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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第六章:前夜
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20.策謀8

 いっそ、全て話してしまうというのはどうだろう? フェルハは神たるロウヒとは違う。だが、トカレスト世界という視点なら、危機感は共有出来るかもしれない。実験的な要素は強いが、それは今だって変わらない。


「なんのため……ね」


 呟いた近藤は、またぞろ白けた表情を浮かべていた。どうも、説明することに意味がないと考えているようだ。それでも、やってみなければ分からない。話の流れから、最低でも相当な額が手に入るのは間違いないだろう。しかも、相手が納得した上でだ。


「そうです。申し訳ありませんが、どうしても金銭が目的とは思えません。我々に恨みがあるわけでもない。そして"一時的な接収"……意味が分からないわ」


 当初、フェルハは髪を濡らすほどの焦りを見せていた。それが次第と冷静になり、いつしか近藤を見下ろすまでになっている。彼女は「違和感」と向き合った。近藤という違和感と向き合い、導き出した結論は"交渉相手として組し易い"と推察される。どこで見切ったのかは分からない。だけれど、本質的には当たっている。


 我々は"絶対にこの国でなければならない"と、考えていない。


 今や王族、そして国家の代表者として振舞うフェルハから、戸惑いを受け入れる真摯さが見て取れる。他方、相対する近藤は――


「言っても分からんよ、言うつもりもない。どうしてもというのなら、個室でいかがかな?」


 ダ・メ・だ・こ・い・つ……死ねばいいのに!

 せめてもの救いは、むかつく視線や口調ではなく、どこまでも白けていることぐらい。失敗しておいて、どういうつもりだこの馬鹿は!


「残念です。しかしそうですね、聞いたところで我々に出来ることは変わりません。無用なことは、しない方がいいのでしょう」


 近藤のセクハラを受け流しつつ、フェルハは同時に重要な事実も提供してくれた。

 彼女は、彼女達は絶対に変わらないと――。


 気がつくと、なぜかこちらが追い詰められていた。

 私は未だピクリともしない、廃人を極めたゲーマーを見る。

 等々力さんには悪いが、ここまでか。今一度作戦を練り直し、ここではないどこか別の国で再チャレンジ。残念だが、仕方がない。一言も発せず、チャットにも参加しない彼の表情を窺おうとしたが、フードを被っていてはよく見えない。一体どう感じ、何を考えているのだろう。

 視線を戻せば、卓球馬鹿はつまらなさそうに、女は格調を感じさせる佇まいで向かい合っている。これでは終わらないと、王族たる女性が先んじた。


「出来るだけのことはしましょう。だから無意味なことはよして下さい。それから、時間をいただきたいわ。すぐに対応出来る状況ではないのです」


 内容は敗北宣言だが、姿勢は堂々たるものだ。なんだか、金額はともかく、チンピラがあしらわれているように見えてきた。


「ハーマス、農園は構いません。それよりも、大切なものがあるでしょう?」


 この人は譲らない。大したものだ、いつの間にか主導権を握ってしまった。


「はあーあ……う、ううん!!」


 わざとらしいため息と咳払いが、大広間に空しく響く。近藤も失敗を認めるか。根本的な作戦の見直し。いや、ある程度は成功した。近藤が遊んでいなければ、恐怖心から成功したかもしれない。私はかなり疑わしいと見るが、限界値がどこにあるか、一つデータが取れた事は確かだ。要分析といったところか。


[近藤、ここらが潮時だね……]


 変化は、そんなメッセージを送った次の瞬間に起きた。


「いやいや、なかなか大したもんだ。優秀じゃないか、感心するよ」


 朗らかな好青年が、爽やかに声をあげていた。そういえば、素の近藤はあんな感じかもしれない。が、中身は負け惜しみ……ああ、いとかなし。アサシンと言えど、万能でなし。後で説教してやるか……偉そうに言って、ったく。


「違います。ただ、あなたが恐ろしいだけ」

「いやいや、んなこたないさ。全く、大した"AI"だ」


 AI……それ、意味ない。いまさら何言ってるんだ。さっきチャンスがあったのに。この手のキーワードはロウヒにしか理解出来ないんだって。もう一人挙げるとすれば、レイスは当てはまるかもしれないけど。案の定、


「よく分からないですが、とにかく時間が必要です。理解していただけていましょうか」

「ああ、完全に理解した。その上で、こちらから二つ案を出す。どちらを呑むか決めてくれ。それ以外は存在しないので、心して聴いていただきたい」


 これは、とても嫌な予感がする……そう思い、


[すいません、傍観者の私が意見するのもなんなんですけど、さすがに、殺人は許容外です。等々力さんには申し訳ないんだけれど……この人達は敵じゃないですし]


 そんなメッセージに、


[はあ、ええまあ。でも見ましょう。本人が出来ると言って始めたことですから]


 エネさんはそう、簡単に言ってのける。しかし、事が起きてからでは遅い。近藤は一瞬で片をつける。そうなったら元も子もない。それとも、エネさんには許容出来るというのか? ジリジリとした気持ちが湧き出る中、フェルハが声を上げた。


「……分かりました、聞きましょう。ただ"一つ忠告しておくけれど"出来ないことは、口にしても仕方がないわ」


 きょとん、というのはこんな感じだろうか。

 思わず声をあげそうになった。フェルハが忠告? なんだ、何言ってんだ。いくら見透かしたと言っても、挑発含みの発言はまずい。それぐらい彼女には分かるはずだ。自分だって、ピナルを煽る近藤に、同じことを言っていたじゃないか? 今にも着火しそうな火元に、火薬を放り込んでどうする。おかしい、やっぱ彼女何かおかしい。

 そして、当惑する私の耳に、聴きなれた男の声が入り込んできた。


「当然。んなこと知らないのは、子供ぐらいのものだよ」

「そうね。そう、あなたは――」

「やめとこう。それがどうか、実際確かめてみればいいんだ。利口なあなたになら、分かっていただけるとは思うが」

「……ありがとうと、素直に言える気分ではないわ」

「そう。ま、一つ見落としてる気がせんでもないが、結局確かめりゃすむ話。だから二つ案を示す。二択だ」

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