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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第一章:トカレストストーリー
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第十四話:腐霊術師と聖剣士3-説得

 賭けは成立した。説得自体は無理そうなので、アリバイ作り、情報を引き出せた方の勝ち。勝ったね、近藤にこの昼ドラ展開を攻略出来るわけない。少女マンガ、昼ドラ、さらに少年マンガも愛読するこの私に盲点などないのだ。姫にも近藤にも全部吐いてもらう。簡単なことだ、造作もない。近藤が手を差し出していけよと示してきた。


「佐々木からどうぞ」

「いいの? じゃ遠慮なく。あとでノーチャンスだったから今のノーカンとか文句言わないでよ」

「言わないよ。一つだけ、いきなり戦闘は勘弁してくれ」


 はいはい、と返事して、私は胸を張り玉座へと向かった。

 そうして近づくと分かる、青白いオーラに包まれたこいつ、この女ただ者ではない。それにやっぱり年頃は似たようなものだ。さらに目の前まで近づくとその顔をはっきりと確認出来た。美人だ、目元のくっきりとした……これは相当美少女設定だなあ。よし、丁寧に、馬鹿丁寧にと……。


「姫君、お初にお目にかかります。お迎えに参りま――」


 そう口上を述べようとした瞬間、遮るように言葉が飛んできた。


『何、その格好、ダサッ』


 呆気に取られ戸惑うが、美少女は止まらない。


『ねえ、何で足下だけ蛍光色なの。あなた、虫?』


 ブチッ! 人が忘れてた要素を! 誰が虫だ!


『その靴、夜道を徘徊する老人用かしら。お似合いね』


 ブチッ!


『ねえ、コーディネートって知ってる。知らないか、知らないからそうなってるんだものね。頭わる』


 ブチブチブチブチブチブチッ!

 私は玉座に背を向け弓を手に取った。そんな最中も容赦のない言葉が飛んでくる。


『教えてあげようか、あなたに何が似合うか。雑巾ね、雑巾まとうといいわよ。凄く似合うと思う、私がコーディネートしてあげる』


 殺す!


「近藤、ブループラネットぱなすからちょっと時間稼いでこい!」


 全開だ、理屈じゃねえ。許さん、殺す。ブループラネットの威力をとくと味わうがいい!


「つまり俺の番ってことでいいんだな?」

「さっさと行ってさっさと失敗してこい! 射抜く! 殺す!」

「佐々木、お前沸点低すぎだろ」


 近藤はさめざめとそう言って、玉座へと向かっていった。そうして、躊躇うこともなく声をかける。


「どーも、初めまして姫君」

『は? 誰アンタ? 気安く声かけないでもらえる、この勘違い野郎』

「いやいや誰って、通りがかりのウォーリアーとでも言えばご満足いただけるのかな」


 あんな言われ方してなんてフランクな。でも近藤もういいぞ、準備出来た。もう撃てる、そこどけ、射殺す。身体中穴だらけにしてやる!


『ふん、ねえ何その格好、気持ち悪っ。通り魔みたい』


 血染めの近藤を見て、女は見下すように言った。大体合ってるけど、格好に何か言わないと気が済まない設定なのかこの姫は? なんにせよ、殺す!


「おお、正解です。素晴らしい。通り魔とはよく言われる。しかし着替える暇もなくこんな格好で、無礼だったかな。眼球野郎を潰してたらこうなってしまってね……」


 それ、事実だけど必要? 玉座の前の女が、警戒心を高める様子が見て取れる。青白いオーラが広がり、戦闘モードにいつでも入れると伝わってくる。これが殺気という奴? 上等、こいよやってやんよ!


「いやいや話し合いに来ただけでやるつもりないんで、椅子もらえますかね。聞きたいことがあるんですよ」


 殺るつもりしかない私には無駄なやり取りだ。さっさとしくじれ、近藤。後姿を睨みつけ、私は暴れ馬のような状態になっていた。早く殺らせろ!


『話すことなんてないわ、そもそもアンタ誰?』


 話し方と雰囲気がまるで一致しない。あの年で妖艶にして絶大な存在感、この子一体なんなんだろう。幽玄さに乱れはなく、それでも警戒心を最大に高めたまま女は近藤と向かいっている。


「多少話す気になってもらえましたかね。私は王国より依頼され姫君救出の任務を任された人間。そう言えば分かってもらえるでしょう」


 二人のやり取りを聞いて私は口を尖らせた。ちょいちょい嘘が混ざっている。依頼者はそこのガルバルディさんで、依頼内容も捜索で救出じゃない。何せ状況がさっぱり分かっていないのだ。でもまあ、もうそんなことどうでもいい。ああ、プループラネットぱなしたい。頭越しに撃ったろかしら。


『ふーん、そう。なら、無駄足ね。あなたが探している人間はここにはいないわ。意味ないし、もう帰りなさいな。死にたいのなら別だけれど』


 女はそう言うと、自分だけ玉座に腰掛け近藤を立たせている。一部の人間にはご褒美かもしれないが、とんだ格差プレイだ。


「そう簡単には帰れないんですよね。報告書出さないといけないんで。もう金ももらってるし、手ぶらで帰るわけにもいかない」


 まただ。報告書なんて知らない。お金も一銭ももらってないぞ。


「簡単な質問に答えていただければ、それでおとなしく帰りますよ」


 近藤はそう言って片手をひらひらと振っている。簡単なことだと強調したいのだろうか。ここからだと表情が見えないので分からない。


「ではまず一つ目」


 一つで終わらせろ。そもそもその女答える気なんてないだろ。私はギリギリと弦を引く。


「――ご従者の方々は、どちらかな」


 すっと玉座の空気が冷めた。近藤の問いに、空気が変わったことが感じ取れる。どうしたんだ? 女の表情はよく見えないが、動揺したのか?


「おかしいんですよね。我々が聞いた話だと姫君は従者の皆さんと出かけたと聞いてる。けどどこにもいない。いたのは……死霊ばかりだ」


 何が言いたいか分かった。カマをかけている。私達は従者の存在を知らない。だが、もしかして……もう死んでしまって。私は手に汗を握った。やはり、色々許せない。


「二つ目。ここの主、魔王さんは、どちらかな」


 玉座の間に漂う雰囲気がずしりと重いものに変わった。揺さぶられてる、あの女が? あまりの明確さに私が揺さぶられているようだ。どうして? そんな大した質問とは思えない。


「三つ目。自分がやっていることを、自覚出来ているのか。以上です。答えてくれれば帰りますよ」


 近藤は軽い声でそう言った。いや、私は帰らない。ぱなして熟れて潰れたザクロのようにしてやるんだ。こいつだけは許さん。


『答えないと言ったら?』


 妖艶さや幽玄さより、やや人間くさくなった女がようやく口を開いた。


「答えていただく。仕事ですので、宮仕えも楽じゃない」


 近藤はどこまでも気楽な雰囲気を演出している。でも、学生です二人とも。そいつ卓球部です。


『なら、殺した方が早いのかしらね』


 にっ、と私は笑みを浮かべた。そう、その方が早い。ガンガンいける、近藤だってあくまでアリバイ作りをしているだけだ。分かりやすい展開だ。だが近藤はまだ食い下がる。


「軽々に結論は出さない方がいい。こちらは宮殿内の死霊をあらかた片付けた。で、眼球野郎はもう潰れてどこにもいない。舐めてかかると怪我ではすまない」


 大嘘つき。逃げ回ってただけだろ。仕方なく二体成仏させて、ビッグ・アイ含めても計三体しか始末してない。近藤の二枚舌ーなんか私にも嘘ついてんじゃないのか? より人間らしく見えてくる女が高笑いと共に言い放つ。


『それは脅しのつもりかしら。笑える、脅しになってないわよ!』

「いやいや、事実ですよ。脅しねえ、そういう発想はなかった。けど脅しだというのなら、私の質問三つ、全てがそれに当たる。ご理解いただけてないのかな」


 近藤は手を後ろにして組んでいる。軽く切れてる腐霊術師とは対照的だ。


「やはり、あなたご自分の立場がよくお分かりになってない。今ならまだ間に合う。改心して、城に戻れ。それで丸く収まる」


 近藤の命令口調に、女は明確な怒りと昂ぶりを見せた。そりゃそうだ、一応一国の姫君、だと思うし。というより丸くおさまらねーよ! 私は許さんぞ! 勝手に丸く収めるな!


『ねえ、あなた殺されるのと――死霊となって私の玩具になるのと、どっちがいい。選びなさいな! 選ばせてあげるわ!』


 気迫だけで玉座の間が震えた。私はそれを受け止めたたらを踏むことすら拒絶する。なかなかいい悪役っぷりだぜ、殺りがいがあるってもんだ! もーさすがにいいだろ近藤、その女は改心しない。私が断言する。それは、そういう女だ! いっそ声をかけようとしたが、近藤のアリバイ作りはまだ続いた。


「どちらも断る。質問に答えろ。で、よく考えろ。自分の立場、置かれている状況をな。こちらはやる気はない、そう言ったろ」


 挑発したいのかなだめたいのかどっちなんだ。近藤は何がしたいんだ。私はいい加減いらいらしてきた。なんだか肩透かしを連続で食らっているようだ。微妙にだけど精神的にくる。


『――あなた、見栄張るもんじゃないわよ。私はアンタなんて知らない。宮仕えなんて、嘘でしょうに。ただの傭兵風情が、図に乗るのも大概にするのね!』


 気迫に嫌悪感が乗っている。近藤への嫌悪感か。でも言ったことは合ってる。けど、それじゃあ自分が姫であると認めた? ちょっと待って近藤、認めてしまったら話がややこしい。確信的姫殺しになってしまう。事故的だと言い訳出来ない。墓穴掘ったかもしれないよ。少し迷う私に対し、意外にも声が飛んできた。


『やるつもりはないとか言ってるけど、後ろのあのダサい女は何? さっきから発情した犬みたいに昂ぶってるじゃない。笑える、やるつもりなんでしょう!』


 キレタ。コロス。コンドウ、ソコドケ。


「ああ、あのすらりとした若い女ですか?」


 近藤はそう言って、私を指差した。まるでのほほんと、状況などお構いなしの顔だ。けど近藤、あんた、あんたそんな目で私のことを……もっとアピールしていいぞ! 言ってやれ! どんだけスタイル抜群か! 近藤は私の希望通り続けた。


「彼女スタイルだけじゃなくて頭も利く。有能でね。大方の組み立ては彼女がやった。でなきゃこんな説得していないんですよ、姫君」


 こんどおぉぉぉぉ! お前、私の価値をそこまで理解していたのか! スタイルだけじゃないよね! 知ってたよ私。けどはっきり言うなんて、近藤褒めてやるよ! 私がDQN48の総選挙で一位になった暁には、お前に握手券20枚やる! 一緒にアイドルマイスターになろう!


『馬鹿にしか見えないんだけど? ああいう馬鹿が、好みなの。美的感覚死んでるわね、お前』


 はしゃいだ自分に冷水ってか氷水かけられた。この姫……悪、即、斬。射殺す。必殺の奥義食らえ。その青白い顔ぐちゃぐちゃにしてやる。


「やっぱそう見えますか。見た目はそうかもしれませんが、そうでもないんですよ」


 ブループラネット、準備完了。目標、近藤。


『お似合い。二人して玩具にしてあげる、気持ちの悪い馬鹿ップルの人形にしてあげるわ!』


 虐殺フラグ立った。二人とも殺す。


「やめとけ、もう言わない。自分の立場を理解しろ。大人しく投降するならよし。なかったことにしてやる。でなきゃ最悪の結果が待ってるぞ。城に戻って大人しく結婚しろ。マリー・アントワネットでも気取ればいい。別に偽装結婚でもいいだろ、宮廷内で好きなだけ男遊びしろ」

『誰が戻るもんですか! 偉そうに何様気持ち悪い! 男遊びがしたくて、こんなことしてるんじゃないわよ!』


 そうなの? でもね、もう遅い。不意打ち・辻斬り・通り魔が私のやり方。正義・友情・虐殺が私の三原則。イ・コ・ロ・スが私の四大哲学。逃がさん、狼だ、私は狼だ! その喉笛噛みきってやる!

※ノーカン=ノーカウント。今のなしという意味。使い方としては「今の俺のシマじゃノーカンだから」などに使われる。負け惜しみの一種。

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