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トカレストストーリー  作者: 文字塚
最終章:壊れいく世界の中で
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第十話:佐々木加奈の失態

 ここからの話は出来れば、という次元を超えかなりしたくない。だがそうもいかない。二度はない、これっきりだと腹を括り、深く息を吐く。


「ここからは、死ぬほどくだらない話だ。あまりにくだらないので、何度も話すようなことじゃない。だから一回しか話さないし、手短に済ませる」


 唇を噛み、あー嫌だと凹んでも、案の定か返事はこない。

 まあいいさ、期待してなかったし。


「あなたに拒絶された後、私の前には重い選択肢だけが残された」


 ――ラビーナに逃げられた。ハイパー脱兎を超える速さで、あの娘は消えてしまった。もうどこにいるのか見当もつかない。だが、オーブは本物だ。間違いなくラビーナを人間に戻すことが出来るし、ラスボス戦でも使える。

 ラスボスは恐ろしく堅い。通常のやり方では微々たるダメージしか与えられず、高火力攻撃でも効果は薄い。クリティカルを出した六英雄はいるが、方法は判然としない。挙句攻撃は苛烈。休む暇もない。

 オーブはどちらかを抑制するものと推測出来る。或いは両方、もしくは弱点を作り出す。可能性の世界だが、何かあるのは間違いない。だがこのオーブ、恐らく一度しか使えない……。ありえないことを可能にするものが、二つとあるはずもなし。

 決断出来なかった。


 ラビーナの物語、そのキーパーソンは実のところ、私だったのだ。

 エコ贔屓インチキ最強ヴァルキリーは、トカレストに唯一存在する物語の、鍵となる存在でもあった。ガルさんとの関係を考えれば不自然ではない。あの優柔不断なおっさんに助け舟を出せるのは、聖竜騎士団お墨付きの転職証を有する私以外に誰がいる。

 それでも保留というワードが頭を過ぎる。

 だが、一度勇者を廃業すれば順番待ちが発生する。

 何よりここで決断すべきだという思いがあった。

 チンタラ長引かせるようなことか?

 私にとって大切なことは、最も大事なことは……。

 最強ヴァルキリーとしては断然クリア。

 ゲーマーとしては物語を終焉へ導く。


 ちゃんと話し合いたくて、私はラビーナを探した。あの娘が居そうな場所を飛び回った。けれど、ラビーナはもうどこにもいなかった……。私は最初で最後のチャンスを逃してしまったのか?

 光の勇者でいられるタイムリミットは、刻一刻と迫っている。

 気がつくと、追い詰められた私の足は、王国へと向かっていた。

 ラビーナの居場所を正確に把握し、捕縛などいつでも出来ると豪語したガルバルディに接触。事の顛末を洗いざらい話し協力を仰ぐことは出来ないかと考えたのだ。だが、ガルさんがいるであろう王都には行けなかった。彼の本心が読めない。ガルさんは本当に何を考えているのか分からない。そして背後にはラビーナの父親、王がいる。

 内乱終結の立役者、後見人でもあった枢機卿殺し。魔王への従属から反旗に次ぐ反旗……ラビーナの行状はあまりに重い。頭おかしいんじゃないかと言いたくなる。

 結局私は、王都から遠く離れた僻地、北西の大草原で、一人佇むことしかできなかった。


 オーブを手に取り、クリアしたい……ラビーナを人間に戻したい……不毛なクソゲーと不毛な物語を終わらせたい。心底思った。しかし、どちらかだ。この選択は、絶対にひとつしか選べない。

 一人草原で佇んでいると、気が重くなり悲観的なものへと変わっていく。それから開き直るよう、冷静さが前に出でくる。


 そもそもラビーナは、人間になど戻りたくない。

 そもそもオーブの力を借りたとて、ラスボスに勝てるとは限らない。


 冷静になったところで無理だった。こんなの決断下せない。たったひとつしかない貴重過ぎるアイテムを使っても、確定した結果が得られる保証なんてどこにもないのだ。もう保留でもいいやという思いが、パンクしそうな頭を辛うじて鎮めていた。

 私は大の字になり、空を仰いだ。

 その日、私の気持ちとは正反対に空は澄み切り、真っ青な空には雲ひとつ見当たらなかった。

 周囲では、息を吹きかけただけで倒せてしまえそうなボールアルパカが、呑気に闊歩している。こんな雑魚がいるとこにまで戻って何してんだと自嘲し、アルパカの群れを見つめていた。ボールのように転がり、ボールのように跳ねる彼らを見て少しだけ癒されたかもしれない。

 何より晴天だった。ポカポカ陽気だった。一頭のボールアルパカが近づいてくると、攻撃もせず私の隣で丸くなった。元々丸いのに、丸くなってる。可笑しくなって、気持ちが和らいだ。


 本当にいい天気だった。

 昼寝するには絶好のコンディションだった。

 頭も心も疲弊している。

 どうすればいいのだと、どうにも出来ないじゃないかと。

 もうクタクタだ。

 私はゆっくり睡魔へと導かれ、ボールアルパカを抱きしめながら、目蓋を閉じていた。

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