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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第六章:前夜
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26.薄霧の真相3

 あの時あの場所で、何が起きていたのか――。

 ピナルは我々三人と城を出ている。

 残ったのは等々力さんだけで、あの娘は人質のような形で連れ去られた。最後の最後、事が収束する段になって、私はようやく理解した。ピナルを炙り出すのには手間取ったが、それ以外はまるで、シナリオでも用意されていたかのように事は進んだ。理由は単純で、共犯者ともいうべきフェルハがいたからだ。

 彼女は、近藤の限界と危険性の両面を見抜いていた。結果、この状況をしのぐのは至難の業であり、協力した方が無難と判断したのだろう。

 だが彼女は責任者ではない、決定権がない。

 では誰が責任を取るのか? 責任者はいの一番に退場させられた。そこで彼女は、仮の責任者を仕立て上げることにした。それから近藤とフェルハは、共犯関係として延々、一人の人間に状況を理解させようと腐心していたのだ。

 この気の毒な役割をあてがわれたのは、実務を取り仕切るハーマスである。近藤が求めたのは権限の接収だが、要は金だ。財務を取り仕切る彼以外に適任者はいない。しかし彼は、責任など取れない。

 だが、そんなことはどうでもよかった。「責任を取る」と言わせればそれでいい。事が滞りなく進みさえすれば、後のことなど知った話ではないのだ。

 彼がどうなってしまうかは気になるところだが、重要なのは、近藤に屈したのは一臣下に過ぎないハーマスであり、王家ではないということだ。全ては形式的なものであり、たった一週間の災難をどうしのぐか、それが全てである。

 時間はかかったが、ハーマスは状況を理解し、損な役回りを引き受ける決断を下した。その際、彼はひとつだけ条件を出している。懇願にも近いものではあったが、


「口外は無用のこととして欲しい」


 当然、近藤もフェルハも異論を挟むことなどない。

 そうして全てが、丸く収まった。

 あの時あの場所で起きたことだけは、全てが収まるところに収まったのだ。

 たったひとつ、ピナルを除いて……。

 城外に出た後、私は近藤に事の経緯(いきさつ)を確認している。もちろんピナルを外し、二人で話し合うつもりだったが、なぜか無視され、あの娘も同席する羽目になった。結果、ピナルは姉の行いを全て、把握してしまっている。


「あのAIは利口だ、呑み込みが早い。だが、小娘までは頭が回らなかったみたいだな」


 こんな近藤の言い草まで、ピナルは耳にしてしまった。ゲームに関わる点は理解出来ないだろうが、あの場で何が起きていたか、詳細に知ってしまったんだ……。



 エネさんの視線は、大広間へと向けられていた。

 相変わらず、なんともいえない複雑な表情を浮かべている。

 あの時あの場所にいた誰もが、ピナルがこんな目に遭うとは考えもしなかっただろう。実際、フェルハの青ざめた顔は本心であると、私は思う。事を荒立てず嵐が過ぎ去るのを待つ。これが、彼女に出来る精一杯の役割だった。だからピナルは、人質としての認識で連れて行かれたんだ。

 だが……実際には違う。

 それはフェルハもピナル自身も、我々すらも気づいていなかった。

 気になって、私はエネさんに尋ねた。


「あの、それでピナルはどうするつもりなんですか?」


 憂鬱な顔をしていたエネさんだが、これには間髪入れず返答があった。


「僕に何をしろと? そもそも僕を頭数に入れていること自体、おかしいじゃないですか」


 心底不愉快だと顔に書いてある。ごもっとも至極なり。

 そもそも彼は急に呼び出され、何も聞かされず着いてきただけらしい。つまり、近藤は一連の計画をエネさんには伝えていないのだ。エネさんに相談したのは、トカレストのメインにおいて誰が最強候補であり、クリア出来そうなのか。そんな、かなり限定されたものだったようだ。

 にも関わらず、仲間の如く扱われては迷惑千万。

 当然だろう。

 ところが近藤は、そんな不満を一顧だにせずエネさんに告げた。


「お前元々魔術師だったよな。とりあえずこのガキ仕上げとけ」


 そしてピナルには、


「俺に勝てたら自由の身。それまでは駒だ」


 付け加えると「"逃げたら城から人がいなくなる"」とも言われているので、事実上あの娘に選択肢はない。悪魔。ピナルの零したこの一言は、正確であり性格を見事に表している。


『もういい、下がれ……』


 大広間から、酷く疲れた声が聞こえてきた。兄と妹が理解し合うことは出来なかったらしい。仕方のない話だ。ピナルは俯いたまま、王族の揃う上階ではなく、階下へと向かっていた。


『しかしどうする……表のあれは軍隊をぶつけねば、勝てん。たった一人に軍隊。ありえん、もし敗れでもしたら……』

『……強くなるから、強くなってあいつを……!』


 それぞれの思いは胸に秘められたまま、一応の決着を見たようだ。



 翻って、件の等々力氏はどうか。

 城門前では散発的な戦闘が続いていた。しかし、特に派手な動きは見られない。唯一目を引いたのは、一斉長距離攻撃ぐらいだろうか。多少頭を使えば誰でも思いつくアイデアだが、全て跳ね返ってきたのは想定外だったろう。

 エネさんは近接最強とは言っていない。地上戦最強と言ったのだ。残念ながら並の飛び道具や魔法攻撃は、廃人勇者に通用しない。

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