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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第六章:前夜
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34.夜明けに向かって4-王国の謎2

 やはりそうか……ずっとおかしいと思ってたんだ。どうして捕縛も殺害もしないのか。ガルさんの実力なら簡単に出来ることなのに。


「けどな加奈、この話はもう意味がないんだよ」

「どうして」

「時間がない」

「待って、王国の人間関係を把握しろって言ったのは近藤じゃない」

「それは時間があればの話なんだ。ガルさんが無理だった時、所詮ホワイトナイトに過ぎない俺より、ヴァルキリーである加奈の方が交渉に向いているかもしれないと思ってたんだよ。クロスターやザルギインにしてもそうだ。俺はあいつらを知らん。話し合いになるかすら怪しいだろ」


 違う、そうではないんだ……私は自然と下唇を噛み締めていた。問題はそこではなく……。


「近藤、あんたは知らなくて当然なんだけど、私おかしいと思ってたことがまだあるんだ。ラビーナと仲良くなって、話してておかしいと思った。あの娘は父親やガルさんの話はほとんどしないんだ。避けてるというより、まるで興味がないみたいに」


 私の話をうまく呑み込めないのか、近藤は戸惑い気味な仕草を見せた。構わずに続ける。


「王国についてラビーナが話すのは、大抵枢機卿の話なんだよ。父親でも、にっくきガルバルディでもなく、もう死んで、殺してしまったファウストリア枢機卿なんだ」


 言い切ると同時、近藤の視線がすっと落ちるのを私は見逃さなかった。すかさず畳み掛ける。


「母親の記憶はないんだから仕方ないとしても、これっておかしくない? 近藤、枢機卿ってどんな人なの? 一体王国で何があったの? 近藤のルートはラビーナのいない王国の物語だ。けど、そこにラビーナの陰は必ずある。あんたなんか知ってんじゃないの?」


 本気の姿勢、質問攻め。そんな風に詰め寄ると、近藤は珍しくも逡巡する姿を見せた。やはり何か知っている……。ラビーナに関わる件で知らないことがあるのは困る。もし隠しているのなら、不愉快と言ってもいい。

 今一歩間合いを詰めると、近藤は小さく両手を挙げ、いかにも面倒はごめんだといった態度ながら、諦め顔を見せた。


「わーったよ。つっても俺が知ってることに大した話はないし、加奈の疑問に答えられるわけじゃないからな」


 どうだか。疑いの眼差しを向けながら、私はまた近藤の話に耳を傾けることになった。



 ――近藤はドン・ファウストリアを知らない。我々が会った時には既に死んでいたからだ。

 そんな彼は、元々騎士であったらしい。とある弱小貴族家に仕えるお抱えの兵士。彼自身は貴族ではなかったが、騎士の称号は持っていた。ミニステリアーレ、奴隷騎士のようなものではないかというのが近藤の解釈だ。

 そんな彼に波乱が起きた。仕えていた貴族家がお取り潰しの憂き目にあったのだ。なぜそんなことが起きたのか……。

 それは三代前のレンベルク王による、貴族家への締め付け政策によるものだった。肥大化し力を増す諸侯に、当時の王家、シュタウハー家は警戒感を抱いていた。そして、王権の強化を目的に、貴族家の弱体化を図る事態となった。

 自然、王家王族と貴族家は深く対立する。

 これがレンベルク王国、内乱の始まりとなった――



「ドン・ファウストリアってのは偽名というか、騎士を辞めてからの名前だ。元々はフラン・フィッツラルドとかいう名前だったらしい。職と身分を失ってから、彼がどういう経緯で海賊に身を落としたのかは分からない。ただ、シュタウハー家に恨みを持っていてもおかしくはないだろうな」


 シュタウハー王家に恨みを持つ男……そして内乱の結果。正当な後継者はラビーナだけとなり、その娘はもう人ですらなくなっている。

 そんな……これじゃ、


「完全犯罪じゃないか!」


 興奮し声を荒げると、


「死んじゃったけどな」


 物凄く冷静な指摘をされてしまった。



 謎が謎を呼んでいる。迷宮がおいでと手招きしている。

 だが、近藤は私をなだめるように時系列で整理し始めた。


「ファウストリアが仕えていた貴族家が取り潰されたのは、まだ内乱が激化する前の話だ。そもそも彼はいち海賊に過ぎない。長い内乱の中心は常に神竜騎士団だった」

「でも、最後に勝ったのはドンじゃん!」

「ドン・ファウストリア猊下が勝つにはガルバルディの存在が絶対だ。お前はガルさんも共犯だと言うのか?」


 考えたくはないが……今となればそれだってありそうだ。いやしかし、これでは……。


「それに父親のミリアンもいなきゃならない。内乱はラビーナが生まれる前から起きてるんだぞ。十年以上やらかしてるんだ。ファウストリア猊下が真犯人だとは言い切れないよ」

「じゃあ共犯……」

「その線はあるかもしれない。けど死んでしまった。一方神竜騎士団は事実上生き残ってる」

「王家を根絶やしにすることだけが目的で……だから後見人に……」


 つい、思いつきが口に出た。

 自陣営の正統性を主張するまでラビーナは殺せない。だが、内乱が終結すれば用済み。いや、けどそれじゃガルさんと婚約した意味が分からなくなる。いや違う、ガルさんが断ることを端から計算していれば……。でもそれだと、ラビーナを守るために死んだあの人はなんだったんだとなって……。

 一体どういうことだ? 何が起きている?

 悩み考え込んでいると、諭すような声が耳に入ってきた。


「まあ、シュタウハー家の敗北だけは間違いない。ただ誰がどんな役割を果たしたかなんて、俺は知らないし死人に口はないよ」


 全ては闇へ。あらゆるものは可能性の世界に過ぎず、結局何があったかなんて分からない……?

 まるでパズルだ……ピースはあるが、どこにはめればいいのか分からない。


「んなことよりこれからのこと考えろよ。大忙しだぞ」

「それはそうだけど……」

「一応手はもう考えてある。大体いけるはずだ」


 大体かよ。と、言ってやろうかと思ったが、今の我々に確定された手段なんてない。それに、私は今混乱しているから乗るしかない。

 けれどやっぱり、重要なのはそこではないと思うんだ……。

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