第十九話:「タイマン、神速、死者の想い」
ついに近藤へ敵が襲い掛かった。次々と襲い掛かる死霊の群れが……吹き飛ばされていく。いや、弾かれている? あつっ! 何?
不意打ちに驚き魔法使いを見ると、雷撃の呪文を唱えているのが確認出来た。あ、あの野郎サンダーで焼き焦がそうって寸法か!
不意打ちのプロに不意打ちたあやるじゃないか……私も負けずツインボウガンを放ち、弓を取り出し間合いを計る。睨み合い。私も確かな態勢で撃ちたいが、魔法使いも同じ考えらしい。死霊なのに、なんて冷静なんだ。
背後でまたバンッ! という打撃音が響いている。近藤は一体何をしたんだ。目で確認出来ないほどのスピード。いや、今は集中だ。この魔法使いを仕留める!
が……ダメだ、こいつ動かない。一発撃って動かすか。動いていないなら的としては理想的だが、詠唱の隙を狙いたい。けど、もう詠唱は終わってる。しかも溜め込んだな、何発撃ってくる。雷撃と炎の塊抱えてんのが丸見えなんだよ。
真っ当な一対一、しかも相手は魔法使い。初めての経験だ。撃つ、仕掛けないと近藤のライフが持たない。回復もしに行かないといけない。
覚悟を決め、弓矢を放つと同時、雷光が走る。迎え撃たれたか! お互いの攻撃が交差する。私はすぐさま走り出し位置を変えるが、そこに炎が飛んできた。予測ずみだ! 全てを仕舞い手ぶらの状態で軽くなっていた私は、炎を交わしてすぐさまボウガンで威嚇する。その隙に近藤の元に走りこみ回復薬を手渡そうと……近藤はどこだ?
姿は見えないが、敵が吹き飛ぶ姿だけは確認出来る。バンッバンッっと打撃音がする度、敵が飛ぶ。ふっ、とした瞬間近藤が姿を現した。元の位置から一歩も移動していない。けどふらふらで、足下もおぼついてない。視線の危うさどころか、まだ首の座っていない赤子のような不安定さ。ライフも激減して死にかけじゃないか! すぐさま回復薬を手渡し、追加分もまとめて渡そうとしたが、近藤は受け取らずまた姿を消した。声だけが聞こえる。
「行け、仕留めて来い。狙われてるぞ」
振り向くと氷の塊と風の刃を抱えた魔法使いがそこにはいた。これをかわし、仕留めるか!?
「あまりいい送り方してやれんで申し訳ないが、こっちも背水の陣なんだ。せめて黄泉に送ることしか出来ない」
そうだな近藤。この人たちを解放してあげないと。腐霊術から、救ってあげないと!
「ランニングシューズ履けよ。格好気にしてる場合か」
……忘れてた。ワンボタンで蛍光色の入った靴へと履き替える。よし、これでスピードアップだ! 履き心地も最高だぜ! 見た目はともかく勝ちに行く!
同時に、考えた方も転換する。この二つの魔法に付き合った後――踏み込んで近接戦闘に持ち込む! 遠距離で真っ当にやりあうより、相手の苦手な至近距離の攻防に持ち込む! アーチャーだと舐めるな。銀の短剣は飾りじゃないんだ! シューズもスリットもな!
「お前だ、お前の一撃が重かった……お前だけは、依頼を置いて許さん。名乗れ騎士野郎。俺は近藤、ウォーリアーだ」
[……フォリナー……私は聖竜騎士団所属、姫の護衛を勤める騎士フォリナー……ここは、どこだ……お前は、誰だ、私は、なんだ]
やはり騎士。しかもガルバルディさんの部下。声だけ聞き取り、再び魔法使いと対峙する。弓矢を構え、照準を定め先に仕掛ける。氷の塊と弓矢が激突。バリンッと音を立てて氷塊は砕けた。
ボウガンを手に取り駆け出す。形だけ構え狙いも定めず威嚇の一発。風の刃はつられたように放たれたが、明後日の方向だ。狙い通り! その懐に入り込む! 突如転進し、真っ直ぐ突進してくる私に魔法使いは杖を身構える。あんた殴り合いしたことあんの? 私は、子供の頃よくやった!
「言い残すことはあるか」
[団長を頼む……団長を、隊を頼む……]
二人のやり取りが、微かに聞こえる。
「そいつは無理だ。怪物団長の向こう張るって野郎は俺じゃ相手になれない。所属する部隊も俺の手に余る。他にないのか」
[申し訳ないと……ただそう思う……何故止められなかった……私はこんなことのために……申し訳ないと……まだ戦えるのに……]
「伝えよう。聖剣士殿に、間違えなく伝える。思い残すこともあるまい。あの世で国の平和と繁栄を祈れ」
取った! 懐に入ったぞ魔法使い! 杖の一撃はまるでなってない! かわすまでもなく地面に激突している。短剣をその胸に突き立てる。人間相手で多少気が滅入るが、これしか助ける方法がない。助かる方法がない!
魔法使いは苦しそうにうずくまるが、まだとどめには至らない。しぶとい、所詮私の短剣の一撃はこんなものか! なら、もう一発!
「カバディ……カバディ……」
目を逸らし、短剣を喉元に突き立てる。嫌だ、これは見ていられない! 思わず大切な短剣を手放し離れてしまう。これが生きた人間なら私はただの殺人鬼だ。罪悪感と焦燥感に襲われる中、魔法使いは笑みを浮かべていた。効かない! いや……。
[手を煩わせた……辛い思いをさせてしまったようだね……戦場に君のような美しい女性は似合わない……ああ、楽になれた、皆、息災で、私は先に逝く……]
嬉しくないよ! どうすりゃいいのよ! 近藤、この人最後に意識取り戻した! 私聞いていられない!
「カバディ! カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ!」
振り向くと、かつて玉座の間だった場所に無数の近藤が舞い、妙な言葉を連呼していた。死霊騎士と無数の近藤が、激しい戦いを繰り広げていたのだ――。