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トカレストストーリー  作者: 文字塚
最終章:壊れいく世界の中で
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第七話:陣容

 不快な感触が掌から伝わってくる。これは苔か?

 遺跡の中は完全に朽ちていた。

 パネルには「忘れ去られた遺跡」というシンプルな名称が浮かんでいる。構造は迷路のよう。とはいえ、エネさんが下調べしてくれたお陰で、迷うことなく進める。

 表では戻った近藤、そして行動を共にしていたメンバーが合流している頃か。となればあいつは今、質問攻めにあっているだろう。

 先程の光景は、ある種小気味よかった。一方で調子に乗り過ぎだとも思う。だが、伝えることは後回しだ。そもそも顔合わせたくないし。帰りを待たず潜ることに、怪訝な顔をする者もいたが、不満があるわけでもない。早いに越したことはないのだ。


 遺跡は下へ下へと続いている。

 潜るという表現がぴったりだ。


 通路は決して広くない。何より視界が悪い。暗闇はライティング系で解決するが、それでも死角がある。しかしエネさんは難なく戻ってきた。私でも問題ないだろう。進みながら、表の会話に意識を割く余裕もある。近藤の奴、あのやり口をどう説明するつもりかと思っていたが……。


『こりゃひでえ。アホだろこいつ』


 あまりに素直なゼイロの感想が、全てを集約していた。


『脅迫か……確かに近藤君は身元を晒している。けどこれ、下手すりゃ法に触れるね』

『下手すりゃじゃなく、普通にアウトじゃない?』


 相沢、ドコちゃんの見解は、私と同じものだ。私も近藤に送りつけられたメッセージに目を通し、説教する気が失せた。あのシーフは一線を越えてしまっている。これじゃ何されても仕方ない。クリードも呆れて零す。


『自宅がどうとか、家族がどうとか、夜道に気をつけろとか……ゲームとリアルの区別もつかないとはね』

『スペシャルコースを提供されるわけだ』


 そう言った相沢は、皮肉な笑みを浮かべていることだろう。シーフが近藤に直接送ったメッセージは、完全な脅迫文だ。だからあんな形になった、というわけでもないだろうが。


『あいつはあの中でも、相当下に見られてたんでしょう。そういう役目を背負わされていたのかもしれません。結果は大して変わらなかったと思いますが』


 淡々と応じる近藤を、


『近藤さんって敬語で喋るんだ。意外』


 ドコちゃんは不思議に思ったようだ。さっき敬語使ってたんだけど、嘘くさく感じていたのだろう。


 話は一つ先へと向けられる。さて、これからどうするのだと。私は潜り続けるので関係ないが、話だけは聞いていた。遅れて合流したメンバー達も、事情を把握し納得している。案の定か、呆れているようだ。内通者は不満を持っているかもしれないが、今更どうしようもない。

 しかし、新たに合流した四人……中村屋はどうやってコンタクトしたんだ。というか、なぜ来てくれた? トラップに注意しながらも、引き続け耳を傾ける。


『さて、キリアさんが上手くやるのは当然として、先の計画について話していこう。興味深いが、近藤氏の能力は後だ』


 聴こえてきたのは、神崎というプレイヤーの声だ。いかにもインテリっぽい風貌、真っ白な修道服に古びた杖を携えている。初見で、ハイプリーストになるべくしてなりました、そんな感想を持った。


『うむ。交渉がうまくいけば一気に進む。話し合おうではないか!』


 続いてラカンが口を開く。赤い光沢のある魔導着に身を包み、縁なし眼鏡をかけている。マッシュルームカットが、なんとなくゲスに見えるのはなぜだろう。


『話は早い方がいいに決まってんじゃん。そもそもうちら抜きでやったら暴れてるから』

『ロナちゃんやめて……みんな気にしないでね。私も聞きたいし、もう話すってことになってるんだよね?』


 嗜めたのはサキという女性。ショートボブの茶色い髪はとても綺麗で、控えめなパステルカラーのワンピースは足首を隠すほど長い。少し丸い顔がとても愛らしく、ちょっと羨ましく思ってしまう。

 一方ロナと呼ばれたプレーヤーは、オレンジ色に染めたツーブロックのベリーショト。上は緑と黄色のチェック、下はカーキ色のパンツ。ビビットカラーが目にうるさく、かなり個性的だ。彼女はサキの言葉など無視し、


『始めてよ』


 近藤を急かしている。マイペースな御仁だ。少し間を置いた後、あいつは素直に応じた。


『そうですね。話は単純です。ただ手順が面倒で、それが問題でして』


 さて、問題があるのは誰だろう。

 私の中に、不思議な感覚が生まれている。

 私自身、近藤、エネさん、ピナル、今回集まったメンバー。

 そして後から合流した面々……彼らはとても、とても有名だ。


 メンバーは四人。

 そして、元は六英雄のチームメートである。

 甲斐田セイレーンと共にラビーナと戦ったあの三人組。

 ロナと呼ばれる女性は、ファーストナイトの次にラストダンジョンに挑んだ、ディーバだった女性プレーヤー。


 この事実を知っているのは私と近藤と、エネさんだけだ。

 豪華過ぎる陣容が、奇妙な不安を運んでくる。

 ここまで揃ったことを素直に喜ぶべきなのか、それとも……。

[キリアさん、それレアモンスターです]

 唐突なメッセージが眼に留まり、はっとして周囲を警戒すると、更にメッセージが飛んできた。どちらもエネさんからだ。

[今潰した虫みたいなの、レアモンスターです]

 潰した? 何を? ふと見れば、左拳の側面にべっとりと何かが付着していた。


「で、でかい……」


 が、原型がない。けどなんかハエっぽい、勘弁してよ。というか、いつの間にやったんだ……。

[勘がいいのは悪いことではありません。けど、集中しましょう]

[すいません、以後気をつけます……]

[アイテム拾うの忘れないで下さい]

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