
「そうだ、今より明確な詰みが生まれる。王国相手に戦争する気か? あの化け物相手に粘った騎士団や手下の海軍含んだ連中に、たかがプレイヤーが立ち向かう? ありえん」
「だけどだからって、ラスボスをラスダンから引きずり出すなんて、出来やしないよ」
「そんなもんやってみないと分からん。いいか、お前が戦死したら六英雄の物語、あれに出てくる甲斐田セイレーンの腹に短剣ぶっ刺して逃げたラビーナが残るだけだ。奴が復活するんだぞ、お前それでいいのか」
「よかないよ」
「ラスダン最深部は狭過ぎる。やられた奴らはみんな苛烈な攻撃をしのぎ切れなかった。話によるとせいぜいドーム二個分だろ」
「まあ、らしいけど」
「野郎は高火力で、全方位に対しての連続攻撃持ちだ。硬い挙句に状態異常も効かない。ヴァルキリーのお前がソロで挑まなかったのは、最深部が狭過ぎて博打する気にもならなかった、違うか」
「そうですよ」
「なら引きずり出すべきだ。それからタコ殴りにしてやればいい」
「モンスター先に入れて別行動って言ったら、みんな疑うって……」
「そんなもん同調圧力でなんとかなる。毎日ボスハントで疲労も溜まってるだろう。言いくるめりゃいいんだ」
「んな適当な!」
私は壊れた知恵袋とこんな話をした。全てはこれに則っている。だから今日みんながじっと待っている間――
[今モンスター軍団が入ったよ]
[ん。真っ直ぐ最深部に向かわせろ]
[大丈夫かなあ。中見えないってラビーナが言ってる]
[いいよ仕方ない、なるべく固まって行動しろと言え]
[あーえっとエネさんが、道が二つに分かれててどっちも狭いって。通れそうにないモンスターがいるって。ラビーナは外だしどうしよう、いきなりだよ]
[ああ……そうね、じゃあ真ん中の壁をぶち壊せ]
[……いやそれは無理だろ]
[いけるだろ、イベントボスだぞ]
[そういう問題じゃない!]
[どっちも狭いんだろ? 構わん破壊しろ、粉砕してしまえ。どちらにせよそれしかない]
[そんなことしたら目立つし敵が寄ってくる!]
[何をくだらん。トラップ込みのルートを素直に進む必要なんぞない。真っ直ぐ進め、ひたすら進軍しろ。ダンジョンの特徴は通る道はともかく結局北に真っ直ぐ伸びている、だろ。進め、障害があったらぶち壊せ、破砕しろ]
[……って近藤が言ってます、エネさん]
序盤はこんなやり取りをしていた。実際ルートは踏み拉いて作り上げた。中盤は――
[後から足した三十八匹は、やっぱダメみたい。弱いって。すぐやられるって]
[使えねえな。ならそいつらの回復はもうしなくていい。強キャラに回せ。他は使い捨てろ]
[回復しようにももうMP切れたって]
[役立たず過ぎだろ! 誰も命大事にとは言ってない!]
[仕方ないじゃん現場判断なんだから。モンスターは回復アイテム持てないんだし]
[もういい分かった。とにかく目的だけは忘れるなよ、ラビーナに甘さを捨てろと改めて伝えとけ]
[偉そうに……]
[あん?]
[へいへい、伝えますよ……]
終盤は――
[最深部っぽいって! 近藤、どうする? ホントに来れちゃったよ!]
[おし、なら予定通り死んでもいい奴だけ先に入れろ。ラスボスとホントに最深部かの確認だ。出入りも確認しろよ]
[もう誰か入っちゃったって……]
[何してんだ!]
[ん? おお、これ以上奥はないって。やった!]
[いいぞ、出入り出来るんだな。ラスボスはどうだ]
[あー一匹だけいて、え……ね、寝てる……眠ってる? なんで!?]
[ホントにそいつか、ホントにそいつしかいないんだな?]
[なんかこいつらしいです……]
[はは、見ろ言った通りじゃないか! これなら可能だ、見たか佐々木!]
[んな馬鹿な、ラスボスが寝てやがるなんて……]
[よーし起こすなよ。起こさず出せるか確認しろ]
[起きるよ! 普通起きる!]
起きなかった。奴が目覚めることはなかった。
だからその後は「落とすな、絶対落とすなよ!」とラビーナを叱咤激励していた。片道三時間、計六時間の道のりをずっと応援していたのだ。
ところが最後の最後、入口が近づいた際に異変は起きた。ラスボスは目覚めないが敵襲と謎の存在が近づいている。が、このペースならなんとかなる。七十体のレア・イベントボス部隊は無傷とは言い難くとも健在であり、乗り切れる。ラビーナは自信を持っていたし、司令官役のモンスターも同様だった。なんならラスボスが目覚めても最後は押し切ってしまえる! と。
しかし、言うまでもなく不幸な事故が起きてしまい、全ては水泡に帰した――。




