第二十九話:転進
こいつ、やっぱこいつら……冷たい汗が今にも噴き出しそうだった。
「なんの話だ?」
ラカンは食いつくがゼイロも相沢も取り合わない。空気がドンドン悪くなる。けれどゼイロの発言は核心を突いている。信じられないが、こいつらは把握しているのか?
[近藤、話したの?]
[まさか]
[エネさん!]
[いえ何も……]
それで気付いていた。いや気付いた?
[勘のいい奴らだ。別に気付いててもおかしくない。で、エネどうなんだ。ダメか]
やはりそうなのかと私も思う。しかしエネさんは再び沈黙した。妙な間が出来る。空気を割いたのはやはり相沢だった。
「そう、リーダーに一つ提案がある」
「……なんです」
「私的なメッセージのやり取りを禁止してもらいたい」
当然だろ? という含みのある言い方だ。こいつ、まるでザルギインのようなこと言いやがって。この手の奴は本当に嫌いだ。ムカついたが、ラカンがまた割り込んだ。
「いやそれよりなんで答えてくれない? 君は来るぞと言った。防御しろ、手を出すなと。クリードさんにも注意していた。何が起きるか知っていたんだろう?」
「いやだから重要なのはそれじゃないんだ」
相沢の言い分に、
「じゃどこだよ!」
ラカンが切れた。突然のことで驚いたが、
「えっとですね」
さすがにまずいと咄嗟に口を開く。けどなんて言えばいい。私が口ごもるのを見て、相沢は元の調子を続ける。
「最初からこの話はおかしい。どうして誰も疑問を持たない」
「最初なんてどうでもいいんだ。だろう?」
神崎はジタバタするラカンを抑え、
「揉めるつもりはない。みんなそうだ」
どこまでも大人の対応を見せた。立派なものだ……素直に感心するよ。それでだろうか、少しだけ心の整理がついた。
取り繕うこともない、もう誤魔化せない。エネさんが言えないということは、結論は決まっている。そして相沢とゼイロは既に次を見ている。信じられないが想定していたらしい。認めたくないけど、計画の立案に参加した私よりこの状況を把握している。
[俺が話そうか?]
[ありがとう近藤。いいよ私が話す。エネさん補足があればお願いします]
返事はなかったが話を進めなければ。この状況は放置出来ない。
「相沢さん、理解しているならあなたでもいいんだ。ゼイロさんでもいい」
神崎は調停役を買って出るが、
「俺が? いいの? というか一部始終見てたのに?」
相沢は取り合わない。あえてわざとらしく「ふー」と一つ深く息を吐く。
「あの今何が起こったか、ですよね。説明します。すいません私がやります」
そうすると、張り詰めた空気が少しだけ収まった。
皆の視線が私に集まる。
相沢は見下すように私を見て、ゼイロは酷く冷めた目を向けてくる。
「結論から言います。失敗しました、申し訳ありません」
深く頭を下げる。
「いや、何が失敗したの?」
先程まで切れていたラカンが呆けた顔を向けてくる。皆似たような感覚だろう。
「送り込んだモンスターは全滅しました。ですよね、エネさん」
全滅? という囁きがどことなく起きる。少し間があって、
エ[はい、信じられないことに。ラビーナさんはそう言っています]
「そこまで来てたのに」
相沢は信じられないと言った顔で、嘲笑った。というかこれいる? みたいに。
「なんで全滅、何そこまで来てたって……」
サキは戸惑い、
「ん、あんたら何してたの?」
ロナは疑念の目を向けてくる。視線は痛いし心も痛いが構わない。
「さっき噴き出して来たのがなんなのか正確には分からないんです。ただ敵であり、得体の知れないものが入口に近づいているのは分かってたんです」
「なんで? いやまあそうか。ん? けどやっぱなんで?」
ラカンは混乱を隠さない。
シンプルな問いかけがとても重い。出来るなら言いたくない……言いたくねえよ! でもそれは出来ない。意を決し口にするんだ、私が言わねば――
「ラスボスがすぐそこにいたからだ」
仮初リーダーとはいえ、覚悟の程を……と思った矢先、ゼイロに取られた。
一同さすがに衝撃を受けたらしい。私にも違う意味で衝撃的だ。二人を除いたメンバーの頭に「!?」と浮かんでいるのがありありと見える。私の「え? ゼイロ? 何してくれてんの?」という戸惑いなど誰にもさっぱり気付かれていない。横取りすんなと言えないもどかしさ、この間の苦悩はなんだったんだ。驚愕のラカンが、
「いや何故そんなことに……って、もしかして今もすぐそこにいる!?」
指摘すると、皆入口を凝視した。
「さあねぇ。だから言ってるじゃないか、中なのか外なのかって」
冷ややかに相沢は告げる。冷や水をかけてくれたことに今回ばかりは感謝しておこう。




