表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トカレストストーリー  作者: 文字塚
最終章:壊れいく世界の中で
186/225

第二十五話:当日3

 相沢がいなくなると、神崎とラカンが再び足を運んで来た。


「あいつは何が言いたかったんだ?」


 ラカンが首を捻ると、神崎は溜め息を吐きながら応じた。


「最後の最後NPCに頼るのが気に入らんのだろう」

「いや、もうイベントボスにまで頼っているではないか。というかラビーナ嬢もNPCだ」


 まあそうだが、と神崎はまた溜め息を吐き視線を寄越してきた。私を見られても相沢のことは分からない。一つ気がかりがあるとすれば、


「打ち合わせはしました。スケジュールも決めました。ただ、複数人での戦闘に不安は残ります」


 みんな手の内隠してるし。神崎は小首を傾げ、


「つまり手落ちがあるのが気に入らない?」

「どうでしょう、言いたいことはありそうでしたが」

「言外に気に入らんといった風ではあるが、そもそもそういう奴だったような気もする」


 ラカンはそうして思案するような仕草を見せる。同意見だけど、それは口にしないことにした。二人を見て神崎は、


「いいよ、裏切るような真似をしなければそれでいい」

「あると思うか?」


 これには私と神崎が首を横に振る。近藤とやるつもりがあるなら話は別だけど、得るものがない。何か違う動機があればそれも変わるが、にしては分かりやす過ぎる。謎だ。

 神崎とラカンは改めて戦闘の打ち合わせをしてくる、と離れていった。忙しない人達だ。それでも、私も何か違和感染みたものを覚えた。

[近藤、どう思う]

 私的なチャットで尋ねると、

[ん?]

[今の相沢だよ。あの人裏切ると思う?]

[悪い見てなかった]

[なんで?]

[イベント中だから、かな]

 何やってんだこいつ。

[イベントって当日に何してんの!]

[仕方ないだろ、これでも見習い騎士なんだ]

 初耳過ぎる、というかそんなこと関係ない。

[いつ見習いになった! いいよそんなの辞めてしまえ!]

[無理だろーガルさん待ちでずっと騎士団に張り付いてんだぞ? やる気のある志願者と勘違いされてもまあ仕方ない。そもそも誘われてたし]

 いやでもそれは拒否……しにくいか。

[仕事はしてよ]

[わーってる。てかな、裏切るんならラビーナを狙うはずだ。それ以外にもう阻止する手立てがない。俺じゃなくエネに言え]

 それもそうか、というか聞いてたのか。

[で、そのイベントいつ終わるの。何してるの]

[簡単なモンスター討伐だよ]

[大丈夫、それ]

[騎士団舐めんな。王国の治安を守らないとガルさんそっちに送れないし、さっさと済ませるよ。心配すんな]

 へいへい、とやり取りを終わらせる。確かにここで王国が揺れたら動けないか。しかし、騎士団のことは嫌いだったろうになんか楽しそうだ。


 ただ待つ、というのは苦痛だ。しかしここで根負けするわけにもいかない。苦心して集めたモンスター達は、先遣隊としての役割を果たしている最中なんだ。

 トラップを剥がし、敵を駆逐し、ルートを確保する。そうして、我々はなんのリスクもなくラスボスにたどり着く。上手くいきさえすれば……。

ラ[我慢だ]

神[辛抱だ]

 自分に言い聞かせるよう、チーム内のチャットが動く。

ド[暇だし、お弁当作る]

ヤ[手伝う]

た[試食する]

 意味のないやり取りも生まれる。

 それでも待つしかない。ラビーナからゴーサインが出るその時まで。

 もういっそ、という声が出ても不思議ではなかった。試しに誰か、なんて意見を言いたくもなるだろう。しかしゲーム内時間で五時間を超えると「どんだけ長いランダムマップなんだよ」という空気が生まれる。

ラ[集めて良かった]

神[苦労した甲斐があったな]

ド[みんな大丈夫かな]

ヤ[大丈夫だってさ]

た[観てあげられないのが残念]

 彼らに労いの言葉をかけてやれれば、少しは報いてやれるだろうか。モンスターだけど。

 そうしてまた、待つ時間が流れる。目立つので場所を変え、他の仲間がいる場所へ移動したり、銘々時間を潰していた。


 そうしてゲーム内で六時間が過ぎた――。

[キリアさん、そろそろです]

[分かりました]

 エネさんから報告が来て「よし」と拳を握りしめる。

キ[みんな、準備して。そろそろだってさ]

ラ[おお!]

 皆の反応は早かった。戦う準備はとっくに済ませている。心の準備が終われば、始められる。

 いつの間にか相沢が戻り、それぞれの場所からラストダンジョンへと向かう。ここからはもう見られても仕方ない。クリードがいる場所で合流し、最後の戦いへと赴く。

 一人また一人と視野に収まり、集団に膨らむ。チームらしい光景だ。また人と組むことになるとは。強制ソロに抗う者達……元は旅団の面々が追いつくと、昔を思い出し少し感傷的にもなった。以前に組んでいた、様々な個性を持つ人達の顔が浮かぶ。

 切り換え皆の表情を窺うと、気合いや緊張、或いはやる気。色々な感情が読み取れた。相沢だけは、人を舐めるような視線をこちらに寄越してきたが、目が合うとお互いゆっくりそれを外していた。

 思うところがあるのかもしれない。それでも、気に入らなくとも、皆クリアしたいのは間違いないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ