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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第一章:トカレストストーリー
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第十五話:腐霊術師と聖剣士4-真相

「こんどおー! もういいぞ! 事情は分かった、殺るぞ!」


 玉座の間に私の怒声が響き渡る。青白いオーラはどんどんと膨らみ、姫君の殺意の高まりと共に私達の恐怖心をかきたてる。しかし、

[まだ早い。もうちょっと待て]

 チャット欄にそう表示された。近藤からだ。なんでだ! まだ何か足りない要素があるのか! 向こうだってやる気満々なのに! そんな不満が高まる中、近藤が大声を出した。


「そこが分からないんだよなー男の俺には! なんで王宮生活が嫌なのかな! あちらにおわす将軍閣下ではご不満かね! なら、形だけ籍いれりゃいいだろ! なんでそれが出来ない!」


 なんでそんな大声で、もっと声量下げろよ。思わず耳を塞ぎたくなる声量だ。


『玩具に言って何が分かるの! 屑が! 一番醜い姿にしてあげるわ! 一生私の玩具にしてあげる!』


 姫君の怒りと殺意は明白だ。けどそれはこっちの台詞だくそ女が!

 だが、それでも近藤は首を振って私を止める。なんなんだ! なんでそんな冷静でいられるの! 卓球部だから? 卓球部ってそんな精神力鍛えられるの! 我慢比べなスポーツなの!


「言えよ、聞いてやるよ。どうせ誰もお前の話なんて聞いちゃくれなかったんだろ、王宮じゃ。冥土の土産に聞いてやる、言って楽になれ」

『は! 何格好つけてるの。そんなもの、私は政争の道具じゃない! 私は玩具じゃない! 右から左へ貢物じゃないのよ!』


 やっぱり、ほらね近藤言った通りでしょ。プライド高いのよ。かなり歪んでるけどそういう奴なのよ。しかし姫のその心の叫びに対し、近藤は冷淡だった。


「ただ、それだけか。つまらん!」


 言うなーいいぞ、もっといったれ。それだけか! 私も後ろから加勢する。


『何にも分かってないのね、あんた達。死ね』


 姫が明確に戦闘モードに入った。開始だ! しかし近藤は戦闘態勢に入らない。何してる、死ぬぞ!


「だから分かるように説明してくれよ! とち狂ってる人間の内心ってのを教えてくれよ!」

『ははは、くっくっくっ……あんた面白いわね! とち狂ってるのはどっちかしら!』

「全的にそっちだね!」


 そうだ! 私はまた加勢する。お前がおかしい!

 姫君――いや、今や腐霊術師となった女は、呪術の詠唱を始めている。口元は動かないのに声だけ聞こえてきた。


『いいかしら、所詮こんな婚約、お父様……陛下、いやあの男が恐れて考えただけものよ! そこのガルバルディが怖くてね!』

「んなこた知ってる! だからなんだ!」


 そうだそうだ! 私は加勢を怠らない。というか今何も出来ない。


『どれだけ恐れていたか分かる? いつか自分は殺されるんじゃないか、そう怯えていたのよ! そうして第一王女の私を貢ぐことで、押さえ込もうとしただけ! この意味分かるかしら!』

「分かるね! 政略結婚なんてそんなもんだ! だからなんだ!」


 近藤、分かるけどやっぱなんでそんな大声出すのさ。それに、第一王女って、何? 長女? つまり、次の王様ってこともあるの? 私は二つ疑問が浮かび、ちょっと首を傾げた。


『あの男は私に、自分が一番恐ろしい存在を押さえ込めと命令したのよ! これでも分からないの! なんで私が、そんな恐ろしい存在と一生添い遂げないといけないの! そんなに怖いなら自分がいくらでも頭下げればいいでしょう! 私の恐怖心はどこにあるのよ!』

「どこにもないね! 笑えるぜ!」


 マジうけるー笑えるーっていや、ちょっと笑えない。そんなにこの聖剣士さんは怖い存在なのかな。今真っ白な廃人でニート以下の状態なんだけど……。


『私は――王になんてなりたくなかった。これが答えよ!』


 明確な自白が取れた。この子、跡継ぎだったのか。だとしたら、ガルバルディさんが婿入りするってこと。いや、そうするとちょっと考え方変えないといけない。私は入り組んだ複雑な事情を頭の中で整理する。だが二人はさらに罵りあうように言葉を交わし続ける。


「ああやっと分かった。つまりお前、責任を背負いたくないんだな」

『私は王族の身分があれば充分。その男に一生怯えて媚びてなだめる人生なんて真っ平だわ!』


 やっとピースが埋まった。私の考えは基本的に合ってる。ただし次の王様、女王様だとは思わなかった。この娘、自分の父親がどれだけ怯えて王座に座っていたのか理解していたんだ。そして、その恐怖心の対象、その存在の一番近い場所に座り続けろと命令されて切れた。他にいい人とか、そういう話ではなかったのか。


『くだらない! 何もかもくだらない! 私は自分の足で歩く! 全て自分で決める! 何も恐れない! 誰にも強いられない!』


 真に心の奥底からの叫びだった。一方私は、自分の中から徐々にファイティングスピリッツが失せていくのを感じていた。可哀想、なのかもしれない。私なら、私ならどうしただろう……。


「――ただの、わがままだな」


 近藤の突き放した言い草に、思わず顔を上げる。いや心通わせるためのものではないとは分かっている。だけどそれは少し違うんじゃないだろうか。彼女の言い分にも一理あるんじゃないのか。私は既にそっちに傾いていて、直接意見したくなった。


「こんどー交代ー私にも話しさせてー」

[断る。黙ってみてろ。俺のターンだ]

 返事はチャット欄で返ってきた。なんだ! 俺のターンって! ずっと俺のターンってか! そんなこと許されると思うのか!


「あなたご自分の身分をお分かりになっているんだね」

『今更、くだらない! それもこれも、全部くだらない!』


 なんだ、何か気配を感じる。何の気配? 腐霊術……何を蘇らせている! やばいよ! こうなったら……残念だけど意味がない! 私は我慢ならず、玉座に向かっていこうとした。


「自分で選んだ、自分は正気だと、言いたいわけだ」

『当然。で、あんたが死ぬのも当然。あんたが選んだ、お前自身が選んだ!』


 詠唱が終わった! 近藤まずい、私は走って近藤へと近づく。近藤、なんで戦闘モードに入らない! いや、これ以上姫を追い詰めないで! 私も一発殴ったら気がすむから!


「それがどんな影響を持つのか、分かってやってるんだな」


 ボウッ! という不気味な音色が響き、青白い炎と共に人影が浮かび上がる。多い! これが腐霊術! これが、姫の力!


「近藤もうやめて、あんたの言いたいことは分かる。私だって言いたいことはあるさ。けど、これは説得出来る話じゃない。分かり合って、ただそれだけしか出来ない話なんだ。他人をどうこうは出来ない! 頭じゃ理解は出来る、ただそれだけ!」


 近藤の肩を強く掴んで、私はそう言った。他人を変えることは出来るかもしれない。でも、出来たとしてもそれは時間も手間も、もっと言えば愛情だっているものだ。動機がはっきりして、これだけ自我の強い彼女に、説得は意味がない。どれだけ悪い選択でも、それを変えるのは無理だ! 

[時間ギリギリなんだ。ここが正念場。邪魔すんな]

 だが、近藤はまだチャットで応じる。


『一つ目、従者はどこ? だったかしら、今ここにいるわよ!』


 青白い炎が消え去ると、死霊たちの顔がはっきりと見て取れるようになった。騎士の姿が見える、魔法使いもいる。姫お付きの女中の姿……姫にはこれだけの従者が。その数、三十人はいる! いつの間にか囲まれている!


「近藤、攻略! 戦い方! 今はそれだけ考えろ!」


 私はもう姫から目を離していた。それどころではない!

[キーワード探してるんだ。最後のチャンス]

 まだチャット欄! キーワード? 何だよそれ!


「では、この選択で国が滅んでも、致し方なしと、そう言いたいわけだ」


 だが姫から返事はなかった。もう完全に戦闘モード! そりゃそうだ!


「こんなことして国内外にどう説明する。統治機能が麻痺するぞ。王族が、魔王の下僕になったなんてな!」


 ズズッ……そんな引きずるような音を立てて、亡霊たちが距離を詰めてくる。


「こんどー! いい加減にしろ! 目を覚ませ! 姫に惚れたか! 言葉じゃ意味ない!」

「戦争が起きても仕方ない。つまり、人命などどうでもいいと言いたいんだな! 内乱だけじゃない、国内が揺れれば外敵すら招きかねない! 王族に生まれついたからにはそれなりの自覚ってもんが必要なんだよ! 飾りが嫌なら、自分で権力手に入れてみろ!」

『言いたいことはそれだけ? さあ、始めましょう……ちょっとした宴ね、変えてあげる、あなたの人生。玩具にね!』


 ダメだ! 本格的にダメだ! 近藤も溜め息をついている。諦め遅い! ここ勝たないと、借金生活だよ! 高額の医療費払えない!


「これで最後だ。あんた一つ嘘ついてる。なにも恐れない、だっけな。明確に嘘だね」

『――私は何も恐れない、事実よ。そのためにここにいる!』


 くそ、二人とも戦場で敵と戯れるな! もう私はそう叫びたかった。同時に違和感も感じ取る。姫はまだ近藤に付き合うのか? いつまで続けるのだ、会話してるなんておかしいよ。「やっぱこれか……」そんな中、近藤が呟いた。どゆこと?


「いいや、嘘だね。事実魔王がここにいない。それが証明してる」

『……言いたいことがさっぱりね。頭の悪さ、隠せてないわよ』


 キーワード、魔王。キーワードは魔王なのか? 姫は頑なに魔王について言及しない。魔王とは言わない、何故? 私は二人の顔を見比べるが、何も読み取れない。そんな最中でも、近藤はさらに言及する。


「では簡潔に。魔王はそこの将軍閣下、聖剣士ガルバルディを恐れている。だからここにいない。逃げたんだ」


 え? 私は声を出し、一瞬頭のスイッチが切り替わってしまった。いや、戦闘中に気を抜くなど、通り魔の異名が泣いてしまうのだが……。けど、姫の表情は何? 追い詰められている? いや、傷ついている? 怒りも感じ取れるけど、なんでそんな悲しそうなんだ。だが、それを見た近藤は声を張り上げた。


「その顔、ビンゴだね。つまりこーいうことだ佐々木! 魔王は姫に、聖剣士の始末を命じた! それが魔王に近づく条件! なぜなら、聖剣士は姫を傷つけられない! しかしそれが証明するものは一つ、魔王がそれだけ聖剣士を恐れているってことだ! 同時に、こいつは……また押し付けられたんだよ! 自分の庇護者(ひごしゃ)に、恐怖の対象をな!」


 なんて馬鹿げた話。でもそれが、姫の逆鱗に触れ、同時に一人の男を蘇らせた――。


『殺せ! 殺す! 図に乗りすぎだ下郎がっ!』


 近藤は微笑を浮かべ、


「いんやもう無理だ。そうだよな"将軍閣下"」


 そう告げた。二人が振り返ると、


「……ああ、そうだ。そうなるな。君達は、退きなさい」


 燃え尽きていたはずのガルバルディが立ち上がり、その衣装を青白く染めていた。その姿は、勇壮であり剛健に見えた。

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